17、手紙
どうやら第一王子の茶会に参加した私たち八人の令嬢は、「第一茶会の乙女たち」として知る人ぞ知る存在らしい。
いや、知らんがな。
あれ以降、第一王子と会うどころか、王宮に上がる機会すらないのにさ。
まあ、年に二回、第一王子名義で贈り物が届くようにはなった。
そのたびにうちの家族は一喜一憂してるけど、それ、その年に関係があった人ほぼ全員にばら撒いてるお中元やお歳暮みたいなものだから。
それを証拠に初夏は焼き菓子、秋口は干し肉の詰め合わせと内容もきっちり決まってる。
第一王子は恩を忘れませんよというアピールであり、どうぞ清き一票をってあいさつでもある。
第一王子の有する魔法が相当に強力だと知れたことで、彼は王太子最有力候補に返り咲き、私たち第一茶会の乙女たちは完全にその婚約者候補から外れた。
それを皮肉な結果とみる向きもあるけど、私たちは誰一人として残念に思ってない。
そもそも立場が弱い、気も弱い私たちには王子妃や場合によっては王太子妃なんて荷が勝ち過ぎる。
「誰が気弱?」
うるさいよ、カトレア。
それでも皆、年齢的にも王子様への憧れ~みたいなものがあっておかしくないはずなんだけど。
ああいう出会い方だったせいか、お笑いライブ会場でたまたま意気投合した同好の士みたいな感覚なんだよなぁ。
もちろん完全に身分の壁を取っ払うなんてあり得ないことだけど、殿下の方もこのゆるやかな結びつきを大切に思ってるみたい。
誰も性別なんか意識してない上に、政治的なことが絡まない友人は貴重なんだそうだ。
もっとも貴族の令嬢はおいそれと外に出してもらえないから、同性のカトレアの家に遊びに行くのにすら苦労する。
殿下なんてそれ以上に厳重に守られて禁止事項だらけだろう。
だから、私たち第一茶会の乙女たちは、主に手紙のやり取りをして楽しんでる。
そこへいつからか、メグ・ライム・クロスバーが加わった。
王宮侍女の娘さんなんだけど、まあ、その手紙の主は第一王子だ。
手紙の内容は、魔法のさらなる活用法を相談し合う真面目なものから、日常のささいな笑える出来事まで多岐に渡る。
植物魔法にかんしては、実際に自分でガーデニングをしてるリリア嬢が、なかなかいい案を出してるようだ。
近接戦闘では蔓薔薇を一気に育てて鞭にするとか、どっかで聞いたような話だけど大丈夫かな。
あとは少なくともこの夏中、全員が水桶を手放さなかったことは確かだ。
殿下もおかげで相当に勉強がはかどったと記している。