42、王妃
あ、失礼。王妃でしたね。
「皆の者、その場でよく聞くように」
はいはい、つまり壇上から下りるなと。
なんやら晒し者にされるようです、私たち。
「こたびは我が息子、第一王子の祝いに多くの品々が贈られた。私からも礼を言う」
皆が一斉にかしこまる。
まあ、私たち夫婦も一応。
「なかなかに素晴らしい品ばかりで、せっかくであるから、この喜びを皆と分かち合いたい」
はあ。息子とはいえ人のもらったものを勝手にオープンして品評会をしたいと。
大丈夫かなこの人。
ちなみに国王はいちばん最初に挨拶しただけで、主役は第一王子だとばかりに引っ込んでる。
ふつうだったら王妃も一緒に退出するはずなのに、おかしいなとは思ったんだよね。
さすがに第一王子も王妃相手じゃ止められないし、なんか目で謝れらてるけど。
どうぞ、お気になさらず。
王妃は順々に、祝いの品を侍従に掲げさせて、自分でわかるものは解説し、わからないものは贈り主に説明を求める。
やはり加工前の宝石や貴金属が多いかな。高価で無難だもんね。
希少本は、いいね!しかも植物図鑑。贈り主はパーベナル伯爵か……覚えておこう。
まあ、最後までたんたんとしてた伯爵とは違い、自己アピールの場だと張り切る者も少なくないから、そういう人たちにとって王妃はいい仕事をしてると言えなくもない。
でも、王妃の目的がよくわからないんだよなぁ。
第一王子の保有魔法がわかったとたん、この子は駄目だと残りの二人に期待して、いまになって手の平をかえしても、息子の親愛は取り戻せない。
その元凶となった私を逆恨みしてこんなことしてるって、感情だけの話ならいい線行ってると思うんだけどさ。
政治的な面はシャール・ミンに裏取りしてもらって、私は全知り合いに手紙をばら撒くとしよう。
「最後は……なんであろうか、これは? 贈り主は、む。グリム男爵ならびに男爵夫人であるな」
ほっほっほー! でかいでしょう? 存在感ありありでしょう?
なにせ全長が二メートルを軽く超えてる上に、厚みも幅も半端ない。
とっても重くて持ってくるの大変だったわぁ……従僕たちが。
マックスは最後までこれでいいのかって確認してたけど、いいの、いいの!
まあ、ひどく外す確率もゼロじゃなかったけど、少なくとも私の方が殿下の好みはわかってるつもりだ。
「じつは、私もずっと気になっていた。あれはなんなのだ、グリム男爵夫人?」
ほらね、お目々をきらきらさせて、私が選んだってばればれです。
「鯨の頭の骨でございます、殿下」
「ほう、鯨か!頭だけであれということは全長はどれほどになろうか、いや素晴らしい」
もらった本人が手放しで褒めているのだ。
壇の下に控えている臣下たちは次々にお追従を言うしかない。
まあ、この世界には魔物っていう規格外が存在するし、シロナガスクジラの頭骨ともなれば直径九メートルを超えるらしいけどさ。
これでもうちの裏庭にごろごろ転がってる中から、いちばん大きなものを選んで運んできたのだ。
「あれほどのものを軽く養うとは、海は豊かで大きく、どこまでも広いのだな、グリム男爵」
「はっ。左様にございます、殿下。遠洋に出ますと全方位、海と空以外、何もございません」
第一王子は共にそれを眺めるかのように目を細める。
「それを船一つで渡るとは……グリム男爵。その方の働き、期待している」
「殿下のご期待に応えるべく勤めます」
「うむ」
贈り物を気に入ったのは本当。海に憧れてるのも本当。
でもそれ以上に、制海権を捧げる用意があるってメッセージをちゃんと受け取ってるのだ。
私たちは、今度こそ壇上から下りることができた。
置いてきぼりにされた王妃の憎々し気な視線は、ずっと私を追ってたから、さっきの推測はあながち間違いじゃないのかもしれない。
王妃が感情のみで動くっていうのもどうかと思うけどね。
どっかの誰かにいいように利用されちゃうよ?




