11.再誕
俺を飛び越え着地したソウレンは、更に一歩。
大きく距離を取って慎重に間合いを切った。
「ふむ。中々面白いことも出来るのだな、ソウレン?」
上手く返し切ったと思っていたが、俺の左半身にも一瞬の交差の間に付けられたらしき傷があった。
「お誉めに与り、光栄至極......ですが......。まだまだ御身には、遠く及びませぬゆえ......」
「当然だ。過信はしていないつもりだが、それでもそう易々と王たる俺を越えられるとは思わぬことだ」
「えぇ......精進いたしまする──、ハッ!!」
多少の言葉を交わす間に息を整えたソウレンが、再び距離を詰めようと駆け寄ってくる。が、
「それがいい。何せ二度も同じ手を許す俺ではない故な」
その前進を諸手のアンを振るって妨害する。
俺自身の趣向を抜きにすれば、本来の俺のバトルレンジは中~遠距離なのだ。初手はソウレンに譲る為見逃したが......
「まずはここまで辿り着いて見せろ。そうそう容易く俺の前に立つことを、俺の剣は許さんぞ」
無形にして不可視のアンは、実際、遠距離間や対集団の戦いに於いて有り体に言って強力無比だ。
実も蓋もない話、此方が相手を認識してさえいれば、俺は唯アンを振るうだけで大抵の戦闘はカタが付いてしまうのだ。
それ故、かつて俺に付いた呼び名が「無貌の剣王」。
何人たりとも俺の剣を目にすることも能わず、そして遥か彼方から俺が剣を振るえば敵する者は唯斬り伏せられるのみ。近付くことも儘ならない所為で戦場で俺の顔を拝むことも難く、敵からは挑もうと思うことすら無謀であるとまで言われていたようだ。
然し、だ。この戦場がそんな、どうしようもない程のワンサイドゲームならば、俺はとうにこの世界から去っていただろう。
......だが違う、稀に居るのだ。この戦場に於いて、俺に並ぶ力を、可能性を秘める者が。
「──オォ、オオォォ、オオオォォオオォォオォォォ!!」
幾度も振るわれる不可視致命の斬撃に其の身を傷付けられながら、しかし決して立ち止まらずに歩みを進める。
そうして徐々に徐々に縮まった彼我の距離は、やがて剣二本分にまで詰められた。
「......ハァ、ハッ......ハァ............」
俺の直ぐ目の前には、満身創痍ながらも微塵も衰えていない気力を、闘志を瞳に宿した男が居た。
「よくぞ、辿り着いて見せた。ソウレンよ、今一度相見えたこと嬉しく思うぞ」
「......、ッ!」
言葉はなく、努めて息を整え。そうしていつ振りにか単身で俺の前に立った男は蒼い剣を構えた。
「今一度、相手になろう......本気でだ。──来い」
「──、!!」
俺が招いたその刹那に、剣のみならず其の身からも爆炎を燃え上がらせたソウレンが、蒼い煌めきを曳きながら最後にして始めの一歩を踏み出した。
「フッ!」
変わらずソウレンの初手は突き。されども、明らかにそこに込められた熱は初めのそれとは段違いだ。
蒼炎を纏うことによって一回り以上も大きくなっているアルガーデムだが、どうやら炎の刀身には重さがないようで、キレは衰えるどころか恐らくスキルと思われる輝きによって増してさえいるようだ。
その上、纏った炎の分だけ実質上のリーチが伸びているのだから厄介だ。先程の突きを見た上で余裕を持って回避しようとしたが、感覚が狂ってしまって肝を冷やした。
「面白い──、そうでなくては、なっ!!」
俺は頬からダメージエフェクトを飛ばしながらも、突きを避けたスウェーの体勢のまま反撃に移った。
先ず両手を大きく広げ、迎撃の為に二分化していたアンから手を離した。俺の手を離れた刀身は金色の輝きとなり辺りに溶け消え、俺の最も得意とする構えを──実質無限の手数を誇る、「無貌の型」をとった。
ソウレンのリーチの拡張された突きを避けた今の体勢では、体が流れてしまっていて剣を振るうに適しているとは言えないが、それでもアンが俺の手を離れ無形と化した時点で俺はあらゆる無駄な動作から解放されている。
突き出した右手を即座に引き戻し、次なる攻撃を加えようとするソウレンだったが──突如としてアルガーデムを持つその手が半ばで落ちた。次いで左足と左腕が同時に落とされ......右足と首が舞った。
それらは勿論全て俺の手によるものだが、ここまでの一瞬間に俺が行ったことは精々指を僅かに揺らしたくらいのものだ。それも狙いを付ける為にクセでやっているようなもので、実際のところはそれすらも必要ないのだが。
果たして、俺に切り刻まれ、傷口から炎のようなエフェクトを撒き散らすソウレンの体はそのまま朽ち行くかに見えたが......
「なるほど。そちら系統の能力だったか」
そのエフェクトは、傷口が燃え上がるような、あのダメージエフェクトの赤い炎──ではなく。ソウレンが身に纏っていたものと同じ、蒼い炎だった。その炎は斬り分かたれたソウレンのそれぞれのパーツの傷口から全体に拡がり、瞬く間にその全身を覆い尽くした。
見る間に蒼い炎の塊は最も大きかった胴体部のものへと寄り集まり、人を象った。
その人影から散り落ちた蒼い火の粉は再び背部へと舞い上がり、一対の大きな翼を象った。
その手にアルガーデムは無く。その背に一対の蒼翼を背負い。
総身から蒼い火の粉を散らし、再び姿を顕したソウレンは厳かに──、
「再誕の瑞鸞」
其の誕生を告げた。
《再誕の瑞鸞/リ・バース》
蒼き炎の魔剣/アルガーデムの持っていた最後のスキル。
ぶっちゃけよくある炎系統の魔剣っぽかったアルガーデムのアイデンティティ:実は第二(?)形態持ち。




