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19 とんでもない人たち

 うららかな午後、執務室で仕事をしてる最中にその報を受けたリデルは、一瞬目の前が真っ暗になる。領主の代行はできても、その先はリデルでは力不足だ。


フリードリヒなしで領を守れる自信などない。指示書があったからこそスムーズに進んできたのだ。


「今すぐ、王都へ向かいます」


 フリードリヒの安否が心配で、いてもたってもいられなかった。きっと王都の方が、状況がより詳しく早く伝わるだろう。

 それにもしかしたら、その間に帰還しているかもしれない。


「奥様、それだけはどうかおやめください」

 焦ったようにハワードが止める。


「どうして? 旦那様の安否をいち早く確かめなければ、あなたたちも心配でしょう?」

 フリードリヒが使用人たちに慕われているのはわかる。


「実に言いにくいことなのですが、旦那様の安否がわからなくなったいま、親戚方がこの領地にやってくるのではないかと思われます」

「え?」


 親戚の存在を失念していた。確か強欲な親戚たちから使用人たちと領地を守ってほしいと頼まれた。それが結婚の条件だ。


「奥様には、対処をお願いしたいのです」


 ハワードをはじめ、使用人一同から頼まれてしまった。断るわけにはいかない。

 リデルにとって、温かくこの領に迎え入れてくれた彼らはとても大切な存在になっていた。


 しかし、親戚たちはそんなにすぐに来るだろうか。だが、リデルが王都に行ったからと言って、状況がよくなるわけでもない。



 フリードリヒは縁あって夫になった人だ。相手には情はないかもしれないが、リデルは仕事をしていくうちに彼に少なからず親近感を抱くようになっていた。領民に対して非常に心を砕いて仕事をしているのがわかったからだ。だから、戦場でも人がついてくるのだろう。


 どうか無事でいて欲しい。



 ◇◇◇



 リデルは数日ほど不安と重圧で不眠に悩まされた。未だフリードリヒの安否は不明だ。その晩、不安のうちにごく浅い眠りについた。


 すると明け方近くに、どんどんと部屋のドアをたたく音で目が覚めた。何事だろうかとガウンを羽織りどきどきしながら戸を開ける。


「どうかしたの? ドロシー? 旦那様が見つかったの?」

 すると珍しく焦った表情のドロシーの後ろから中年の男女が現れた。


「お前は自分の主人が安否不明だというのに、のうのうと眠っていられるのか!」


 いきなり野太い男の声で怒鳴りつけられた。訳がわからない。するとハワードがリデルを庇うように前に出てくる。


「申し訳ございません。奥様はまだご準備がお済みではありません。もう少々おまちくださいませ」

「貴様使用人のくせに、先ほどから生意気な口ばかり聞きおって」


 吐き出すように言った中年男性は、ハワードとドロシーが止めているのに、まったくいうことを聞かない。もしかしてこれが、フリードリヒの親戚なのだろうか。


「このような時間に寝室にまで押しかけてくるなど、不躾ですよ。サロンでお待ちくださいませ」

 リデルはびしりと言った。


「くそ、生意気な女だ!」

「小娘のくせに図々しい」

 悪態をつきつつも男女は部屋から出て行った。

(なんて人たちなのだろう……)



 さっそくドロシーに手伝ってもらい身づくろいを済ませると、不安な気持ちを抱えサロンへ向かった。


 ドロシーによると、最初は執務室に押し入ろうとしたらしい。それを門番と男性の使用人たちでなんとか阻止したら、リデルの部屋に行ってしまったという。聞きしに勝る連中だ。


 深呼吸をしてから、サロンへ続く扉を開いた。


 すると、中年の男女の他にリデルと同じような年頃の若い男がいた。どうやら一家で押しかけてきたらしい。彼らはしばらくここに滞在することになるのだろう。先行き不安だ。


「お待たせいたしました。領主代行のリデル・ウェラーでございます。このようなお時間にどういったご用件でいらしたのでしょう?」

 開口一番リデルは言った。


「あなた遠路はるばるやって来た私たちにそういう挨拶はないでしょ? 途中野宿だったのよ」

 まるでそれがリデルのせいであるかのように、中年女性が切り口上に言う。


 しかし、ここで負けるわけにはいかない。

「深夜に寝室に押し入るのもいかがなものかと思いますが」

「なんだと!」

 目を吊り上げて中年男性が怒声を上げる。彼は普通に話せないのだろうか。


「まずはお名前をうかがえませんか」

 彼らに一人で対峙するのは怖いが、リデルは落ち着いた声音でそう告げる。


「驚いた嫁だな。私らの名も知らないとは、お前たちの結婚式には参列しただろう」

 しかし、フリードリヒからは紹介されていない。本当に参列していたのだろうか? 疑わしい。


「申し訳ございませんが、主人から紹介されていないので、存じ上げません」

「失礼な女だな。私はオニール・フリエンだ」

 吐き捨てるように言った。


「私は妻のフラニーよ。こちらは私の弟のサム。それから、私たちの娘はちょっと所用があって後から来るわ。ああ、それからわかっているとは思うけれど私たちは貴族だから、丁重に扱いなさい!」

 そういうと彼らは品のない所作でガチャガチャと音をたて茶を飲み、焼き菓子を食べ散らかし始めた。夫婦だけではなく何故弟まで連れてきたのか。


「腹が減った。おい、まずは食事の支度をしろ。それから、風呂に寝床だ。部屋は一階の一番良い客間を使う」

 そして、妻とサムにいった。


「お前たちも好きな部屋を使え」

 聞きしに勝る図々しさだ。まるで自分の屋敷のようなふるまいに不吉なものを感じる。これは手を焼きそうだ。


「これじゃ足りないわ。ここまで長旅だったのに。そこのメイド、肉を焼いて持ってきなさい」

 フラニーがいきなり命令し始めて、リデルは目を白黒させた。


「ドロシー、夜遅くに悪いわね。簡単にできるありあわせのものをお願いします」

「おい、何を勝手なことを指示しているんだ」

 オニールが怒りに顔を赤く染めて立ち上がる。


「このような時間、大半の使用人は寝ております。彼らは朝が早いので今起こすわけには参りません。どうかお静かに願います」

「はっ、何を言っているのあなた。使用人に気を遣う貴族がどこにいるのよ」

 とフラニーが呆れたように言う。


「おい、リデル、風呂の用意をしろ」


 ぞんざいな口調で言ったのは今まで一言も発しなかったサムだ。あまりのことに唖然とした。よく見ると彼は帯刀している。軍人でもなさそうなのになぜ?




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