14、植物魔法
「それで? 皆がどのように涼をとっているか、興味があるな。連日、暑いことは確かだからね。朦朧としてなかなか勉強がはかどらない」
月並みですがとそれぞれが順当に話していき、最後は私の所へ。
もう、皆がちらちら見るから殿下も最初から私をトリ扱いだよ。
でも、まあいっか。嫁候補から外れるためにも、貴族令嬢としては「まあ、お下品」ってところを披露しておこう。
「……本当は殿方にお話しすべきではないのでしょうが、殿下の頭が煮えてしまっては困りますので。ぜひ、なるべく冷たい水を桶に満たして素足を浸してみてください」
「え?」
「ですから、桶になるべく冷たい水を満たして裸足でですね」
「ちょ、ちょっと待って」
横を向いて片手で口元を覆った殿下の耳が真っ赤だ。
おっ、想像しちゃったか。純情~!
しかし、さすがは王族、秒で復活。
「ん。いいよ。続けて」
「足元で冷やされた血液が全身に回り、結果、頭も冷やされるので、お勉強もはかどるはずです」
真面目くさって解説する私に、殿下の口元がニヨニヨし始める。
「いいよエメル嬢、笑って。私も大いに笑いたい。しごく真面目な話をしてるのに、なんでこんなにおかしいんだろう? アーハッハッハッ!」
涙をぬぐうほど大笑いする殿下と、八人の令嬢による笑いの大合唱だ。
控えている侍従や給仕、護衛たちが何事かってこちらを見るけど、いまはそれすらもおかしい。
笑いすぎて乾いた喉をお茶で潤して、第一王子殿下は登場時とはまるで違うサバサバした様子で言ったのもだ。
「少々冷静になるためにも、私の有する魔法について説明しておこうと思う」
アンニュイな影はどこへ行った?
「たぶん皆もすでに承知しているだろうが、私が示せる精一杯の誠意として自分の口から伝えておきたい。私が有しているのは植物魔法だ。お世辞にも有用な魔法とは言えない。だから、第一王子ではあるけれども、王太子に選ばれることはないだろう。それを承知しておいてもらいたい」
「はい、殿下」
しゅぴっと右手を上げる私。
「な、なんだい? クレマンティーヌ嬢」
「正直申し上げて、私、王太子云々には微塵も興味がございません。できましたら、植物魔法について根掘り葉掘りうかがいたいのですがよろしいでしょうか」
「根掘り葉掘り……植物魔法なだけに。クレマンティーヌ様、うますぎますぅ」
いや、エメル嬢。まだ若いのに君はオヤジが入りすぎだ。気が合うな!