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5.戦場に立つ剣

 このゲームには特にストーリーらしきものは定められておらず、オープンワールドの異世界を舞台に完全リアルタイムで推移する戦場へとプレイヤーが放り込まれることになっている。そのあまりの自由さ、世界観から一部のプレイヤー達はこのゲームのことを「世界の裏側の戦場」等とも呼んでいる。


『マスター、前線拠点「城砦」の実装により、一部仕様が以前のものから変わっています。以前は各国唯一の拠点である王城より戦線へと向かいましたが、現在は転移の魔法陣が各地の拠点にあり、そこから戦線へと赴けます』

「なるほど。そうだったのか」


「魂剣師」たるプレイヤーは戦場に立つことで己を高める──強くなることを目的とし、自らと思想や利害が一致する国に加勢すべくそれぞれの戦場に立つことになる。

 ......ゲームシステム的なことを言ってしまえば、いつでも飛び入り参加出来る戦場でリアルタイムに評価されるスコア(kill)を稼ぎ、自分の剣をより強くしていくということだ。


「これが転移陣か。少々手間取ったが、用意はいいだろうな?」

『Yes,マスター』


 しかし、「FES」はただ戦ってデータリソースを溜め込むだけのゲームなどではない。俺のアンは勿論、それぞれの剣は歴とした自我(AI)を持ち、千差万別に成長する。

 その個性が初めてはっきりと現れるのが最終チュートリアル、銘付け(ランクアップ)の時。アンは俺がβプレイヤーだった頃に自我が目覚め、それ以来俺の右腕として支えてくれている。

 プレイヤーは皆、己が剣の無銘剣(ムメイ)たる間に理想とする剣の姿を探し求め、その確立を以て初めてランクアップは可能になるのだ。


 伝説の剣を求めるもよし、己の信じる最強を求めるもよし。

 伝説を求むプレイヤーの剣には、そのモチーフとなった剣に似ていく傾向がある。世に名だたる魔剣名剣に(なぞら)えた能力や形を発現しやすいということだ。

 一方、プレイヤーの理想を求めた剣は()()()()()()()()()()は、其処に向かって()()()()()になっていく。

 求めることを止めない限り、理想を掲げ続ける限り、最終到達点の決まった伝説系統とは違って、何度でも進化するのだ。


 ────俺は後者、何者にも囚われない「自由」を理想に掲げ、アンという無貌の剣を手にした。

 そして、かつて謳ったこの名を今、この戦場にもう一度示そう。


 機能自体はβと変わっていない転移の感覚に身を委ね、光となって戦場に降りた。

 懐かしい転移の完了と共に、俺は翡翠の光の粒を散らし(さけ)


「俺はディアデビル!我こそはという強者よ、お相手願おうか!!」


「なんだ? 丸腰だぞこいつ」「ディアデビルって確か......?」「ぁんだ?」「!?  バッ、おま、いきなり”無貌の剣王”かよ────!?」「やべぇぞ本物だ?!皆伏せろ!!」


 いくらか俺を知っているβプレイヤーらしき者も居たようだが......雑魚に興味はないのでな。


「さて、あんまり死んでくれるなよ? 「無謀の一振り」!」


 戦場ど真ん中に現れた敵側()の転移のエフェクトを見て、着地(転移)狩りに詰めかけたらしき敵────ミズガル軍のプレイヤーの群れ。その数、ざっと数えても100はくだらなかったろう。

 こんなバカな転移指定(真似)するプレイヤーなんて、流石に味方でもフォローしないだろうと思ったが......果たして狙い通りだったな。俺の周りは敵だらけ、実に都合がよかった。


「つべこべ言わず掛かって来ればよかったものを」


 構えもしない敵に向かって、俺は心置きなく右腕を一つ振った。ただそれだけで、注意の声に反応出来ずにいた大勢のプレイヤーが消え去った。


「クソッ! 大分やられたぞ!?」「新規だろ、仕方ない」「悠長なこといってる場合か!? 掛かれ!!」


 思ったより多く敵が減ってしまい、残りは......


