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18 知らせ

短めです。

 からりと晴れた翌日は、馬車を出してもらい、川に湧く温泉を下見に行った。


 フリードリヒはいずれ温泉を掘削しようと考えていたようで、執務室には温泉の出る場所を調査していた資料があった。

 きっと戦争で忙しく、あきらめたのだろう。自分には感情がないと言っていたが、なかなかどうして領民思いだ。領を豊かにするためにいろいろなことを計画していた痕跡が見られる。


 リデルが目を付けた候補地は領都を流れる川の少し上流に湧き出ている温泉だ。

 温度は少々高めだが川の水を使って調整できる。城からは馬車で半時間程度、ようすを見に行くのにも丁度良い距離だ。

 

 ハワードが調査した結果、利用される時期は春や夏だけだとのこと。ぜひとも冬にこそ利用してほしい。そうなると建物とある程度の整備は必要だ。一泊程度なら問題なく宿泊できる施設が欲しい。


 露天ではあるが、やりようによっては男女分けることが出来る。家族で来れるようになれば領民ももっと積極的にここを利用するはずだ。そうすれば、人々の往来も増え店ができ、栄えるのではないかと思った。


 社交の予定のないリデルは、足りない分があると小遣いを投じていた。

 これにはドロシーもハワードも心配した。


「奥様、ご自身の予算がなくなってしまうと遊びに行けなくなってしまいますよ。旦那様からも余剰金を半分まで使っていいと許可がおりているではないですか」

 ハワードがおろおろとする。

「お小遣いまで使ったりしたら、買い物もできませんよ! 社交シーズンに息抜きで王都に行かなくてよいのですか? 働きづめではないですか」

 ドロシーはリデルの体を気遣ってくれるが、働き者の彼らにこそ休んでほしい。

「大丈夫です。社交はそれほど好きではありませんし、失敗すれば領の損失になってしまいますから」


 お飾りの妻はフリードリヒが帰ってきたらやることもなくなる。それならば、私財を投じたこの温泉を任せてもらおうと思った。ささやかながら仕事が出来るし、領地に貢献できる。



 フリードリヒからは戦地から二度ほど手紙が届いた。それによると戦局は有利に進んでいて、夏が終わる前には戻れそうだと書いてあった。


 そのほかはすべて連絡事項だった。だから、こちらから送る手紙も、自然と領地運営の報告書のようになる。ただ、彼の無事を祈っていることは必ず伝えている。


 顔には出さないが使用人たちもきっと頼りになる領主が留守で心細いことだろう。そして、心配していたフリードリヒの親戚たちはこの領地にやってこなかった。


 ハワードに聞いてみると、この辺鄙な場所を嫌い用がなければやってこないとのこと。確かに宿がないので、一日、二日は野宿が必要だ。これを聞いて少し安心した。


 このまま無事、フリードリヒの帰還まで領地を守れますように。

 何といっても彼は約束を守ってくれたのだから、リデルもそれに報いなければならない。


 ◇◇◇


 領地に短い夏が始まったある日、戦争終結の知らせが届いた。思ったより短い期間で決着がついてよかった。リデルはほっと胸をなでおろす。


 やはり彼がいなくて心細かったのだ。特にトラブルもなく、無事に約束を守れてよかった。

 

 新しい事業については、手紙で了承の旨を伝えられているので大丈夫だとは思うが、実際に現場を見た夫が何というか、少しドキドキした。

 


 しかし、一週間もしないうちに不吉な知らせがノースウェラー城に舞い込んできた。

 

 戦場での行方不明者リストにフリードリヒ・ウェラーの名があった。 





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