10.再戦
そうして俺以外味方など居るはずのない戦場、ミズガル砦敷地内で。見かけた端から全ての敵をゲリラ的に襲い、かなりの数を討ち取った頃。
遠く自陣営の方から大勢の雄叫びが聞こえ始めた。
「やっと来たか......っと」
そこで一区切りとして最後の集団に止めを刺し、今一度城壁の上に登ってみると。
「これは中々、壮観だな」
そこから見えたのは土煙を上げながらこちらへ向かう我がアルフルの軍勢だった。まだはっきりと個々が視認出来る程の距離ではないが、早くても10分もする頃にはあの大群が此処へ押し寄せるだろう。
だが──、それまでの10分間は俺の最後の時間だ。寧ろこれはその僅かな一時の為の特攻でさえあったのだから、誰にも邪魔などさせるものか。全て俺が勝手にやったことだが、だからこそ最後まで好きに暴れてやろう。
「さぁ──メインディッシュだ」
とはいえ、俺が向かう明確な目的地は無い。もともとノープランだったこの奇襲の目的は、強いて言えば「おいしいところを持っていく」ことに尽きる。その為にこうして雑兵を減らしたりといったお膳立てまで手ずから行ったのだ。
然るにメインディッシュは、敢えて避けていたこの砦の主戦力、精鋭達で構成されたミズガル砦防衛戦力の「本隊」だ。丁度今までの奇襲とアルフル側の本隊の接近で思い腰を上げようとしていたようだ。
ところで、このFESは戦場が舞台ではあれど、ここは現実ではないし、従って俺達プレイヤーは只の一兵卒足り得ない。
俺達を一騎当千足らしめる可能性を、俺達は初めから手にしているからだ。
この砦に残されたメインディッシュは、そんな中でも選り抜きの兵達だ。
高揚と期待を胸に城壁の上から飛び降りた俺が狙うのは、今まで敢えて避けてきた砦、そのもの。
城砦の敷地外縁部の城壁から砦本体の外壁まで、広場を跨いで20メートル程だろうか。その距離を一足で無にした俺は砦の外壁に立ち──
無貌にして無謀たる一振りを以てして、砦を真っ二つに断ち切った。
途端に崩れ始める砦、響く怒声。土煙の中で俺は、今までの間に雑兵を蹴散らしながら建物の外を駆け回りつつも当たりをつけておいた中枢を狙って。
かつての姿を取り戻し真に貌形を失った今、俺の意思の儘に全てを断つ、無二の剣を振るう。
俺が砦の外壁に立ち無貌の剣を振るったその時から、俺は遥か高くの宙に在り──
「我が意の儘に敵を断て──『夢紡ぐ無貌の剣』!!」
俺が金色の残滓漂う砦だった地に降り立った時には、其処には2人の兵のみ。
「なんだ、やはりお前しか残らなかったのか。ソウレンよ」
「貴方様の御嗜好を思えば、些か以上に加減というものを覚えられるべきなのでは、と私めは愚考致しますぞ?」
うぐ、中々鋭いことを言う。確かに俺がもう少し妥協すれば、まぁまぁ楽しめる相手は居ないこともないだろうし、アンにも余計な気を遣われずに済むやもとは思うのだが......。
「......耳が痛いことだ。然しこれは性分でな。お前の様な愉快な者以外には、どうにも全く興味が持てないのだ」
「左様ですか。然らば、僭越ながらお見初め頂いたついでに一手、ご教授を賜りたく。剣の王の一翼たる御方よ」
「赦す。気楽に参れ」
「では」
あまり長々と御託を並べるのも興醒め、そう俺が考えたのを感じ取ったのかは知らんが。以前とは違って初めから一対一。様子見等は抜きにして、実に気持ちの良い思い切りでソウレンが向かってきた。その手の《蒼き炎の魔剣》も其の身に蒼炎を宿していて、始めからトップギアのようだ。
対する俺も、間合いなど無視したワンサイドゲームは論外。無貌に拡がったアンを両手に集め、刃は有らざれど其の貌を二振りの剣に留めて構えた。
「「蒼爆炎」ッ!!」
ソウレンの初手は突きだった。それも只の突きではなく、スキルの併用によって元からアルガーデムの纏っていた熱量が瞬間的に増大、突きと同時に解放されることで回避も防御も難しくなったものだった。然し──
「フッ!!」
「──くッ!?」
それを俺は、巨大な一振りの剣に変貌したアンを「斬る」程には刃筋を立てず、傾けて真横に振り抜くことですべて往なし切った。下から掬い上げられた形の爆炎だけでなく、ソウレン本人も両手でフルスイングされた剣を無視は出来ずに共々俺の頭上を越えて行った。
「──ムンッ!」
「甘い、ぞッ!!」
それでもソウレンは空中からでも追撃を入れようと直ぐ様アルガーデムを勢い良く振り下ろして来たが、俺は振り切ったそのままの流れに乗せ、二振りに集め直したアンの右で払い、鋭い左の突きで返した。
「ぐぅッ!?」
咄嗟に避けようと、弾かれた勢いも込めて身を捻りはしたようだが、そもそも弾いた俺がそれを読んでいない訳もなく。空中で弾かれて流れたソウレンの体の、右脇腹から背の真ん中に掛けてをアンが切り裂いた。




