44、団らん
サイモンは一冊の本を膝の上に乗せて、緊張気味に待っていた。
本の背を握りしめる指が白くなってる。
「待たせてしまったわね」
「いいえ、大丈夫……お気遣いなく」
「はぁ~、やはり我が家はよいものだ」
どさりと椅子に掛けたマックスの姿勢は最初から崩れている。
まあ、息子がお行儀よくしようとがんばってるのに!
でもまあ、彼は彼でがんばった……行きの馬車の中で、ずっと予行演習をしていて、その通りいやそれ以上に役割をこなしてみせたもの。
それでも、ちゃんと息子の様子には気付いていて、親子水入らずだとかなんとか言って、お茶の用意が済めば使用人はすべて下がらせてる。
「そんなに疲れるほど遠い、ですか。王都は」
「お父様のそれは気疲れよ。今回は第一王子殿下の誕生記念パーティーに出席して、仲良くしてくださった方も少なくなかったけれど、ずっとあら探しをされていたから。貴族って執念深いのよね。まさか殴って言うことをきかせるわけにもいきませんし。でも、あなたのお父様は立派につとめてらしたわ」
「そう、ですか」
「いや、クレマンティーヌの助けがなければ、それは酷いことになっていただろう」
「そう言っていただけるとうれしいですけれど、私が自信を持って行動できるのは、やはりグリム男爵という後ろ盾あってのことですわ。この国ではまだまだ女の地位は低いですもの。こんなに女の私の言葉に耳を傾けてくださる方は稀だと、日々感謝しておりますのよ」
「仲いいんだ、ですね」
「まあ……わるければ一緒にはいられぬな」
「でも、まだまだお互い知らないことも多いですし、様子見のところもありますわよね」
「む。そうだな」
「ふうん……いや、そうなんですね」
半分上の空のサイモンがうなずく。
「サイモンは何をしていたのだ」
「……シャールに、マナーを見てもらってた、ました。ずいぶんさぼって、ブランク?があったので、あまり進んでない、ませんが」
「あら、ずいぶんと良くなっているわ。それに自分でどう直せばいいかわかっているのですもの。その分早いし、あとは慣れよ」
「……がんばります」




