春を想う
冬で1番寒いのは何月なんだろう、そんなことも私は知らない。でもきっと、きっと1番寒いのは今この瞬間だ。
家に着いてココアを飲んだ。
母が作るココアは世界で一番まったりしている。と私は思っている。
「友達はできた?」
なんて言葉が母の口から聞こえた気がする。
私は窓の外を見た。
ガリガリの木、夏と違う青空、びゃうびゃう風の音がしている。ココアをもう一口飲む。
私には友達が出来ない。
自慢ではないのだけれど現在高校2年生まで友達が出来た事がない。
一時的にお喋りする人間は居たけれど、そうめんのようにちゅるんと去っていった。
それを昨年母にぽろっと言ってしまったのだ。
そこから心配しているのだろう、1ヶ月に1回のペースで聞いてくる。厄介なものだ。
私は友達なんて要らない。必要ない。ひとりがいい。
母と温かいココアがあればいい。
窓の外で木に乗っている小さな生物を見ているとココアが冷めてしまった。
母もいない。
きっと皆んなさっきの風で吹き飛ばされてしまったんだ。
家に居ても帰りたくなるこんな世の中、吹き飛ばされたらいいんだ。
校舎はもう少し暖かい素材で作った方が良いといつも思う。
コンクリート、スチール、冷たい木、石、全部ふかふかの何かにしてしまえばいいいのに。
授業中は何故コートとマフラーを外さないといけないのだろうか。
暇なのでちらと隣の席の人を見た。必死にマスカラでまつ毛を増やしているけどそのちっちゃなまつ毛からは到底ふさふさにはならないな、大人になってマツエクとかまつ毛パーマとかで増やせるんだから今は何もしなくていいのに。
お洒落なんてくだらない。
私はヤンキーじゃないけど将来はドン・キホーテで買ったキティーちゃんのごてごてジャージとスリッパがあれば充分だ。
大人の西松屋がない限り私はこうしようと思っている。
そんなこんなで下校時間が来る。
今日も友達はできなかったな、何故かニヤニヤしてしまう。
人間は何故ニヤニヤしてしまうのだろう。
嬉しいから?それとも悲しいのか?この感情は何て言うんだろう。国語の授業は真面目にやるべきだと今思った。
明日は土曜だから母とショッピングに行く、都会は嫌いじゃない、馬鹿が沢山拝めるから。
私は地面のきったないガムが何度も踏まれた跡や痰を吐かれた跡を見るのが好きだ。
近所じゃ見れないもの。
寝る事が嫌いだ、勿体ない。せっかくの夜という時間を堪能できないなんて一生死ぬまで死んだ後もこの体の構造を恨む。
夜はカーテンを閉めなさいと母に言われているけれど私は真っ暗な部屋をじっと見た後にカーテンを少し開けて外を覗くのが大好きなのだ。
そしてまた真っ暗な天井を見る。星なんか見えないけど私には沢山の夢が見える。
冷えたココアはすぐに熱くなって、木々はお洋服を着る。隣の席の人のまつ毛がふぁさふぁさに伸びて、私に友達が出来る。
その日はそのまま眠りについてしまった。
何故化粧なんてするんだろう。街行く人をカフェで母と抹茶ラテを飲みながら見ていた。
落とすと絶望しないのだろうか。すっぴんで生きていたら朝にガッカリする男性が少なくなるかもしれないという統計を勝手に想像する。
それだったら男性が有利になってしまう。だめだ。
母を見る。母は綺麗だ、私みたいにニキビもないし、なにより前髪がよく似合っている。
なのに年々やつれていく、私は逆にどんどんピチピチになっていく。
「お母さん、私友達出来たよ」
とっさに嘘をついてしまった。
母は嬉しそうに、心底ホッとしたように「良かったわね、どんな子なの?」と疑いの目も無く聞いてきた。
ヤバい。私は嘘をつくのは得意だけど母にはつきたくないのだ。
そうだ、嘘をつかなければいいんだ。
「横にいる素敵な子、家族だけど友達なんだ」
これはまずいかもしれないと母の顔を見た。
母は赤くなって「もう」とだけ言って笑った。
私も何故かおかしくなってクスクス笑っていた。
今が1番温かい季節かもしれない。
「ちゃんと学校で作るのよ」
私は窓の外のきったない街を見た。