16、木
「殿下。殿下が植物をお育てになれるのはわかりました。次はどれくらい大きなものにまで干渉できるのか知りたいので、木をお育てになってみませんか?」
「木か?」
思っても見なかったって顔をしてるけど、木だって植物だ。
さっきだって家屋とか家具とか薪とか例に出したじゃないか。
「……うむ。やってみようか」
若干、自信なさそうだけど、これだけの令嬢たちに期待のこもった目で見られたらね。
がんばれ男の子!
侍従が庭師のところに走り、各種どんぐりを持ってくる。
おう、よく確保してあったな。時期じゃないからダメかと思った。
「では、ゆくぞ」
かなり気合を入れてのぞむ殿下。
固唾をのんで見守るギャラリー。
すでに私や令嬢たちだけじゃなくて、侍従も給仕も護衛たちも殿下の一挙手一投足に大注目だ。
いや、護衛はちゃんと護衛しようか。
さすがに木は無理かも。
大きいからね。
目で語り合う私たちの心配をよそに麦が育つのとまったく同じスピードで、ぴょこりと可愛い双葉が現れ、見る見るうちに伸びること!太くなること!別館の三階の窓に届こうかという大木になった。
私たちが日陰として利用してた立派な大木に勝るとも劣らない。
麦とは比べものにならない大きさだけに、同じスピードで成長されるとその迫力たるや……
私たちは叫ぶこともできず立ち尽くす。
すっげ、鳥肌立った。
私は両腕をさすりながら殿下を目で追う。
殿下はそれを自分がやったとは信じられないというように木に近寄り、幹にふれている。
「これはなんと……」
それから助けを求めるようにこちらを見るので、私は力強くサムズアップ。
「殿下、おめでとうございます。他の追随を許さない強力な武器ですね」
「は、武器?」
「そうですよ。これが十一本、一気に生やせるのですから、戦場で行えば敵軍の進行を阻めること間違いなし! 蔓植物の種を選べばさらなる妨害や、毒を持つ植物も自然界にはたくさんありますから殺傷能力を高めることも……」
「クッ、ふふ、ハハハハハッ」
え、そこ笑うところか?
私としては品種改良などに活用してほしいところ、この国のアホな貴族どもは神聖な雰囲気の魔法や、攻撃魔法を重んじてるようなのでがんばってそっち方面を押し出したんだけど。
ほら、侍従とか護衛騎士は涙を拭ったり、空を仰いで涙をこらえたり……私とてもいいこと言ってたよね?
「ありがとう、クレマンティー嬢。皆もありがとう」
「……もったいないことでございます?」
釈然としないまま淑女の礼をしたら、さらに笑われるとか。
でもまあ、十三歳か。
そんな男の子の苦悩を少しでも取り除けたのなら、まあいっかって話になるわな。