幼馴染がジャックオーチャレンジしてたので止めた
また、思いつき勢いで書いてしまった……。
日常の中で突如起きる非日常は人生をおいしく楽しむためのスパイス、と誰かが言った。いや、CMだっけ?
まあ、とにかく、この言葉には賛成だ。誰だって、平穏と刺激という相反するものを求めてる。
例えば、恋愛。流れていく学生生活の中で、好きな人が出来ればカラフルな日々が始まるし、恋人ともなればより刺激的な日々になるだろう。
例えば、部活。ただひたすら練習するだけよりも勝つか負けるか分からない試合や大会があったほうが楽しい。勝てばもっと楽しいだろう。
例えば、人生。ただゆっくりと平和に流れていくだけだと多分飽きる。どこかで、幸せや不幸せが起きるから人は一生懸命生きる。
分かる。俺も、恋愛がしたければ、部活で活躍もしたい。楽しく生きたい。
非日常。いつもと違う世界。
それを俺も求めている。
そして、そういうのはいつだって突然だ。
『たすけて』
さっき別れたばかりの幼馴染から入ったメッセージ。
平仮名で句読点もなく送られてきたメッセージ。
弾かれたように俺は自分の部屋を飛び出す。
階段を飛び降りるように下り、家を出る。
心臓が高鳴る。これは恐怖か興奮か。
チャイムを鳴らす。
慌てて、アイツのお母さんが現れる。
酷く狼狽している。
「奏は!?」
「上に……仁君、早く、早く、行ってあげて……!」
俺は、階段を駆け上がる。
部屋の場所は分かる。勝手知ったる幼馴染の家だ。
ノックもせず、ドアを開ける!
「仁ちゃん!」
日常の中に突如起きる非日常は人生のスパイスだ。
けれど、これはスパイスと言えるのか。
俺が見た非日常。それは、
俺の幼馴染が、下半身は大きく開脚をしながら立ったまま、上半身は寝そべるように地面すれすれ、腕を顎の付近で組んでいる、そう、一部で話題のあのポーズだ。
俺の幼馴染がジャックオーチャレンジしてた。
「何してんの?」
有坂奏。それが俺の幼馴染。
黒髪長めボブ(ロブだと奏には怒られた)。気持ちぽっちゃりで、胸とかは多分平均より結構大きい。目が大きく、鼻口は小さい。ぶっちゃけモテる。
高校一年二学期に突入したばかりだが、もう両手では数えられないらしい。
けれど、誰とも付き合うことはなく、高嶺の花みたいになっている。
そんな高嶺の花が、地面に伏せていた。
「何してんの?」
もっかい聞いた。
「どう!?」
輝く笑顔(低め)で聞いてくる。
「何が、どう?」
引き攣り顔(高め)で聞いてみる。
「興奮した!?」
「別に」
「なんで!?」
「え? 逆になんで?」
「今、流行りのアレだよ!」
「今、流行りのアレだな」
「興奮した!?」
「別に」
「なんで!?」
矢継ぎ早に低めから質問が飛んでくる。
「え、と……三次元で見ると思ったより、怖い」
「怖いの!?」
「二次元と三次元では違うなーと実感してる」
「実感しないで!」
「っていうかなんで?」
「だって、昨日私仁ちゃんに告ったじゃない!?」
「うん」
そうなのだ。
何をトチ狂ったのか、このモテ女は、俺に告ってきた。
「で、断られたじゃない!?」
「断った」
ぶっちゃけ、俺は平均的な男子だ。
幼馴染というラノベポイントを差し引けば、特に何かあるわけでもない。
あと、
「その時、『お前を異性としては見られないと思う』って言ったじゃない!?」
「言った」
そう。幼馴染レベルが高すぎるのだ。
ウチと有坂家は本当に家族同然のお付き合いをしている。
そうなると、もう奏なんて妹みたいに見えてくる。
近所の悪ガキにいじめられてる奏を助けるのは年の近い俺だったし、食べられないおかずを食べてやるのも俺だったし、おねしょ犯人の身代わりにされたのも俺だった。
俺は、家族と……的なそういうシチュエーションもやはり二次元に限ると思っている。
「あの時、『お前を異性としては見られないと思う』って言ったじゃない!?」
「なんで二回言ったし」
「で、これ!」
「どれ?」
「興奮した!?」
「してない。むしろ、心配。大丈夫? プルプルしてない?」
「してる! 早く見てもらわないと限界だった! たすけて!」
「それで『たすけて』かよ!」
道理でおばさんが、奏を自分で助けなかったわけだ。
「いや、でも、別に自力でなんとかなるんじゃ」
「この体勢になる為に、棚でお尻押さえて、手で鉄アレイ持ってるから!」
「馬鹿か!」
「前門の鉄アレイ、後門の棚ってね」
「うまくねーわ!」
そういえば、ウチの幼馴染は運動神経が皆無だ。
