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行け行け!クレマンティーヌ  作者: 御重スミヲ
36/78

36、サイモン


 義理の息子サイモン少年は、闖入者(ちんにゅうしゃ)である私の様子を猫のようにうかがってる真っ最中だ。

 少々その期間が長い気がしないでもないけど、軽く人間不信におちいってるだろうことは想像がつく。


 三歳で母親を亡くしてるから、恋しく思ったり寂しくはあってもその印象は朧気(おぼろげ)だろう。


 それよりもしっかりと記憶に残っていること。

 七歳までは街の子供たちと外を駆けずり回って遊んでたのに、急に一人で外出することは許されなくなる。

 上等だけど窮屈な服を着せられ、姿勢や指先にまで気をつけて挨拶をし、話し方はもちろん食べ方まで変えるよう言われる。


 なにより身近な父親が率先してそのように行動し、自分にもそうあるよう強要してくる。

 それでもお父さんのことが大好きなんだろうね。

 最初の一年は、執事長のシャールを教師役にマナーの習得にはげんでいたようだ。


 変わったのは八歳になって家庭教師が雇われてから。

 その人は数ヵ月で自ら辞めてしまったそうだけど。

 人物的にも教える内容にも問題はなかったと、夫もシャールも証言している。


 反抗期だっていうのは簡単だけどさ。

 護衛付きなのはあきらめるしかないと観念したのか、港や造船所を遠目に眺めたり、ちょっとした買い食いをしたり、領内をうろうろしていたようだ。

 夫をはじめこの街の男連中に言わせれば、若い時はそんなこともあるって、まあ男の雑さで温かく見守ってはいたらしい。

 でも、ここ一年は屋敷にこもりがちになってるとか。


 そんなところに自分と大して年の変わらない少女がやってきて、新しいお母さんだよなんて……

 ないわぁ。私だったら大いに荒れるわぁ。


 使用人たちに確認しても、人や物に当たってる様子は皆無なので、それだけでも偉いぞ、少年よ。

 だから、私がやってるのはネグレクトでは断じてない!


 ばったり顔を合わせれば明るくあいさつ。

 続けてあれこれ話しかけたいのをぐっとこらえる。


 もっとも、それより先に向こうが逃げていっちゃうけどね。

 一応、小さな声で尻切れトンボだけど、あいさつは返してくれてるよ。



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