36、サイモン
義理の息子サイモン少年は、闖入者である私の様子を猫のようにうかがってる真っ最中だ。
少々その期間が長い気がしないでもないけど、軽く人間不信におちいってるだろうことは想像がつく。
三歳で母親を亡くしてるから、恋しく思ったり寂しくはあってもその印象は朧気だろう。
それよりもしっかりと記憶に残っていること。
七歳までは街の子供たちと外を駆けずり回って遊んでたのに、急に一人で外出することは許されなくなる。
上等だけど窮屈な服を着せられ、姿勢や指先にまで気をつけて挨拶をし、話し方はもちろん食べ方まで変えるよう言われる。
なにより身近な父親が率先してそのように行動し、自分にもそうあるよう強要してくる。
それでもお父さんのことが大好きなんだろうね。
最初の一年は、執事長のシャールを教師役にマナーの習得にはげんでいたようだ。
変わったのは八歳になって家庭教師が雇われてから。
その人は数ヵ月で自ら辞めてしまったそうだけど。
人物的にも教える内容にも問題はなかったと、夫もシャールも証言している。
反抗期だっていうのは簡単だけどさ。
護衛付きなのはあきらめるしかないと観念したのか、港や造船所を遠目に眺めたり、ちょっとした買い食いをしたり、領内をうろうろしていたようだ。
夫をはじめこの街の男連中に言わせれば、若い時はそんなこともあるって、まあ男の雑さで温かく見守ってはいたらしい。
でも、ここ一年は屋敷にこもりがちになってるとか。
そんなところに自分と大して年の変わらない少女がやってきて、新しいお母さんだよなんて……
ないわぁ。私だったら大いに荒れるわぁ。
使用人たちに確認しても、人や物に当たってる様子は皆無なので、それだけでも偉いぞ、少年よ。
だから、私がやってるのはネグレクトでは断じてない!
ばったり顔を合わせれば明るくあいさつ。
続けてあれこれ話しかけたいのをぐっとこらえる。
もっとも、それより先に向こうが逃げていっちゃうけどね。
一応、小さな声で尻切れトンボだけど、あいさつは返してくれてるよ。