けど、一生懸命どんくさいなりにやるもんで、弾むわけで男子が盛り上がる。
ちなみに、その男子たちはしばいた。
なので、こんな柔軟性と筋力を求められるポーズなんて普通には出来るはずがなかった。
「っていうか、誰の鉄アレイだよ」
「お、お父さんの」
奏の父親は、バリバリのスポーツマンだ。奏もおばさんもスポーツが苦手なので、よく俺が付き合わされた。なので、それなりには筋肉があるつもりだ。
鉄アレイの隙間にスマホが見える。あれでたすけてうったのか器用だな。
でも、スマホうてるってことは……。
「とりあえず、鉄アレイ離せるか?」
「離すだけなら……でも、引っかかって前に行けないし、上半身が重くて持ち上がらない……」
上半身重いとかいうな。重い原因を見てしまうだろが。
ただ、手が外れたなら話は早い。
奏をまたぎ、わきに手を差し込む。
「ひゃっ! ちょ、ちょっと仁ちゃん!」
恥ずかしがる奏。ジャックオーチャレンジした奴がこれで恥ずかしがるな。
「方法がない。諦めろ」
「ううぅ~~……」
唸り声をあげる奏。何故こうなることが予想できなかったのか。
奏は、勉強は出来る方で頭は良い。
けれど、何かに夢中になったりすると、途端に周りが見えなくなる。
ゲーセンで、銃撃つゲーム(名前は知らない)で思いっきり屈んでパンツ見せても気にせず続けたりとか(俺が背後に立って誤魔化したのに、めっちゃ驚かれて怒られた)、海に遊びに行って遠泳勝負した時も上がなくなってたりとか(俺の背中に隠れて帰ったのに、えっちだと怒られた)、とにかく、そういう傾向がある。
何に夢中になってるんだか。
俺は苦笑しながら、奏を思いっきり持ち上げようとする。
奏の身体は大分熱くてちょっとしっとりしてた。
茹蛸みたいになってるせいか、シャンプー? コンディショナー? の匂いもむわっと香る。
「持ち上げるぞ」
「ま、待って!」
「どした?」
「昨日ご飯食べ過ぎたから重いかも、だから、やっぱいい」
「持ち上げまーす」
「ぎゃああああ! ひとでなしぃいいい!」
なんでだよ。
奏の絶叫に顔を顰めながら、俺は股の間から奏をずるりと引き上げる。
奏は重いと言ってたが、全然軽い。
奏は、組んでいた腕を顔の前に持ってきて顔を隠し、足はぶら~んと垂れている。
そのまま、俺前方へと正座着陸させる。
「で?」
「で? とはなんでしょうか? 仁ちゃん」
「なんでこんなことした?」
「だから、仁ちゃんをドキドキさせようと」
「なんで、これを選んだ?」
「多喜ねーちゃんが、最近仁ちゃんの履歴コレばっかりだって……」
「何リークしてんの!? ウチの姉は!」
「で?」
「で? とはなんでしょうか? 奏さん」
「ドキドキした?」
「さあ」
「さあ!? さあってどういう感情!?」
「とにかく、もうやるな! 分かったか!?」
「さあってどういう感情!?」
「ねえ、聞いてる!?」
その後、何度目かのチャレンジを経て、俺が根負けした。
俺は奏と付き合うことにした。
日常の中で突如起きる非日常は人生をおいしく楽しむためのスパイス。
でも、そのスパイスはジャックオーチャレンジではない。
「たすけて」というメッセージを見て本気で心臓が痛くなったが。
ジャックオーチャレンジで誘惑しようとするバカみたいな一生懸命さにドキっとはしたが。
ノータイムで心地よく出来る高低差会話に心弾んだが。
相変わらずの運動神経のなさにかわいいとは思ったが。
おねしょ犯人の身代わりにされたころには感じなかった色気にクラクラしたが。
諦めずにドキドキさせようとしてくるその一途さに胸を打たれたが。
色々ひっくるめて、何故かすごく女の子に見えてきたが。
きっかけはジャックオーチャレンジではない。
じゃないと、
「今度のはどう!?」
自分の部屋のドアを開けた俺の目に飛び込んできたのは、俺の恋人が、下半身は大きく開脚をしながら立ったまま、上半身は寝そべるように地面すれすれ、腕を顎の付近で組んでいる、そう、一部で話題のあのポーズ。
「どうって?」
「興奮した!?」
「してない」
「なんで!?」
「逆になんで今度はいけると思ったし」
「恋人だと見えるものが変わるくない!?」
「いや、恋人でも怖いなって」
「変わってない!」
少しばかりドキドキしてる原因がこのポーズだとは思いたくない。
彼女の下半身を押さえてる鏡には、彼女の間抜けなお尻と、笑う俺が映ってた。
読んでくださって本当にありがとうございました。
あのチャレンジが個人的には面白枠なんですが、やっぱりセクシー枠なんでしょうか。