21、標的
「何をお探しでしょうか。よろしかったらお手伝いしましょうか?」
一人になったところを見計らって声を掛けると、おやっというように海賊男爵の片眉が上がる。
近寄ってはじめて瞳の色がわかる。まるで虎だね。
ありふれたブルネットの髪をきちっと撫でつけてるにもかかわらず、野性的に見えるのは、その目と丈夫そうな顎のせいかねぇ。
体つきと言うなら騎士だって負けてないわけだし。
「失礼、どこかでお会いしただろうか?」
「いいえ、はじめましてですわ。アボット伯爵家の三女、クレマンティーヌ・ジェシー・アボットと申します。どうぞ良しなに」
「忘れていたわけでないのなら安心だ。私はマックス・ブルー・グリム、グリム男爵だ」
「先に名乗るなどご無礼つかまつりました、グリム卿」
「吹けば飛ぶような爵位だ、かまいはしない。それよりあなたのことは何と呼べば?」
「どうぞクレマンティーヌとお呼びください」
「では、クレマンティーヌ嬢。立ち話もなんだからあちらに掛けて、さきほどの続きを聞かせて欲しい」
「よろこんで」
たぶん、なんだこいつくらいに思われてるのだろうけど。
暇つぶしにしろ小休止にしろ、いかにも金目当てのさっきの未亡人みたいのを相手にするよりはマシってところか。
ふむふむ。どちらかと言えば大きな男だけど、特別背が高いってわけでもない。まあ、いまの私と比べれば皆でかいわけだけど。
私の進行スピードに合わせるのはなかなか大変だろうに、あくまで自然にエスコートだ。
手慣れてんなぁ。
給仕から飲み物を受け取るのも、適当につまめるものを持ってこさせるのも、どこが新興貴族なのやら……
「クレマンティーヌ嬢は私の欲しいものに見当がついているようだが?」
ああ、こういう直截な話し方をするところか。
貴族は一日にしてならず。気品を出すには三代かかるって言うしね。
「ここにいらしている時点で誰にでもわかることですわ。でも、卿はそこに無茶な条件をつけてらっしゃるのではありませんこと? あくまで私の勝手な想像ですけれど。時間を無駄にするのもお嫌いでしょうし、何かお手伝いできることがあればと思いお声掛けしましたの」
「あなたは占い師か?」
「あら、海の男は意外に迷信深いというのは本当なのですね」
「……人間などにはどうにもできない自然の脅威にさらされれば、藁にでも縋りたくなるものだ」
「もっともなご意見だと思いますわ」
「あなたは海を見たことがあるのか?」
「……夢の中ではとお答えしておきましょう」
グリム卿は首を振り、おかしな子だとかぶつくさ言ってる。
ヘイッ! どっちも婚活中なの忘れてないかい?
「貴族的な言い回しもまたお嫌いでしょうから、はっきり言わせていただきますが、私は結婚相手を探しにここに来ています。いま、あなたはその対象として狙われているのです、私に」
なにその驚愕!って表情。
とりあえず気を引くことに力を入れすぎて、女っぷりを見せつけそびれたか?
こんなにドレスアップしてるのになぁ……胸ないけど。




