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37 迷惑な人たち

 仕方なくサロンに通すと、伯父家族はその豪華さに目をむいた。


「驚いたな。まるで舞踏会でも開けそうな広さだ」

「そうね。外観は無骨な感じだけれど、随分と高そうなじゅうたんを敷いているじゃない。それにりっぱなドレープカーテンまであるわ。一体内装にいくらかけているのかしら?」

 伯母は金の話ばかりする。


「茶はまだか」と騒ぐ彼らの相手を使用人たちにさせるわけにもいかず、残っている仕事も気になるが、リデルが相手をすることにした。


 金が欲しいということはわかっている。しかし、どういういきさつで彼らがここに来るに至ったか聞いておかなくてはならない。


 クルトからはここのところ連絡はないが、いったい何があって彼らがここに来ることになったのだろう。


「それで、なぜこれほど遠い領地まで来たのですか?」

「リデル、せっかく遠路はるばる訪ねてきたのにその言い方はないでしょ!」

 怒りをあらわにする伯母を伯父が「まあまあ」と言ってなだめる。


「実は見舞いに来た」

「見舞い? 何のですか?」

「侯爵閣下は、記憶を失ったときいてね。お前が苦労しているのではないかと」

 その割に見舞いの品もない。


「は? それは昨年の話ですが」

 リデルは呆れた。


「ここには冬は寒くて来れないだろう。それに、まだ記憶は戻っていないのだろう? 社交もなさらないし。軍人としてももう仕事はできないのではと噂されている」

「それが、何か?」


 言っていることは失礼だし、彼らに何の関係があるのか心底不思議だった。自然にリデルの声もとがる。


「私たちで手伝えることはないかと思ってね」

 伯父がいけしゃあしゃあと言う。この人たちに散財以外何が出来るというのだろう。


「いえ、御心配には及びません。全く困っていないので、そういうことならばお引き取り願います」

 リデルはきっぱりと言った。何とか夫が帰る前に追い返したい。


「何なのよ、偉そうに。あんたが偉いんじゃなくて旦那が偉いんでしょ? 何か勘違いしてない」

 イボンヌがかっとなって言う。本当に彼女は泣いたり、わめいたり、怒ったり忙しい。

 情緒が不安定なのだろうか?


「やあね。すっかりお高くとまって」

 伯母が冷笑する。


「失礼ながら、奥様はウェラー侯爵家の領主代行でございます。旦那様がお留守の間は奥様がこの城の主です」

「そうです、旦那様がお留守の際は奥様が執務をなさっているのでお忙しいのです」

 今まで黙って影のように控えていたハワードとドロシーが我慢しきれなくなったように口をはさむ。

 彼らはリデルが心配だったのか、二人してサロンにいる。気持ちはありがたいし、心強くもあるが、彼ら二人がここにいると城の業務が滞る。


「まあ、やだ。使用人のしつけもできていないの?」

 さげすむようなイボンヌの口調に、リデルも頭にきた。


「失礼な言い方をしないで! 彼らはこの家にとっても領にとっても大切な人たちなの」

 ぴしりと言い放つと、イボンヌが鼻白んだ。


「な、なによ。急に威張りくさって」

 ぷいと子供のように横を向く。


「そんなことより、イボンヌお姉さま。御子はどうしたのです?」

「は?」

 イボンヌがぽかんとした顔をする


「もうお生まれになったんでしょ?」

 リデルが言うと伯父夫妻の顔色が変わった。


「ち、違うわよ。子どもなんて出来てないわよ」

「はい?」

 首を傾げた。子が出来たから結婚するとギルバートは言っていた。


「想像妊娠ですって。そういうものがあるらしいわ」


 しれっとイボンヌが言う。そこまで聞いてリデルは怒りを鎮めるために深呼吸をした。それから、ドロシー以外の使用人たちを下がらせた。


 サロンには伯父家族とリデルとドロシーだけになる。ドロシーには申し訳ないが彼女には少し付き合ってもらおうと思った。なにせ彼らはそろいもそろって噓つきだ。


「それで、ギルバート様とはどうなっているのです」

「あら、リデル、まだ彼が好きなの? 捨てられたのに。ふふふ、かわいそう」

 イボンヌがいやらしい笑みを浮かべる。


「私はそれほどお人よしではありません。あなたはまだ彼と結婚していないのかと聞いているのです」

 不誠実で失礼な男にこれっぽちも未練などない。このところ思い出すこともなく、すっかり忘れていた。


「は! 出来るわけないじゃない! あんたたちにあの舞踏会で恥をかかされたのよ。子供が出来てないとわかったら、即刻破談にされたわ! どうしてくれるのよ」

 そう言って泣きわめき始めた。伯母も伯父も手を付けられない様子だ。


 仕方なくその日の話し合いはそこで中断することになった。リデルにもまだ執務が残っている。しかし、彼らをこのままなし崩し的にここに住まわせるわけにはいかない。

 

 帰れというには遅い時間なので、その日は不承不承泊めることにした。


 その後執務に戻り、夜遅く仕事を終えるとリデルはさっそくクルトにどういう事情で彼らがこちらに来たのかを問い合わせる手紙をしたため、早馬で送った。


 彼らが帰らなければ、引き取りに来てほしい。この件に関してはフリードリヒの手を煩わせたくはないのだ。


 そして、寝室でよこになったのも束の間、困惑顔の使用人がリデルの部屋にやって来た。

 

 彼らが勝手に厨房に出入りして、酒を運ばせつまみをつくらせ食堂で酒宴を開いて大騒ぎをしているという。

 リデルは使用人から報告を聞き、慌てて彼らを説得して部屋に戻らせた頃には夜中を過ぎていた。


 フリードリヒの親戚に勝るとも劣らない図々しさにリデルは頭を抱えた。城の者たちには苦労を掛けて申し訳なく思う。



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