53、ジャム
ここに来る前から大いに期待してたけど、グリム男爵領は美味しい!
交易港と比べればどうしたってこじんまりして見えるものの、十分立派な漁港が隣接していて、悪天候でない限り毎日、新鮮な海の幸が水揚げされる。
嬉々として刺身を食べることも、私がこの領に快く受け入れられた理由の一つ。
まあ、よそ者には中々ハードルが高いだろうからね。
私が輿入れしてきた初日も気を使ったのだろう、メインには魚のソテーが用意されてたのだけど。
「よろしければお試しください」って、酢漬けと昆布締めがほんのちょっとずつ供された。
無理はしなくていいけど、できるならこの街の味を好きになって欲しいってそんな思いが伝わってくる。
フフフッ、刺身だってバッチコーイ、むしろ積極的に食べたい私だ。
遠慮なくパクリ。
「エクセレ~ンッ!」
行儀を忘れて天井に向かって吠えた私に、さすがの海賊男爵もビクリッ。
かまわず料理人を呼んで握手を求めた。
「なんてありがたい心遣いなんでしょう。そしてまた調理の腕が素晴らしい」
その時、私はまだ知らなかったのだけど、このジャムという筋肉モリモリの熊のような男は大変なシャイボーイで、特に異性を前にすると何も話せなくなってしまうのだとか。
思えばこの時も真っ赤になって、ひたすらブンブンと頭を縦に振ってたな。
「……妻よ、そのくらいで。せっかくの料理の味が落ちてしまう」
あれってジャムへの助け舟だったんだ。
さらにジャムがどんな人かまわりの使用人に訊いてみると、料理に妥協はしないけど、気はやさしくて力持ちを地でいくような性格だそうだ。
だから、もう少し味を薄くしてくれとか、量を増やしてくれなんて要望にも即こたえてくれる。
もちろん貴族である雇い主から命じられたら否は言えないわけだけど、嫌々したがってるか、快く応じてるかはけっこうはっきりわかるものだ。
こんな感じの料理を作ってくれ、微調整や仕上げはお任せでなんて無茶を言っても、想像以上に仕上げるんじゃないかと期待していた。




