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叔父さん

 忙しいはずの叔父さんが帰ってきたのは30分もあとだった。

「……」

 しかも無言だ。

「女将さん、未亡人らしいですよ」

「本当か!?」

 そっと話を向けると、食いつきが半端ない。

「はい。そう聞きました」

「うーん」

 なにを考えているのかは分からないが、どうせろくなことではないだろう。

 しかし、女将さんには歯が立たない。

 真剣に悩んでいる叔父をしり目に、なぜだかササミはそう確信していた。

「甥っ子を心配してたびたび顔を見せるのは不自然じゃないと思いますけど」

「そうだな。うん、そうだ」

 本当は不自然なのだが、人は信じたいものを信じてしまうのだ。

「それに、もっといい方法もありますよ」

「うん?」

「こっちです」

 ササミは叔父さんを外へと連れだした。


「ここは焼き鳥屋さんだったんですけど、郊外にショッピングモールが出来て移転したそうです」

「お前、まさかとは思うが、ここに店を出せというんじゃないだろうな?」

「いえ。はい。まあ、そうなんですけど、聞いてください」

「……」

 叔父さんの表情が途端に厳しいものになる。先ほどとは別の経営者としての厳しさだ。

「昨日会合があったんですけど、ショッピングモールが出来たせいでこの商店街がシャッター街になるかもしれないって雰囲気だったんです」

「よくある話だな」

「でもね。日曜や祭日は知りませんけど、ここは駅からも近いし、平日の賑わいはそう変わらないように思うんですよね」

「ふむ」

「今もそうですけど、ここ人通りが多いですよね」

 二人は周りを見渡した。

 福井で知っている商店街と比べるのもどうかと思うが、少なくとも人が途切れることは無かった。


「もう1ついいですか?」

 ササミは店の方を向いた。

「俺はグッピーのブリーディングをしたいんです」

「お前の部屋で飼っていた綺麗な魚か?」

「そうです。店売りをする暇はないし、通販で行くつもりなんですが、そうなると店の奥半分しか使わないんです」

「何が言いたい?」

「店と店の間は狭いし、壁をぶち抜けば、客席をかなり確保できませんか?」

「うーん」

「店子料の代わりに賄い飯をお願いします。以前バイトした時に美味しかったので」

「店子料は取れ。これは商売だ」

「はい」

「出店するときは完全に建て替えをするのが基本だが、商店街の先行きに不安があるなら改築もありだろう」

「じゃ?」

「早まるな。市場調査の必要は認める。それだけだ」

「はい」

 やはり、そう簡単にはいかないようだ。


「夕方担当者を連れてくるから商店街の代表者に合わせろ」

「はい」

「仕事はそいつに押し付けて銀座に行くぞ」

「よっしゃー!」

 みつるは両手でガッツポーズだ。

「現金なやつだ。俺は視察に行く、掃除を済ませておけ」

「え?本当に視察だったんですか?」

「俺を誰だと思ってる!」

「し、失礼しました」

「ったく」

 敬礼をするササミを残して叔父さんは去っていった。

「あんなことを言っておいて、やる気満々じゃないか」

 新規出店を確信したササミは商店街会長のもとへと足を向けた。


☆☆☆☆☆


「みつる君の叔父さんて、いい男だったわね」

「かあさん?」

 安西甘露堂では母と娘が話をしてた。

「実績に裏付けされた自信は自慢話など必要としない。あくまでもスマートで、控えめな態度を崩さないのは評価に値する。女をものにしようとしないで、女が惚れる男を目指すって感じね」

