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いのちの詩(仮題)

感傷

作者: 浮き雲

変わっていくことが当たり前なのに、変わらない何かを求めて、僕は故郷を目指します。たぶん、それは、記憶のリアルな断片であったり、懐かしい同胞であったりするのでしょう。

けれども、過疎の町には、幼馴染さえすくなくて。誰もいなくなった実家と、会う人のいない故郷は、昔の風景を記憶のとおりにとどめていたとしても、どこかしらよそよそしく感じられます。

不連続の記憶に、時の流れの中で失くしたものたちをより強く感じて、僕は故郷に失望します。そして、また、新しい不連続な故郷の記憶の断片を、地層のように幾重にも積み重ねて故郷を後にします。

それでも、しばらくすると、また、帰りたくなって、そして、また、よそよそしさと未視感(ジャメ・ビュ)を覚えて、僕は故郷に迷子になったような気がします。


別に、作家の室生犀星氏のように虐げられたわけでもありませんが「故郷は遠きにありて」、こころの中にある記憶を懐かしむものなのかもしれません。




シャッター商店街を歩く


ところどころの更地から


青い空が抜けて見えるのが、妙に淋しい


生まれ育った町は変わっていく


そこが町の中心だった時代は、とうに終わりを告げた


田舎町だから、車がないと・・・


そう言いながら、誰しもが郊外の大型店を目指す


僕自身、ここを歩くのは何年ぶりだろう




感傷には、何の生産性もない


わかっている


お気に入りだった手打ちラーメン店


廃業したのは店主の高齢化のせい


たまり場にしていた喫茶店は


洒落たカフェに変わり


学生たちのたばこの煙は、もう似合わない


薄汚れたアーケードの


所々に空いた穴から青い空がのぞいている




寂れたバスステーションのベンチには


しわの深い高齢の男性がふたり、背中を丸めて腰かけている


知人と自分の健康の話題


収穫した作物の出来、不出来


そして、誰かの訃報について


声高に方言を話す老人が、懐かしくも淋しい


僕は、もう、あの中にもいられないのだ




県外ナンバーが目立つ


新しい幹線道路(バイパス)にスルーされて


子どもの頃


バスに轢かれそうになった


煉瓦塀(れんがべい)だけが残る実家の前の道には


もう、車さえ、めったに通らない




海は、相変わらず遠浅だけど


潮の香りは、澄み切っている


あの油の匂いと腐った魚の匂いは、どこに消えたのだろう


僕ではなく


僕の記憶が、失くしたものを恋しがる




夕陽が西の海に沈んでいく


漁船の影が二つ


灯台の下をくぐって、漁港へと帰っていく


残した白波が、海を分ける


見下ろせば、岩を打つ波の音が


激しくも、どこか切ない




やがて、陽が沈めば、ここを後にする


記憶は残り、現実は消えて


懐かしんだ故郷の姿は、もう、残り少ない


僕は、あと幾度、ここに来るだろう


そう、わかっている


帰る場所を探すたびに、帰る場所は消えていく


たぶん僕は、また、迷子になる





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