13、第一王子
「やあ。楽しそうなところ、お邪魔するよ」
私たちは軍隊のごとく、さっと立ち上がって淑女の礼を取る。
この息の合いっぷりは先程までの交流の成果だね。
いまだ笑いを引きずってプルプルしてるエメル嬢を心配そうに横目で見る余裕さえある。
「皆、楽にしていいよ。今日は招きに応えてくれてありがとう」
「こちらこそ、お招きいただき光栄でございます」
「「「「「「「光栄でございます」」」」」」」
ほら、打ち合わせたわけでもないのに息がぴったり。
第一王子への自己紹介も二度目なのでスムーズだ。互いの家格もすでにわかってるしね。
殿下は艶やかな黒髪に、時に赤にも見えるアンバーの目。
加えて少々影のある風情だなんて、乙女ゲームの攻略対象者のような御仁だ。
もっとも茶会のセッティングとか、使用人の私たちに対する態度とか、客へのおもてなしの心がそこここに垣間見えて会う前から好印象。
登場のタイミングも時間だからというより、こっちの様子をどこからか見ていて、私たちに恥をかかせない瞬間を選んだのだろう。
まあ、ハズレあつかいされてる魔法のせいで自信を失ってるのかもしれないけど、それだけに人を思いやれるというか、年齢に似合わない落ち着きを感じる。
「こちらへ歩いてくる時、楽しそうな笑い声がしたけど、どんな話をしていたの?」
「あら、お耳汚しを失礼いたしました」
「いや、そんなことはないよ。華やかで明るい気分になった」
「……連日、暑い日が続いているので、どのように涼をとっているかを教え合っておりました」
殿下は等分に視線をくばってくれるので、誰が答えればいいのか明確にわかってとても助かる。
でも、私とカトレアが答えた段階で、もうエメル嬢のバイブ機能が……
「君、具合でも悪いのかい?」
グホッ。やばい、全員がツボった!
「ま、オホホッ、ホホッ。殿下、大変失礼を。エメル嬢は大変にその笑い上戸でいらして、そのとても明るく素敵な笑い声につい、私たちもつられてしまうのです。こ、木の葉が落ちても、フォークが転がってもおかしい年頃であることに免じてどうぞご寛恕を」
「よいよ。フフッ、私も明るい楽しい気持ちになる。それにしても木の葉が落ちても、フォークが転がってもとは洒落た言い方だ。エメル嬢、本当にそうかい?」
とどめを刺しにいく殿下はちょっとエス入ってるのかね?
エメル嬢は生息も絶え絶えにうなずいている。
一息入れる意味でも、殿下が合図して茶と茶菓子が供される。
すでに皆がぐったりしてるのは気のせいではあるまい。
……いい具合に力が抜けたってことにしておこう。