20、海賊
だからといってブルドーザーのようにこの場をかき回す気はない。
話しかけられたら礼儀正しく挨拶を交わしてちょっとおしゃべり。
ダンスに誘われたら、相手が誰であれとりあえず一曲踊る。
むか~し昔のその昔。相手の装いや誘い文句が少々野暮だってだけで、すっぱりお断りしてたことなんかもありました。
いま目の前で、けっこうな頻度で同様のことが行われてるのを見てちょっと反省。
いや、嫌なものは嫌だから断わるのは自由だけどね。
場の雰囲気っていうかさ。見てる方も居た堪れないのよ。
でもまあ、私もこんなところでボランティアにいそしむほど博愛主義じゃないし。
そもそもの目的、がんばって結婚相手を探さねば……今後の私の人生がかかっている!
そしてその晩、ヒーローかどうかは知らないけど、遅れてやって来た男がいた。
目立つ。でも、あまりいい目立ち方じゃない。
いや、本人が何か悪いことをしてるわけじゃないんだけどね。
まあ、言い方は悪いけど、ホワイトカラーの中にブルーワーカーが交ったらこうなるわけだ。
どこでもそうだけど得意げにお話ししてくれる人が必ずいるので、すぐに簡単なプロフィールを知ることができた。
新興貴族、グリム男爵。海運業。奥方を病でなくし、十歳になる息子が一人。
女性陣は遠巻きにしてるけど、男連中はわりとフランクに話しかけに行ってる。
おっ、色っぽい私いかにも未亡人ですって感じの女が割り込んでいった。
グリム男爵はちょっと目をやって微笑みはしたけど、先に話していた相手を優先してる。
うん、当たり前のことを当たり前にできるっていいよね。
頬をふくらます女。いや、それその年齢でやるには無理があるでしょ。
話し相手が気をつかって引いたので、男爵は彼女に向き合わざるを得ない。
でも、当たり前のようにダンスに誘って一曲踊ったあと、適当に放流してたよ。
なんだ。全然、粗野なんかじゃないじゃないか。
見た目はまあ、噂マダムが言ってたように「海賊」ががんばって貴族服を着てるようにしか見えないけど。
ちなみにきちんとした婚活パーティーでは、既婚者が何組か夫婦で招かれてる。
経験の浅い若者たちをさりげなく誘導してカップルを成立させたり、気になる相手の情報を教えてくれたり、おかしないざこざが起こらないように目を光らせてるわけだね。
欠点があるとすれば、たぶんにその人の主観や好みが入ってしまうこと。
もっとも、騎士よりも荒々しい雰囲気をまとった男と、箱入りの娘さんを添わせるなんて、貴族の御夫人的にはあり得ないんだろう。
まあ、そんな先入観を植えつけられなくても、年若い御令嬢の大半はその男の風貌にしろ、略歴にしろ男らしいとは思わず、怖いと感じたに違いない。
その上で、騎士をのぞけば貴族の底辺と男爵位であることを馬鹿にする者も少なくないし、さらに叙任されてから日が浅いのも侮られる原因になってる。
私に言わせれば、国がその実力を認めて逃がすまいとする価値ある男だろうに。
ふむ。




