25、海よ
「あら、残念。迎えの者が私を探していますわ。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものなのですね」
「あなたの場合は美味しい時間という気もするが」
「まあ、ホホッ。卿、お上手ですわ。では、お名残り惜しいですけれど……そうそう、私たちの仲がどうなるかはまだわかりませんが、一つお願いを聞いてくださる?」
「ああ。私にできることならば」
「卿の奥様があなたにとって良き妻であり、御令息にとって良き母であったなら、その肖像画をおうちのいちばんよい場所に飾ってください。ぜひ、お願いしますわ」
虚を突かれたとでもいうような、ああ、そういう無防備な顔もできるんだ。
ちょっと母性本能をくすぐられた。
考えてみれば三十歳になるかならずやなんだよね。
「ご歓談中、失礼。アボット嬢の門限が迫っておりますのでご容赦を」
「ああ、かまわぬ。無事に送り届けてくれ」
「承知つかまつりました」
騎士もいい人が見つかったのかご機嫌に見える。
「お手数をおかけしますね」
「とんでもない。この上ない栄誉ですよ」
私は差し出された手に、手を乗せようとする。
「クレマンティーヌ嬢」
「はい」
「貴重な話、ありがたかった。また会うにはどうしたらよいかな?」
奥方関連が地雷じゃなかったことに、ほっ。
あとはフフッ、撒き餌がきいたかな。
「また同じようなパーティーやサロンで会えますわ。もちろんお手紙や、海産物の干物やオイル漬けをお送りくださってもよろしいんですのよ」
「そこは花や菓子ではないのか」
「海産物の干物やオイル漬けでもよろしいんですのよ。大事なことなので二度言いました。では、ごきげんよう」
あっけにとられる海賊を残して退場!
とりあえず興味は引けたようだし、大成功と言っていいんではなかろうか。
ああ、海はひろいな、美味しいな~。
いまから楽しみで仕方がない。




