2、魔法
貴族を貴族たらしめるものの一つに魔法があって、その素養は遺伝するらしい。
アボット家で代々受け継がれてきたのは水魔法だ。
当たり前だけどほかの貴族家から嫁をもらうわけだから、他の魔法が使えるようになっても良さそうなものだけど、そう都合よくはいかないらしい。
私は一回にコップ一杯、清潔な水を出すことができる。おおっー!
それを一日に十一回、計二リットルくらい出せるってことだね。
これってすごいことよ? この発展途上な世界で、旅先でも飲料水の心配をしなくて済む。
しかし、まあ例によって家の中では馬鹿にされてる。
いやいや、あんたたちだってせいぜい自転車並みに進むウォーターボールとか、ベニヤ板も貫けないウォーターアローとか、風呂桶の中の水をゆっくり回転させられるだけやん?
あれだけ威張ってるんだから、消火ホースからの放水並みの勢いで魔物アタックしたり、川の流れを一時的に止めたり、雨を降らせたりしてもいいと思うんだけど。
クレマンティーヌは大人しい子だけど、彼女なりに現状を打破しようと努力を重ねてきた。
魔法が発現した五歳の時から毎日、限界まで水を出すことを自分に課してきたのだ……涙ぐましい。
それでも出せる量も回数も変わらなかった。
彼女はがっかりしてたけど。
ノンノン! それは無駄な努力じゃなかったよ。
はじめは一度水を出したら一時間休まないと再び水を出すことができなかったけど、その休憩時間はどんどん短くなっていって、いまでは連続して水を出すことができる。まあ、コップ一杯分ずつ、一度止まるのはご愛敬だ。
総量が変わらないのは保有する魔力量と関係があるとか?
その辺、家庭教師に突っ込んでみたんだけど、すごい迷惑そうに話をそらされたよ。
なんだよ、こいつもわかってないんじゃないか。
貴族学院次席卒をあれほど鼻にかけててコレってことは、学院でも少なくとも魔法にかんしてはろくな授業をしてないってことか。
でもまあ知識は武器。こっちにはネットもなければ、新聞すらない。
これまで通り大人しく受け身の授業を受ける。「はい、先生」「わかりました、先生」もうこれしか言わない。
家庭教師、すごく満足そうだ。
歴史と地理、修辞や手紙の書き方は役に立つだろう。
計算は……なんでそんなややこしい方法でやるかな? そりゃ三回足せば三掛けたのと同じ状態にはなるけどさ。