51、朗読
今度は羊皮紙を山ほど持ってこさせて、いざ翻訳!
ペン先を自分で削るとなったらキレそうだけど、羽根ペンって柔軟性があって意外に書きやすい。
ただ、インクがなかなか乾かないんだよなぁ。
吸い取り紙、ほしい。前世、映画で見たような砂でもいいんだけど、あれって何でできてるんだろう?
まあ、右から左へ書く言語じゃないし、結局、乾くまで放っておけばいいって話になるんだけどさ。
せっせとサイモン文字の候補を描いてたせいか、ある程度私の頭にも刷り込まれてたみたいで、すぐに対照表がなくても訳せるようになった。
あとは子供向けの教本でよかったよぅ。
一ページの文字数がだいぶ少ないから。
「まだインクが乾いてないから気を付けてね。あなたは、サイモンと一緒に間違いがないか確認を……いえ、そうね。サイモン、あなたがお父様に読んで聞かせてあげるのはどうかしら?」
「う、うん。はい」
緊張気味に紙面に向かったサイモンだけど、最初はたどたどしく、でもすぐにすらすらと読み上げる。
やばい、涙で視界が。
なんとか、一ページ目を彼が読み切る前に二ページ目を仕上げて、あとは必死。
丁寧にかつ素早く、かつ間違いのないように。
ぬぉ~、負けるものか。あの月末を思い出すんだぁ!
敵なのに恩情をありがとう教本……十二ページでしまいだなんて。
やりきった感いっぱいで顔を上げると、マックスは尊いものを見るように息子を眺めていた。
あれだね。小学校の授業参観で、我が子が作文を読んでる時の顔。
「サイモン、素晴らしいわ」
「ああ、よく読めていたぞ、サイモン」
二人して惜しみない拍手を送る。
「ありがとう、本当にありがとうございます」
サイモンは儀礼に則ったにしては深い深い礼をして、しばらく顔を上げなかった。
鼻をすする音がして、でも、そう時間をかけずに顔を上げる。
鼻は真っ赤だけどね。偉いぞ、男の子。




