11、駒
第二王子と第三王子のところは、噴水だの池だのを囲んで盛大にやってる様子だけど。
こちらはそんな喧騒から離れて、庭園の奥まったところに大きな丸テーブルが用意されていた。
それは見事な大木が日差しを遮り、虫除けの香がさりげなく置いてある。
主催者の気遣いがうかがえるね。
私が案内されて行った時には、すでに先客が五人。なんだ。結構、来てるじゃないの。
背もたれに涼し気な透かしの入った椅子の数を見るに、あと二人来るようだ。
たった一人で第一王子と対峙することもあり得ると思ってただけに一安心。
いや、魔法のことを根掘り葉掘り聞くにはその方が断然都合がいいけど、嫁は勘弁かな。
まず、向こうがノーセンキューだろうけどね。
さて、御令嬢たちはだいたい同年代に見えるけど、互いに面識はないのか異様な緊張感が漂っていて、みんな居心地が悪そうだ。
こんな空気の中、登場する第一王子も気の毒だし、この子たちもこのままじゃ可哀そうだ。
よし、おばちゃんが一肌脱いじゃうぞ。
たぶん緊張プラス暑いせいで、せわしなく扇子を使ってる右隣の泣きぼくろ美人に声をかける。
いや、まあまだ少女なんだけど、もう色気が出はじめてるっていうか。
でも、本人はそれを嫌ってか、絶対に透けようのない厚めの生地でなおかつ濃い色のドレスを着ている。
さすがこちらは薄めの生地だけど長袖、ハイネック……そりゃ、暑いだろう。
「ごきげんよう。私、このような催しははじめてで、失礼ですがお名前をうかがっても?」
ぴたりと扇子の動きをとめて、こちらに向き直ってくれる。
よかった、ちゃんとした子だ。
「はい。私はバーナング子爵家の三女、カトレア・ユートピア・バーナングと申します。どうぞ良しなに」
「ご丁寧にありがとうございます。私はアボット伯爵家の三女、クレマンティーヌ・ジェシー・アボットです。同じ三女同士、どうぞ仲良くしてくださいね」
「これは、先に名乗るなどご無礼を……」
「どうぞお気になさらないで。はじめてお会いしたのですもの、互いにどこの誰とわかるわけもありませんし、ここは臨機応変にまいりましょう。ねえ、皆さん? よろしかったら、どうぞ順にお名前を教えてくださいませんこと?」
たぶんだけど、ここでは私がいちばん家格が高い。
王家と縁を結べるのは伯爵以上って不文律があって、もちろん例外とか裏技もあるだろうけど、そういう高位貴族の令嬢は王太子妃の座を狙わされるだろうからね。
なにしろ、貧乏人の子沢山っていうように貴族家で多産というのはまず聞かない。
うちやカトレアの家のように、娘三人なんて駒がそろってる方がめずらしいのだ。