3、買い物
今日は御用商人が屋敷に来ている。
もちろんこちらから注文して作らせることも多いけど、ご機嫌うかがいを兼ねて良さそうなものを見つくろってくるのも彼らの仕事。
今日は宝飾品かぁ。
私も一応呼ばれてるけど、クレマンティーヌとしてはあまりいい思い出がないんだ。
遠慮がちにあまり値の張らなそうな髪飾りを手に取ったところ、「あんたには似合わないわよ」と二番目の姉に奪われた。
それでいて、彼女はそれよりずっと高価なネックレスを買ったという……
でもいまの私は、うつむきがちな少女では気付かなかったことが気になるよ。
適当に商品を選ぶふりをする私にちょっかいをかけながらも、姉たちは自分好みの装飾品を選んでいく。
値段を気にするそぶりはない。
母である伯爵夫人には当然のように上等なものが用意されていて、そのいくつかの中に気に入ったものがあるかないかってだけの話になるので、彼女は鷹揚にかまえてる。
意外だったのは商品の値段をはっきり明示させること。
これがうちだけのことなのか他の貴族家もそうなのかは、いまの私には判断がつかないけど、間違ってもめくら判は押さないっていうのは一つ安心材料ではある。
実家が没落する可能性が下がるわけだからさ。
それはともかく、姉たちはそれぞれご執心の品を持って母親に迫る。
その時の「それでは上限を超えてしまうでしょ」「どうせクレマンティーヌは買わないわ」「……仕方ないわねぇ」って小声のやり取り。
ムムムムム~?
クレマンティーヌがしっかり聞いてなかったのか、あえて説明されてないのか、たぶん後者だと思うけど。
貴族の令嬢として直接お金を手にしたことはないけど、生活したり家庭教師をあてがわれたりするほかに、衣装や装飾品などをあつらえるための費用が一人一人に割り当てられているんではなかろうか?