27、求婚
貴族の結婚には国王の許可が必要で、裏をかえせばそれさえあればどうとでもなるってことなんだけど。
まあ、しなくていい喧嘩をすることもないので、グリム男爵はアボット伯爵に私との結婚を申し込みに来た。
たとえ高位貴族家の令嬢だろうと、結局のところ出荷される家畜のごとき立場なので、当事者にもかかわらず私はその場には立ち会えない。
でも、出迎えくらいしたいじゃないの。
姉たちは何様のつもりなのか階段のいちばん上から睥睨したまま、「あら本当に海賊みたい」「クレマンティーヌにはぴったりよ」と聞こえよがしに言ってる。
グリム卿は顔色一つ変えず、でも「マックス・ブルー・グリム、グリム男爵だ」と最低限の挨拶でよいと判断したみたい。
下手に出たっていうより、あきらかに相手に付け入るすきを与えないための行為だ。
「成金に名乗る名などないわ」「海の宝石を持ってくるなら考えてもいいけど」って、我が家の淑女教育はどうなってるのだろう?
確かに私たちは伯爵家の娘だけど、無位無冠。グリム卿は男爵とはいえ貴族家の当主。どっちが偉いか、真っ先に教わることだろうに。
それに加えて、伯爵夫人も階段の上からご登場で、下りてきただけマシかと思いきや中ほどで足を止めて「主人はそちらですわ」と顎で示す始末。
憎々し気に三女をにらむあたり、いまだ真珠や珊瑚をわけなかったことを根に持ってるみたい。
私が売却した分を御用商人から買おうとしたけど、お金が全然足りなくて買えなかったんだよね~。
まあ荒れ狂う海や、海千山千と渡り合ってる海賊を心配するだけ無駄だとは思うけど。
「まだあれらの親玉が控えておりますけど。あなた、心の準備はよろしくて?」
「何にしろ海の男たちのおしゃべりよりは穏やかだろう」
海風や海鳴りに負けじと発せられる言葉は当然、荒っぽいだろうけど……ああ、肉体言語か。
「拳が飛んでこないだけ、余裕ということですわね」
「そういうことだ」
その場にいなくても、伯爵が何を言ったかくらい想像はつく。
私の結婚相手なんてどうでもいいくせに、栄えある伯爵家が男爵ごときに娘を嫁がせねばならぬとはひどい屈辱だとかなんとか。
それでもさすがに金品を要求するほど品性卑しくなかったようで。
見栄とプライドだけはチョモランマな両親は、世間的に見て恥ずかしくない額の持参金は持たせてくれるみたい。
家庭教師はつけたものの、学院にもやらず早々にデビューさせたり、はたから見れば矛盾も多いけど。
彼らの中では、また私としてもノープロブレム。
場合によっては着の身着のまま嫁ぐ覚悟をしてたし、お相手もどんとこいって態度を示してくれてたから、これは思わぬラッキーだ!




