4、スクロール
気は急くけどタイミングを見計らうことも大事だ。
待つ間にうれしい発見があった。
本来、魔法の素養がないはずの平民たちが魔法を使っていることに、遅ればせながら気付いたのだ。
薪の焚き付けやろうそくに火をつけたり、絨毯のシミを抜いたり。
え、なになに、どういうことなの?
本人に聞くのがいちばんなので、暖炉に火を入れに来た下女をつかまえて聞いたところ、魔法のスクロールってものがあるんだって!
彼女は半年分の給料を注ぎ込んで着火のスクロールを買ったそう。これ以上は勘弁してくださいって感じで逃げて行ったけど。
私、そんなに怖かった? まあ、興奮してたことは認めるけど。
それによって割りのいい職につけて元がとれるにしても、平民にすれば清水の舞台から飛び降りるくらいの投資なんだろうね。
でも、貴族からしたらなんてことない出費のはずなのに、なんで使える魔法を増やさないんだろう?
嫌な思いをするのは承知で家庭教師に尋ねてみたら、彼女にも答えられることだったようで喜々として教えてくれた。
あんなものは魔法とは呼ばないとか、血で受け継がれてこその正統な魔法だとか、あとは貴族の誇りがどうとか、まあ要するにスクロールで獲得した魔法は遺伝しないってことらしい。
アホくさ。夢があって素敵ではあるけど結局、魔法なんて単なる手段じゃないか。
たとえば切れ味はともかく包丁に正しいもクソもありますかっての。便利に安全に使えりゃそれでいいのさ。
増やそう魔法、買おうスクロール!
まあ、容量の問題とか気にはなるけど……
勝手な私の想像では魔法を覚えるのと使うのは別で、たとえば着火の魔法を一回使ったらその日出せる水の総量がコップ一杯分減るとか、そんなものではないかと思う。
魔力とか魔力量って言葉自体を聞かないし、どういう仕組みかはよくはわからないけど。
使用人たちを見る限り、ほいほい使って特に疲れる様子はないから、その日の分を使い切ったらあとは使えないってだけで、さほど体に負担がかかるものでもないはず。
あくまで希望的観測ではあるんだけどさ。