飛べなくなったカモ
ある池の畔で、1羽の母ガモが数個の卵を産みました。
季節は流れ、5羽の子ガモが生まれました。
母ガモは、それぞれにイチカ、フカ、ミカ、ヨツカ、イツカと名付けました。
「ねえママ、お腹減ったよ!」
子ガモ達は、羽をバタつかせ餌をせがみます。
「はいはい…、しっかり食べなさい。」
母ガモは、せっせと餌を与えます。
こうして数ヶ月が過ぎ、子ガモ達は巣立ちの為、飛ぶ練習を始めます。
「さあ、羽をバタつかせて。」
母ガモが、羽をバタつかせ、それに合わせて子ガモ達も羽を動かす。
「さあ、もっと早く、もっと強く。」
すると、ゆっくりと地面から足が離れ浮き上がる。
「飛んでる!」
子ガモ達は少し飛べたことに大喜び。
「その調子よ。」
子ガモ達は、飛ぶ練習を毎日続けた。
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ある日、母ガモに連れられ、崖にやって来た子ガモ達。
「今日は、ここで練習しましょ。」
母ガモは、崖で羽を動かし少し浮くと、崖に移動し崖を降りていった。
「あなた達も降りておいで。」
母ガモの声に、イチカが羽をバタつかせ浮き上がる。
「イチカがイッチバン!」
イチカはスルスルと降りていく。
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バサッバサッバサッバサッ!
崖の下に降りたイチカは。
「ママ、どうだった?」
母ガモはイチカの頭利撫でて。
「上手よ。」
イチカは嬉しそうに羽を動かす。
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崖の上では。
「次はイツカが先に行けばいいよ」
周りの兄と姉が頷く。
「よーし!行くぞー!」
イツカは、羽を動かすと、体が少しだけ浮き始めた。
「頑張れイツカ!」
イツカは、更に羽を動かし、前に進む。
「その調子!」
そして、イツカも、崖を降りていく。
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バサッバサッバサッバサッ!
「ママ!飛んでるよ!」
イツカは母ガモの前に降りた。
「頑張って降りてきたね。」
母ガモは、イツカを撫でる。
すると、
バサッバサッバサッ!バサッバサッバサッ!
フカとミカとヨツカが降りてきた。
「イツカ、無事に降りれたんだね。」
イツカは、羽をバタつかせ返事をした。
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数週間が過ぎた頃には、子ガモ達も母ガモくらいまで大きくなってるとか成長し、フカとヨツカには、雄鳥特有の綺麗な羽も見えてきた。
そんなある日、毎日のように崖で飛ぶ練習をしていた子ガモ達、ミカが崖から飛び降りた時だった。
シャァー!
突然、崖の木から蛇が飛び出した。
「ワッ!」
ミカは驚いた拍子に羽を崖にぶつけ、そのまま体から落ちてしまった。
「イターイ!」
ミカは、体の痛さで走り回る。
「ミカ、落ち着いて!」
イチカやフカがミカを落ち着かせる。
「ミカ、一旦家に帰ろう。」
イチカとフカが、ミカを支えながらヨツカとイツカを連れ家へ帰る。
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「ママ!ミカが崖から落ちたの!」
イチカの声に、母ガモは慌てて駆け寄る。
「まあ、大変!ミカを座らせて。」
イチカとフカが、ミカを座らせる。
「骨は折れてなさそうね。」
母ガモはミカの体を調べる。
「ミカは大丈夫?」
ヨツカやイツカが母ガモを見る。
「治るまで安静にすれば、大丈夫よ。」
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数ヵ月後、ミカの怪我は治った。
他の子ガモ達は、空高く飛べるようになり、たくましく成長し、巣立ちが近づいていた。
「ミカ、羽を動かしてごらん。」
ミカは母ガモに言われ羽を動かしてみる。
しかし、崖にぶつけた方の羽は動かせないようだ。
「ママ、片方しか動かせないよ…。」
母ガモは、オロオロと崩れこんだ。
「ママ!」
子ガモ達が駆け寄る。
「ミカは…、もう飛べないの…。」
ミカも他の子ガモ達も愕然とした表情を浮かべる。
そんな中、母ガモが口を開く。
「本当なら、1羽1羽巣立たせるべきなのだけど。」
母ガモは唾を飲み、頭を下げる。
「これからもあなた達皆で、生活をしてほしいの!」
ミカ以外は巣立ちの時季だと悟っていた為、驚いた。
「ママ、どう言う事!?」
母ガモは、その答えを話し出した。
「ミカが、飛べないって事は、他の生き物に狙われるって事なの。
兄妹が、ただ食べられるのは嫌でしょ?」
子ガモ達は頷く。
「だから、皆で生きてほしいの。」
母ガモの言葉に、子ガモ達は頷く。
「ママ、分かったよ。」
母ガモは涙を流して喜んだ。
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数週間後、母ガモに見送られ、子ガモ達は巣立って行った。
5羽の子ガモ達は、その後何度も困難を乗り越えながら、元気に暮らしました。
§おしまい§