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01 男爵令嬢の災難

 ――別れは唐突に訪れる。それがたとえうららかな春の一日であっても。


 明るい日差しの下で、リデルは屋敷の庭で洗濯物を干していた。さわやかな風が白いシャツをたなびかせる。


 そんな折、リデルの婚約者である次期タングス家子爵のギルバートがやって来た。リデルは彼に向かって大きく手を振る。しかし、彼の表情はいつになく固い。その隣に寄り添うように従姉のイボンヌがいる。何事だろうとリデルは首を傾げた。



 緊張した面持ちでギルバートはリデルの前で足を止めるとおもむろに口を開いた。

「リデル、すまない。イボンヌとの間に子が出来たんだ。別れてくれないか?」

 突然のことでリデルはぽかんとした。


「え……、おっしゃっている意味が全くわかりませんが」

 何かの冗談だろうか? 

 イボンヌはリデルの従姉だ。なぜ彼女と自分の婚約者ギルバートとの間に子が出来たのかわからない。


「本当に申し訳ない」

 ギルバートが頭を下げる。


「リデル、本当にごめんなさいね。私たちが愛し合ってしまったばかりに」

 イボンヌがギルバートの横でさめざめと泣いている。そんな彼女をギルバートが労わるように支えていた。


「そんな……、どうして?」

 リデルは三か月後にはギルバートと結婚式を挙げる予定だった。そしてこの家からやっと解放されると思っていた。



 その後、茫然自失の状態で邸のサロンに行き伯父夫妻と向かい合わせに座る。そこで、ギルバートとリデルの婚約が白紙に戻されて、新たにイボンヌとギルバートが結婚することになった旨を聞かされた。

「もうタングス子爵と話はついている」

「じゃあ、私はどうすればいいのです?」

 リデルは震える声を絞り出す。悲しめばいいのか、怒ればいいのかわからない。突然のことで混乱していた。彼らがいつ恋仲になったのかもわからない。


 ここ数年伯父夫婦の世話になり、不自由で肩身の狭い生活を送っていた。三か月後には幼馴染のギルバートと結婚をして、父や母のような温かな家庭を築いていこうと思っていた。それなのに。


「リデル、生まれてくる子のためにもここは引いてくれないか?」

 伯父のマイケル・ドリモアが言う。そもそも、この婚約話を進めたのは伯父なのに身勝手な話だ。


「そうよね。今まで親のないあなたの面倒を無償で見てきたのだもの、その恩に報いてくれないかしら。まさかイボンヌの子を父親のいない子にするわけにはいかないでしょ?」

 伯母のミネルバが当然のよう言い、イボンヌをかばう。


 リデルの両親は五年前に他界している。唯一リデルの味方をしてくれていた従兄のクルトは三年前から外国に留学していて、この場にはいない。

「……わかりました」


 これから先もこの家で生きていくためには、そう答える以外なかった。結婚することもなく、ずっとこんな使用人のようにこき使われる生活が続くのだろうか。


 イボンヌに寄り添うギルバートの心はリデルのもとにはもうないことは明らかだ。泣いて縋ったところで手を差し伸べてくれるものはいないことだけはわかった。



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