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天才か?

(取りあえずは手前からか)


 特に理由もなくそう考えて、俺はこの家の扉の感じを思い出してゆっくりとノブを回す。その際に音はならない。こういうこところが流石俺だ。入った家のノブの音が鳴る程度を瞬時に理解する。そして音を立てずに扉を開けるのだ。並みの泥棒では出来ないだろう。


 キィ


「・・・」


 どうやらこの扉は泥棒対策が施された特別使用だったようだ。まさか俺の技量を上回るとは、やるじゃないか。


 目の前にそびえ立つ扉とその扉を準備した施工業者に敬意を払いつつ、扉を開けようとしてその手を止める。固唾を飲み込もうとしてワサビが当たったので寸前の所でやめた。中では仄かな光を放っていたからだ。


「・・・」


 俺は冷汗が止まらなかった。その人物はイスの上に座ってヘッドホンを被り、机の上に乗っているノートパソコンを凝視している。もしもその人が今の音に気付いていたらどうしようか。無音で黙らせること等出来はしないだろう。だから何とかバレてない事を祈るのみだったのだが、その人物が声を発した。


「はぁ。あの人はやっぱり来てくれないのよね・・・。私はいつでも待ってるし、色んなことやってみたいのにさ・・・。やっぱり私から行こうかしら?でも、あんまり誘ってもね・・・」


 俺はホッと胸を撫でおろし、ワサビを吸い込みかけて慌てて止める。しかし、その人物は俺に気付いた様子もなく独り言を言っている。その人物は声の感じから女性だった。内容的に見てもきっとそうだろう。後ろからしかもノートパソコンの光以外は彼女を写していない為、良くは分からないけれど、後ろから見た感じのスタイルもいい。それに短く切られた感じが大人っぽさを感じさせる。パジャマはちょっと着崩しているようだけど、それがまたいい。


 おっと、そんなことをしている場合じゃなかった。俺はそっとそれ以上が気付かれないように扉を閉める。さっきは音が鳴ったが今度は俺の方が上手だ。音は全くならなかった。


 俺は次の部屋を見に行く。ここは確か3人家族、どちらかがきっと子供部屋なのだろう。子供の年齢も小学校中学年くらいだったハズだ。だから中に居なかった方を調べようと思う。


 ドアを開けるとそこは子供部屋だった。壁などには子供の好きそうなポスターがかかっていて微笑ましくなる。が、今は仕事中だ。そんな感情は押さえてそっとその部屋を出る。


 そして最後の部屋は物置の様だった。部屋の中のカーテンは締め切られ、仄かな明かりすらない。俺は不安に思いながらも少しでも探索しなければと思って探索を開始する。


 しかし、芳しい結果はでない。置いてあるのは古めかしいなんの価値もなさそうなガラクタと、型落ちの家電の段ボールばっかりだった。俺は諦めてこの部屋を出ようと決める。そして、少しだけ油断した時に腰に付けていた巾着が段ボールに当たってしまった。


 ガタン


「・・・・・・」


 俺の心臓は早鐘の様に打ち鳴らし続けている。誰かが気付いてくるか?ならその時に俺はどうすればいい?そう思って俺は今できる最善の行動を取った。


 そして、10秒程してから、ガチャ。隣か、そのまた隣から扉を開ける音が聞こえてくる。やばい、どうしよう。子供や女でも押さえても暴れられればバレるかもしれない。それに子供を手にかけるのはやりたくない。泥棒はしても殺しはしない。それが俺のポリシーだ。


 ガチャ。


 俺のいる部屋ほ扉が開けられる。俺は大口を開け、それを片手で押さえる。口から出るワサビ臭を感じ取られないようにする為だ。これをすると口の中にワサビ臭が溜まっていってしまうけど、バレるよりはましだ。もう一本の手は悪さをする巾着を押さえるのに必須だったのだ。


 そして入ってきた人の陰を見る感じ、どうやら隣で寝ていた子供が入ってきた様だった。


「誰かいるの?ふぁ・・・」


 そう言って彼は部屋の中を見回しているようだ。それらは全て陰の感じで把握している。俺の緊張感が高まる。彼がもしこの狭い部屋の中に入ってくればバレるかもしれない。それだけは避けなければ。


「んー。泥棒とかだったらどうしよう」


 ドクン!俺の心臓が跳ねる。この子供まさか有名な金〇一や明〇とかの息子とかということはないか?たった部屋を開けただけでそう考えるのはそうとしか考えられない。


 そう思っているとその子供はスッと部屋の中に入ってきた。俺は目を見開く。こいつ馬鹿か?自身で泥棒の可能性を考えてお気ながら部屋の中に入ってくる。そんな事をしてくればどうぞ殺して、いや、連れ去ってくださいと言っているようなモノだぞ?


