9.城攻め
それからしばらくは気の向くままに戦場を渡り歩いていた。アンと共に散々暴れまわり、少しはまともにやりあえる面白い手合いやかつての好敵手にも見えることも出来た。......然し、肝心の本命たる奴等とは驚く程出会わかったな。それは期待はずれだったが、今後の楽しみとしておこうか。
そうして、今日。ちょうどミズガルの戦線の一つを終わらせたときだった。
『マスター、これから我らアルフル軍は体制を整えて、対ミズガルとの攻城戦に移行します』
「ほう、やっとか」
ソウレンと出会ったのが、もうずいぶん前のことのようだ。もし俺やアルフルの他の有力プレイヤーがミズガルや、それかどこか他の陣営を集中して狙っていればもっと早かったかもしれないが。
実際、最も血気盛んなプレイヤーの集まる傾向の強いヨツンは、既に一度ヘルンに対して攻城戦を仕掛けている。それに比べれば、どちらかというと平和主義者が集まりやすいこのアルフルが二番目に攻城戦を発生させたと言うのはどうなのか。自分で言うのも何だが、俺ほどに周囲から飛び抜けたプレイヤーはどこの陣営にも片寄っているということはなく、各陣営に程よく散っているように思える。
......まぁ、ここで俺が考えたところでどうなるわけでもないが。
「アン、攻城戦が始まるまでどれくらいだ?」
『Yes,マスター、正確には分かりかねますが、万全の体制に整うまでにはおよそ一時間ほどでしょうか』
「そうか......」
存外長いな。そんなに悠長でいいものか。......いや、単に俺の気が短いのかもしれないが。
考えてみれば、それは十分な勝算を見込める戦力が揃うまでの時間が、という見積もりだろうから──
「よし、往くか。俺はそんなに待てんぞ、アン?」
『Yes,マスター。そう仰ると思いました』
「よくわかっているではないか、ならば良かろうな?」
『Yes,マスター。御随意に』
その返答を聞いた俺は、ミズガル軍の城砦手前でついさっき収束したばかりの戦線での待機地点を飛び出した。
「アン、「無貌」の弐で往く」
『Yes,マスター。「我は無貌、故に無形」』
走りながら発動したスキル「無貌」の第二の効果が顕現する。
「無貌」とは、そもそもがアンの持つ特性を表したパッシブスキルで、その効果は不可視化だった。そして最近の戦いでβ終了時点のレベルにまで到達したアンの取り戻した第二の効果、それこそがセミパッシブとでもいうべき、無形化の能力。実際は新たなスキルの獲得ではなく、アンのもう一側面を顕した攻撃用アクティブスキル「無謀の一振り」を無貌と統合した形で、これによってアンの大前提たる基本スキル「無貌」は完成した。
無形化は一度発動すれば解除するまでの間、アンは俺が意識しない限り物質的に存在しなくなる。つまり、見えず捉えられない、俺の意思を汲んで攻撃する斬撃の概念そのもののような存在になるということで、実質細かい仕様を置いて出来ることだけを言えば、俺の視界全域が射程圏内である超変則斬撃を、自在かつ無数に放てるということだ。
「いざ往かん、心踊る戦場へ」
今回の戦場たるミズガルの砦は、というか、どこの砦もそう大して変わり映えしない見た目なのだが、周囲を円形の城壁に囲まれた中に聳え立つ、三階建ての建物だ。城壁と砦の間にはスペースがあり、主にはNPC用だろう宿舎や広場等がある。
目的とするその敵砦へと堂々と側面から急襲する俺にいくらかの遠距離スキルが飛んでくるが......
「アン」
『Yes,マスター。御身には届かせません』
俺に当たる軌道で迫るその全てが、俺が視認すると同時に真っ二つになって散ってゆく。
故に俺はこうして堂々と砦の真下まで辿り着くことが出来る。そして、駆けてきた勢いそのままに壁に向かって飛び移り、アンのほんの一端を壁に打ち込み、支えにすることで垂直に駆け上がり城壁を越える。
壁の内側にいた剣師達は、唖然とする者や獲物を握りしめる者、慌ただしく走り回る者など、その反応は様々だった。
それをアンに守られつつ、壁から飛び降りがてら確認する。なるべく混乱を利用するために。
「俺一人で片付ける、とまでは言わないが。要は数を減らして戦力を削っていれば、味方も直に追い付いてこよう」
『Yes,マスター、御武運を。フルマニュアルコントロールに移行します』
「あぁ、任せろ」
まずは着地点周辺に空中から無数の刺突を見舞う。目標の大多数は致命傷を負い、そうでない少数もどこかしらに傷は受けた様子。懲りずに飛来し続ける遠距離攻撃を逆に切り捨てながら、着地と同時に仕留めきれなかった者達とその延長線上にいる敵に斬撃を見舞い、ミズガル軍に更なる被害を強いる。
そこで一度、俺は素早く辺りを見回し状況を再度確認した。壁を乗り越えてすぐの広場に元から居た敵は九割掃討。しかし俺の襲撃と同時にそれを知らせに行ったらしき男が、建物から増援とともに戻ってきたようだ。
それだけ確認した俺は、射程全域に当たるを幸いと急所狙いの刺突を放ち、結果も確かめずまた壁の上に登った。そのまま壁上にちらほらと立っている見張りらしき敵を切り捨てながら、また新たな敵集団を探しに行く。
──この襲撃の目標は、ざっと此処に集まった兵の数を減らしておくことだ。それが終われば、最後に手頃な強者を探すとしよう。
そう自分に言い聞かせ、強敵に向かいそうになる気を沈めて雑兵処理に努めた。




