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39 卒倒

 伯父家族はフリードリヒの姿に狼狽した。


「こ、これは誤解です。いきなりリデルが取り乱し暴れたので止めていたのです!」

 伯父がとっさに嘘をつく。しかし、フリードリヒはそれを無視して兵に命令する。


「地下牢に連れていけ」

 するとイボンヌが叫び気絶するふりをした。だが、誰も崩れ落ちる彼女を支えようとしない。


  伯父も伯母も娘どころではなく、自分たちが助かることしか頭になかった。きっと最初はここまでやる気はなかったのだろう。フリードリヒがいないのを知って調子に乗ったのだ。


「違います。何かの誤解です。本当に私たちは何もしていないのです」

 するとフリードリヒがメイドに目を移す。


「みなさんで、奥様を寄ってたかっていじめて、暴力をふるったんです。奥様をお守りできなくて申し訳ございません」

 彼女は涙ながらに訴える。リデル自身はそこまでされてないと思うが、メイドにしてみれば悔しかったのだろう。


「ちょっと待ってくれ、貴族である私より、その使用人の言うことを信じるのですか!」

 伯父が焦ったように言う。


「そうよ。リデル、ここでは何もなかったわよね。私たちは両親を亡くなったあなたを育ててあげたのよ。その恩があるでしょ?」

 この伯母の言葉にリデルは唖然とした。


「父と母を亡くし、呆然自失している私を言いくるめ、財産を食い散らしたのはあなたたちではないですか。馬鹿にしないでください。私はもう何もわからない子供ではないのです。ここの領にまで迷惑をかけないでください」


「馬鹿な、私はそんなことはしていない! お前が承諾したんだ」

 伯父が顔を真っ赤にしていい放つ。


「あなた方がしばらく一緒に住むというから、頷いただけでしょう? 親を亡くしたばかりでふさぎ込んでいる子供になぜそんなことをさせたの? ふざけたことを言わないで! それにあの領地にはもともと借金があったなんて嘘でしょ。父も母もあなた方のように華美でもないし、贅沢でもないし、だらしなくもなかった。借金を作ったのは伯父様たちでしょ」


 伯父夫妻はリデルの反撃に顔を青くした。すると今まで気絶しているふりをしていたイボンヌがガバリと起き上がる。


「あんた、ちょっといい家に嫁に来たからって、旦那の威光を借りて調子に乗ってんじゃないわよ! とんでもないど田舎だし、その上旦那は記憶喪失で軍人として使いものにならな……」


 彼女は最後まで言い終わることはなかった。兵士たちの逆鱗に触れ引っ立てられ、悲鳴をあげ部屋から引きずり出される。それは伯父夫妻も同様だ。


「おい、リデル助けてくれ!」

「そうよ。私たちは善意で見舞いに来ただけなのよ!」


 今回ばかりは彼らを助ける気にはなれなかった。喚く彼らが連れ出され、しんとなったサロンにリデルとフリードリヒだけが残る。リデルはフリードリヒの前で跪いた。


「親戚の数々のご無礼、お許しください」

 しかし、フリードリヒはそんなリデルをぎゅっと抱きしめる。


「やめてくれ、リデル! すまない。私が不甲斐ないばかりに、妻も守れないとは」

 驚いて彼の顔を見上げると、悲し気に瞳を潤ませていた。いつもの優しいフリードリヒでほっとする。


「ああ、かわいそうに痛かっただろう。髪を引っ張られたのか? そういえば、いつもつけていた髪飾りはどうした? まさかあの女に奪われたか?」

 フリードリヒの瞳が一瞬で冷たくなる。やはりこんな彼を見るとぞくりとする。


「ええ、そのようです」

 兵につかまってもリデルから奪った髪飾りはしっかりと持って行ったのだろう。


「相応の罰を与えなければな。おい、ハワードはいるか!」

 フリードリヒが不穏な空気を纏う。リデルも今回ばかりは彼らに痛い思いをさせたほうがいいと思う。もうこの領へ二度と戻ってこないように。


「旦那様、あやつらの処分はいかがなさいましょう」

 いつも温和な微笑みを絶やさないハワードの目が据わっていて怖い。本気で怒っている。忠誠心のつよい彼は敬愛する主人を馬鹿にされ腹を立てているのだろう。


 ふいにリデルの胸は不安にどきどきしてきた。

「あ、あの、旦那様、罰は必要かと思いますが、手を切り落とすとかやめてくださいね?」

 何をするにも限度がある。


「ふ、もちろんだ。そんな真似はしない。禍根が残るのだろう?」

 口の端を上げ冷笑する。ぞくりと寒気がした。

(本当に記憶を失ったままなのよね?)


「ハワード。一週間後庶民二人は縛り首だ。貴族の男については後ほど沙汰をだす」

「久しぶりの公開処刑ですね」

「ひっ!」

 リデルはフリードリヒとハワードの会話に小さく悲鳴を上げるとその場で卒倒した。



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