8.御心
まだサービス初日ということもあってか、その後はとくに良い獲物には恵まれず、前に出て少し暴れたらカタが付いてしまった。今はまだ仕方ないことだが、ずっとこの様子では不完全燃焼で不満が貯まってしまうのが目に見えてきたな。
なにはともあれ、これで次からは、よりミズガル陣営に近い位置から戦線が開かれるだろう。このまま順調に攻め込めれば、βには無かった攻城戦に参加できる日もそう遠くないかもしれない。そうすれば、またソウレンとやれるかもしれないし、今は各地の砦に散っている他の強者達とも見える機会もあるだろう。
などと皮算用していると、アンが言った。
『マスター、転移陣の用意が出来たようです。帰還なさいますか?』
何にせよ、ここの緊急戦線はこれで収束。このまま転移術者に先んじて突撃し、転移陣など待たずにミズガルを攻め立てるのも一興かとは思ったが......そろそろ気分転換も必要か。丁度良いから一度砦に戻るとしよう。
砦に着くと、なにやら落ち込んだ様子のアンが言った。
『......やはりご不満でしたか、マスター?』
「ん? あぁ。少し、な」
『そうですか......』
アンとはそれなりに長い付き合いだ、俺が常に強者を求めていることを知っていて、そのせいか俺の相棒として恥じない強い剣たらんとしてくれている。だが......
「......以前にも言ったが、アン、お前は考えすぎだ。お前が素晴らしい剣であるのは俺が一番認めているが、だからといって雑兵相手に退屈を感じているのは決してお前のせいではない」
『ですがマスター......』
尚も言い募ろうとするアン。俺は転移先を吟味しながら、それを遮って返す。
「言うまでもないと思うが俺が不満なのはミズガル軍の不甲斐なさに対してであって、お前にではない。それでも思うところがあるのは分かっているが、お前が優れているから戦いが退屈で不満だ、等とほざく程俺は自惚れているつもりもない。寧ろお前はよくやってくれている。」
『過ぎたお言葉に御座います、マスター......』
まだやるせない様子の残るアン。そんな俺の勝手な思いにまで思い悩む必要はないと言うのに、全く可愛い奴だ。寧ろ、戦っている間中俺の感情が駄々漏れなのがいけないのだろうか。もしそうなら反省しよう。そして、アンにはいらない心労を掛けない様にしなくてはな。
「俺の機微を重く見てしまうタチなのは知っていたがな。......それとも、万が一俺があのとき手にした剣がお前ではない鈍らだったとして、それで俺があんな有象無象に遅れを取ると思うのか?」
『そんなことは有り得ません! 絶対に!! それに私は......』
「だろう?」
我ながら愚問だとは思ったが、やはり思った通りの答えだった。ならば、答えは出ただろう。
「だから、お前こそが俺の剣だ。お前以外の剣など要らないし、あのときに出会った剣がお前で良かったと思っている。そこには塵一つ分の疑う余地もない」
────だからアンは、俺の自慢の剣で、俺の半身だ。......少々頭の固いところが珠に傷だがな。
「理解したならば往くぞ、少しは骨のある奴を探しにな」
『......っ、Yes,マスター、御心のままに!』
その日、丁度縁があったからと訪れたヨツンとの戦線では、嬉々としたアンがいつも以上の猛威を振るったとか、なんとか。