 今回の俺は口の中にワサビというハンデを背負っている為その手は今回取れないが、それでも本来ならそう言った事も考えるべきだ。そこまで考えてハタと気付く。


 ここまで考えることが出来るのは俺に探偵の適性は無かったからだ。昔読んだ推理小説でそんなの分かるかと匙を投げた俺がいうのだ。間違いない。しかし、しかしだ。もしもこの子供に推理の適性があれば、この状況をどう読み解くのであろうか。廊下に漂っているワサビの残り香から、泥棒、つまり犯人は大量のワサビを口に含んでいて、それを吐き出すにも飲み込む事も出来ないでいる。そんな状態の犯人が例え小学生相手でも戦って勝てるか?それはやってみなけらば分からないと考えたなら?そして、もしも自分の推理が当たっていると考えて、それを確定させるために今こうやって見に来ていると考えればどうだろうか。


(このガキ恐ろしい子・・・!)


 俺は震えた。まさかこんな世紀の探偵に出会えた感謝に。そしてそんな探偵の最初の解決する事件の犯人になれたことに。これから彼は多くの犯人を豚箱に送るだろう。ある事件の最中に友人が殺されるかもしれない。変なクスリを嗅がされて子供になってしまうかもしれない。いや、既に嗅がされて子供になった後かもしれないな。そんなことを思い俺は一人諦め、探偵が犯人を見つけるのを待つ。


(早くしてくれないかな。見つけてくれればこのワサビを今すぐ吐くのに。それに俺と同じように豚箱にぶちこまれてくる奴らに先輩面できるからな。俺が最初の犯人なんだぞって・・・)


 俺は彼が俺を見つけるのを待つ。だが、その時は永遠に来なかった。


「誰も居ないし、気のせいかな」


 そう言って子供はパタンと扉を閉じて部屋から出て行ってしまったのだ。俺の頭は混乱していた。今すぐにでもこのワサビを吐き出せるのに、それが出来ずにどうしてこんなことになってしまったんだ。その時、瞬間的に頭に閃光が走る。


(俺は・・・許されたのか?)


 もしかして、もしかするとそうかもしれない。子供が出ていく時にわざわざいないなって言ったのも俺に知らせる為?そうでなければ説明が付かない。そうか・・・。俺は彼に許されたのか。そうだ。今のところ、俺が盗んだモノは寿司だけ。それくらいは見逃してやるから、これからは心を入れ替えて生きろ。そういうメッセージなんだと俺は思った。


 俺はそう考えて我に返る。彼が許してくれたのなら俺がすることはあと一つだけ。そっと帰ることだ。


 彼が行ってから寝るまで少しの時間待つ。少し時間がたったなと思ったところで俺は扉の外に出た。そこには誰もおらず。変わらぬ廊下があるだけだった。そして俺はその廊下を通り、一階へと降りる。


 歩く速度や音には注意をする。心を入れ替えると決めたとしても、もしこの状況を普通の父や母が見た時、どう思うか。すぐに泥棒だと思って通報するだろう。それでは彼の温情に対することは出来ない。そう思ってバレずに、俺が来た形跡は彼だけしか知らないようにして行かなければならない。寿司はもうどうすることも出来ないが、彼が夜にでもちょっと摘まんだことにしてくれるのだろう。


 俺は部屋でいびきをかく彼の部屋に行く。そして部屋を少し見回すと、扉のすぐそこには財布と彼のものであろうスマートフォンが置いてあった。俺がここに来た時に気付いていればこれだけ持ってさっさと帰っていたかも知れない。しかし、この家にはあの天才探偵がいる。俺がそんな事でもしようなら許されないだろう。だから俺はそんなことしない。


 多少後ろ髪は引かれるが、サッサと家を出ることにした。


 それからは問題もなく家を出られた。それから俺は口を大きく開けた状態で家に帰り、家に着くまで何度もワサビの爆撃を食らう。しかし、これは禊の様なモノだと思っている。だから俺は甘んじてその状況を受け入れて、家に着いてからもその寿司を何とか食べきった。口の中はワサビでボロボロだったが、心は晴れやかだった。


******


 次の日のある家族の家。その家の母と子供が話していた。


「あー。アンタ食べたでしょ!」

「そんなことしないよ!」

「じゃあ誰が食べたって言うのよ!」

「父さんじゃないの?」

「あの人はそんなことしないわ」

「そんなこと言われても・・・」

「ちょっとお仕置きが必要な様ね。今度のゲーム買って上げないわよ?」

「そんな!俺じゃないってば!(いたずらでワサビは一杯入れてたけど・・・)」

「じゃあ誰が取ったって言うのよ」

「昨日の夜なんか音がしてたから泥棒が入ったのかも!」

「はぁ?泥棒が入ったのに寿司だけ食べて帰るなんてある訳ないでしょ!」

「それは・・・そうかもだけど」

「まぁいいわ、それじゃあちょっと言うことを聞いて貰うから」

「何・・・?」

「夏休みに私の実家に行くわよ」

「えー、ほんとに知らないのに・・・」


 そう言う彼の顔は本当にめんどそうだった。



Fin

次に寿司を食べる時は、ワサビの量を確認しようと思った方はブックマークと評価をよろしくお願いします。

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