「かあさん?」

「男にはいいところが必ずあるの。まずはそれを認めてあげる。それが男とうまく付き合う方法よ。もちろん、惚れるかどうかは別の問題だけどね」

「……」

「若いうちは感情が先に立っちゃうけど、覚えておきなさい」

「うん」


「みつる君で練習してみなさい」

「練習?」

「そう。彼には独特の良さがある。好きにならなくてもいいから、それを見つける練習をしてごらんなさい。きっといい経験になるわ」

「あんまり気乗りしないけど、わかった」

 いい女であればあるほど男を見る目が必要になってくる。

 経験豊富な母の助言には、不本意ながらもうなずくしかない琴美だった。


☆☆☆☆☆


 掃除をしながら叔父さんを待っていると慎二から電話があった。

 スマホ片手に奥の部屋に行きパソコンを立ち上げる。

 慎二が作った新しい口座にお金を振り込むためだ。

 銀行にもよるが、普通預金のオンラインサービスで、パソコンで振り込みが可能だ。

 振込先の銀行コードと口座番号を入れると、名義人の名前が出て確認できる。

 夜でも手続きが出来るので便利だし、営業時間内だとリアルタイムで反映されるのが魅力だ。

「いつでも来い。待ってるから」

「うん」

 ありがとうも言わない弟に、無駄使いするなよと言いそうになるのを我慢してスマホを閉じた。


☆☆☆☆☆


 今日はヒーターについてです。第3回ですね。


 オートヒーターというのがあって、水槽に入れておくだけで26度に保ってくれます。

 30センチ水槽で50W。60センチのスタンダード水槽で200Wが目安です。

 セット水槽には入っています。


 温度設定が出来るタイプもあり、稚魚の時は高めにして成長を促し、成魚になれば低めにするといったことが可能になります。

 センサーとヒーターが別の物もあります。三つ又コンセントを使うと3つ同時に管理できます。

 注意するのはワット数と、センサーが水槽の外にあると水が沸騰してしまうことです。


 ここでおすすめしたいのは水色のハッポースチロールで、カッターで簡単に切れます。

 白いほうが安いのですが、上手く切れないしゴミが出ます。

 これを底と背面、さらには両サイドに張り付けると省エネとなります。お試しあれ。


☆☆☆☆☆


 夕方になり、叔父さんが来た。

 担当者を商店街会長に押し付けて銀座にくりだす。

 叔父さんは有言実行の人だった。

 行先は高級中華だ。

 豪華だがこじんまりとした部屋は2人だからだろう。

 中央には丸いターンテーブルがあり、次から次へと料理がやってくる。

 そのテーブルを回しながら好きな料理を小皿にとって食べるわけだ。

「うまーっ。これも、これも、うまーっ」

 こういう店はみつるには早すぎたのか、味わうというよりがっつくように食べていて、食事をしながらの会話など無理な話だった。

 叔父さんは余裕でお酒を飲みながら料理を味わい、甥っ子の見事な食っぷりを楽しんでいた。

「はーっ、くったーっ」

 料理をほとんど一人で食べたみつるが、おなかをさすりながら椅子にもたれかかった。

「大学の方はどうだ?」

「まだ始まっていませんけど、1.2年でどれだけ単位を取れるかが勝負らしいです」

 ようやく話が出来るようになった。

「なるほど。じゃ、忙しいな」

「そうなんですよね。グッピーの方は月500ペアまで引き取ってくれるチエーン店があるので、あとは通販なんですけど。どこまで出来るかは勉強の量しだいです」

「500ペアってゆうと1000匹か。月当たりだろ?そんなにいけるのか?」

「10000匹までなら可能です。だけど、今度は買い手が無いんですよね。もっと大きなチエーン店を持った卸先があれば別ですけど、どちらかというと、マニアの人に売って、交流を楽しみたいと思っているんです」

「なるほどな」

 もはや子供の趣味を通り越している。叔父さんはみつるを見直していた。

「最低限の収入でも店を続けて、3年後に勝負ですかね」

「店子料が入ればなお安定するか?」

「あてにしないで待っています」

「いい心がけだ。これをやろう。合格祝いだ」

 内ポケットから1枚のプラチナカードを取り出した。

「カードはいいです。親父の遺産で勝負するって決めてますから」

「住宅も店も買い取ったんだから、それほど残っていないはずだ。お金が足らないと感じれば焦りを産む。取っておけ」

「でも」

「暗証番号は兄貴の命日だ」

「あっ、はい。ありがとうございます」

 こだわりは通したかったが、カードは使わなければ済むことだ。叔父さんの気持ちを汲んでもらうことにした。

「なに、俺にはこれくらいしかしてやれんからな。さてと、そろそろ銀座にくりだすか?」

「え?ここ、銀座じゃないんですか?」

「馬鹿なことを言うな。銀座の高級店といえばクラブに決まっているだろう」

「俺未成年ですけど」

「酒の飲めない大学生があるもんか。今日だけ20歳だ。ほら行くぞ」

「は、はい」

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