26、贈り物
「田舎貴族」「成り上がり」「粗野」「野暮」と散々こき下ろしながら、我が家族はグリム男爵からの贈り物を食べてる。
私が贈られたものなんですけどね。
だいたい文句があるなら食べるなや。
でもまあ私も、それくらいのことでつべこべ言うほどケチじゃない。
「あなたたちも遠慮なくいただいてね、執事長」
「はい。ありがとうございます、お嬢様」
なにせ日持ちがするとはいえ、馬車一台分はあるんだもの。
「なんて気のつくやさしい方なんでしょう、グリム男爵は」
「さようでございますね」
添えられていた手紙には、かの有名な第一茶会の乙女とは知らず失礼したとあったから、自分が貴族社会に疎いのは認めつつ、そういうことを調べたり助言できる人員もいるってアピールなのかな。
お目当ての相手がどのパーティーに参加するか、コネを使って調べることも貴族の素養の一つなので、グリム男爵にはまたすぐ会うことができた。
贈り物の量と味に大満足だとお礼を言って、鯛やヒラメが舞い踊る刺繍をほどこしたハンカチをプレゼントしたら、微妙な顔をしてたけど。
令嬢たちの間で、欲しいものをハンカチに刺繍して贈ることが流行って、すぐ廃れたなんて私のあずかり知らぬことだ。
その日はちゃんとカップルらしくダンスもしたし、真っ先に装いを褒められた。
おっ、やる気だねぇ。
でも気付けば、多少面倒になっても船底を区切って密閉できるようにすれば、たとえ船の一部に穴が開いても沈まないんじゃないかとか。
株式なんて発想は影も形もないようなので、ごくごく簡単に、出資したこととその金額を示す証券を発行して、それに見合う配当を出したらどうかなんて話をしていて……向こうも疑問点や新たな提案を口にしながら、食い入るような目をして聞いてたよ。
男爵からは、しまい込んでた奥方の肖像画を居間の壁に掛けたこと。
そのおかげか、息子の言動がだいぶ落ち着いたものになったと報告を受けた。
まあ、常に母親とそういう気遣いをする父親の愛情を感じられるし、母親の目の前で悪さをする奴はまずいない。
やっちまう奴はよほどの外道ってことだ。
「礼を言う」
「どういたしまして。少しでもお役に立てたのなら、私もうれしいですわ」
なにしろ、その辺の甘っちょろい貴族の令息じゃなく、いっぱしの男がこんな小娘の言うことを真摯に受け止めて、即、行動してくれたわけだから。
こういう積み重ねが信頼につながっていくのだよ。
向こうも私と出会ったことで、停滞してた物事が上向いてきたことを実感してるみたいで、まあ、まだ惚れた腫れたって感じではないけどさ。
私に対して本気になったことは確かだ。
それを証拠に、次の彼からの贈り物は未加工の真珠がざ~らざら。
その次はやっぱり未加工の珊瑚がどーん。
不要分をお抱えの商人なり宝飾店に売って、加工賃にしてくれってさ。
これならデザインも自分好みにできるしね。
まだ様子見の段階から、海産物の加工品を馬車いっぱい贈ってくるところといい、本当、私と気が合うわぁ。
海の宝石(まあ石じゃないけどそう言われてる)なんてまだまだ珍しいし、我が母がすごい目で見てたけど、これはさすがにお裾分けしませんよ。
あと、姉たちの歯ぎしりがものすごかったね。わははっ!




