32、屋台
「皆さんのお仕事の邪魔をしては本末転倒なので、そのへんは工夫が必要ですが。領主持ちでお酒をふるまうことは、すでに主人の許可を得ています」
「おおっ!ただ酒か」
「さすがはグリムの旦那じゃ」
「それに加えて男爵夫人は、何かお考えがあると。それに我々が協力すればよろしいのですね」
さすがは商業ギルド長、話が早くて助かる。
「そうです。いま私が考えていることは三つあります。まず、商店や食堂を営んでいる方々に、大通り沿いに屋台を出してもらおうと考えています」
「屋台、ですか?」
「ようするに出店ですわね。もちろんありもののテーブルや台を使用してもらってもかまわないのですが、このような形の屋台があると目立ちますし、それぞれ好きに飾りをつけても楽しいと思うのですよ。バトリーさん、日頃、海を渡るほどの大物を造っているあなたからすればいかにも半端仕事でしょうけれど、このようなものはどれくらいの手間でつくれるか、参考までに教えてほしいのです」
大きさの比較対象として簡単な人型とともに描いた屋台のスケッチを、バトリーが目を細めてながめる。
「ハハッ、これくらいならうちの連中なら一刻もかけずに仕上げよるわい。いくつくらい必要かの?」
「作ってくださるんですか?」
「ああ、奥方さんがグリムの旦那と縁付いてくれた祝いじゃろ? それくらいせんと旦那に顔向けできんわ」
「ありがとうございます。もちろん材料費と手間賃は出します」
「いい、いい。代わりにようけ酒を飲ませてくれ」
いまはにこにこ笑ってるけど、ごつごつとした手といい、右肩下がりに軽く捻じれた背中といい、いかにも頑固職人。
ここで無理に押しても気をわるくするだけか。
「では、お言葉に甘えて」
「おう、まかせんしゃい」