『残敵、当初の2割程です。マスター』


 2割か。雑魚を篩にかけたと思っておこう。


「さぁ、ここからが本番だ。掛かって来い!」


 初めから幾分冷静だった者、動揺から直ぐ様立ち直った者。まだ混乱していながらも、周りの味方に追従する者。

 各々が間に合わせの連携ながらも襲い掛かって来る。


「なっ──」「マジかよ!?」「囲め! 間合いは有って無いものと思え!」「んなこと言ったって......」


 まだ駆け出しの無銘剣(ムメイ)──このFESの初期装備にあたるS(Soul)S(Sword)──を振り被る少年を斬り捨てる。ついでに後ろから近付いていた青年もそのままの勢いで回転、斬る。


「仕方ないか......そう長くは持たんが、私が抑える! 囲んで死角を狙え!」


 その時、今まで冷静に後ろで指示を出していた、俺を知る古参らしきプレイヤーが前に出てきた。

 壮年の男性アバターで、陽光に輝く深い青の髪と瞳をしている。

 サービス初日の烏合の衆では指揮するにもに限界を感じたのだろうか、自ら好機を産み出さんとムメイではない、揺らめく輝きの蒼い剣を突き出しながら迫ってくる。


「俺相手に”長くは持たん”とは、謙遜に見えて大きく出たものだ。お前なら少しは楽しませてくれるのか?」

「ははは......さて、さて。暫しお付き合い願いますよ、「無貌」たる剣の王よ!!」


 好好爺然としながら、初手に繰り出してきた助走の勢いを乗せた鋭い突きを、蒼い剣の腹を払い叩くことで避ける。然し俺がかわすのも織り込み済みだったのか、さして体制も崩さず横凪ぎに繋げてきたそれをアンで受ける。


「ほう、やるじゃないか」

「お誉めに預かり恐悦至極......ムンッ!!」


 つばぜり合いから向こうが間合いを切った隙に、様子見をしていた奴等が斬り掛かって来るが......


「!?」「ク、ソ......」「うっ!」「ダメか~」

「鬱陶しいぞ、雑兵どもが」


 四方から迫るそれらを一刀の下に斬り伏せる。


「流石ですな......隙等は無い、か」

「俺は今、コイツと遊んでいるのだ。他に興味はない。......次は此方から行くぞ?」

「皆、スキルが有れば私諸共で構わん、やれ! ムメイ持ちは逃げ......ぐっ!?」

「行くぞと言うたのに余裕よな?」


 間合いが空いていたからといって油断した訳ではなさそうだが、それでも迂闊と言わざるを得ないな。

 俺は一足に間合いを詰め、斬り掛かった。


「私、これでも必死、です、のでっ! 何卒ご容赦願いたいモノです、なっ!!」

「ははは、ソレこそ冗談、を......抜かすなっ!!」


 賑やかしのように飛んでくる炎や風、水や土で出来た斬撃を、アンを振るって叩き落としながらも蒼の剣師と斬り結ぶ。



 ......どれ程の間そうしていただろうか。アンが以前より弱体化しているとはいえ、久々にまともにやりあえるのが楽しくて時を忘れていた。これも怪我の功名と言うのだろうか?

 いつの間にか周囲からの色とりどりの斬撃は止み、目の前の剣師は疲れ果てて剣を支えに立っているような有り様だった。


「......そういえば、まだ名を訊いていなかったな」

「は、はは......名乗る暇も、頂けませんでした、からな......。

 ──この剣の銘は、蒼き炎の魔剣(アルガーデム)に御座います。そしてこの私、名をソウレンと申しますれば、どうぞ以後、お見知りおきを......。」

「ミズガルの《アルガーデム》、ソウレンだな。覚えておこう」

「有り難き幸せに、御座います......」


 こいつとはいずれ、また戦いたいものである。

 然し残念だな......。


「嗚呼、愉しい時の過ぎることの、なんと早いことか.......。名残惜しいが終いだ、ソウレンよ」


 満身創痍ながらも気丈に剣を構え、立派に立つ其の姿を見据え......俺は「無謀の一振り」を発動した。

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