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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
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探検隊

 カラッカラに乾いた乾燥地帯を急いで駆け抜け、少しだけ湿った場所で探索を開始した。

 依然として乾いた荒野なのだが、先程居た場所は砂漠寸前なほど乾いていたから、比較的マシだ、乾きすぎた場所では魔法を使っても水が出せない。そのため、長時間滞在するのは危険と判断した。

 もしこの乾燥地帯に遺跡があったらアウトなのだが、ミルジアの街に近い場所なので、もしあるのなら既に発見されているはず。というわけで探索していない。


 その後、数日に渡って各地にテントを張りながらエルフの痕跡を探したが、得られる物は無かった。

 周辺の地図が埋まったので、さらに東に行こうと思う。現在地はかなり南に移動した。おそらくミルジア中央部の真東あたりに居る。


「この辺りは調べ尽くした。もう十分だろう。もっと東に行こう」


「はーい」


 リーズに先頭を任せ、一気に東へと進む。

 スライムは積極的に追いかけたが、大型の魔物はすべてスルーした。売ることができないから、いろいろともったいない。



 乾燥地帯から東に進むと、どんどん植物が増えてきた。地面も多くの水分を含んでいるようだ。

 たぶん季節は秋だと思うのだが、とても蒸し暑い。この辺りには四季が無いのかもしれない。


「水の音! こんさん、川があるよ!」


 リーズの先導で、水の音がする場所に向かう。俺には全く聞こえないのだが……。俺も水の音には敏感な方なんだけどなあ。

 その先は森というよりもジャングルだった。獣道も見当たらないほどに蔦とシダが生い茂る険しい森だ。相当に水が豊富にあるようだ。雨も多いのかもしれない。



「全員ナイフを出して。ここから先は草を切りながら進むぞ」


 ついにマチェットが大活躍する時が来た。今まで戦闘でしか使えなかったから、ちょっと鬱憤(うっぷん)が溜まっていたんだ。

 本来、マチェットは蔦や草を切るための物だ。ゴブリンの首を斬るための物ではない。張り切って振り回す。


 みんなも各々のナイフを取り出して切り進める。

 ルナのナイフはボウイナイフ。戦闘でも使うので、慣れたものだ。リーズは、普段使わないハンターナイフを器用に使いこなしている。クレアは普段から片刃の片手剣を使っているので、ナイフに持ち替えても問題無い。但しクレアが持つナイフ(サクス)は、ほぼ包丁だ。


 問題はリリィさんだな。刃物の扱いに慣れていないと言っていた。


「リリィ、どう? 上手く使えているか?」


「ああ、心配には及ばん。なかなか楽しいじゃないか。はっはっは」


 リリィさんは笑いながら木に絡まった蔦を叩き切っている。力任せに刃を叩きつけるだけ。乱暴に見えるが、この使い方は間違っていない。リリィさんのナイフは剣鉈で、鉈とは本来そういう物だ。

 当てる角度にコツがあるから、使っていれば覚えるだろう。


 刃の丈夫さで言えば、剣鉈が一番で次がマチェット、ボウイナイフと続く。ハンターナイフとクレアのサクスは乱暴な使い方には向かない。

 草刈りは俺とルナとリリィさんがやった方がいいな。無理をするとナイフが傷む。


 ちなみに草刈りの魔法は使えない。木が邪魔をして、上手く切れないんだ。あの魔法は草原や庭専用だ。



 草を狩りながらの進行は時間が掛かる。気が付けば辺りは暗くなり始めていた。


「ここで一度休もう。暗くなってから移動するのは危険だ」


「え? ここじゃテントが張れないじゃない。どうする気?」


 ジャングルに入ったはいいが、テントを設営できるようなスペースはない。だからといって今更戻るわけにもいかない。


 こういう時にハンモックが便利なんだけど、人数分買っていないんだよな。でも地面に直接寝てはいけない。地面は意外なほど体温を奪うんだ。夏場でも(こご)えるほど寒くなることもある。それに虫が(たか)って眠れないこともある。

 だから、自力でハンモックの代わりを作る。俺のハンモックはルナに貸して、残りの3人分はロープを使って作ろう。


「こういう時のためにハンモックを買ったんだ。人数分は無いから、作るぞ」


「作る? ここでか?」


 作ると言っても編んだり縫ったりするわけではない。木にロープを結んで楕円を作り、あみだくじのように横にロープを巻いていくだけだ。1つ10分あれば作れる。

 その上にシュラフを敷けば、快適とは言えないがハンモックの代わりになる。


「貸していただいて、ありがとうございます。結構良いですね。

 私の分も買ってもらえば良かったです」


 ルナはずいぶんと気に入ったようで、ハンモックにすっぽりと包まれてご満悦である。

 俺がハンモックを買った時、リーズも興味を示したので一緒に買った。しかし他の3人は興味を示さなかったので、買わなかったのだ。

 こんなことなら全員分買っておけばよかったな。今度からは気を付けよう。



「コーは妙なことを知ってるわよね。誰に習うの?」


 クレアがお手製簡易ハンモックの上から聞いた。

 日本でも一般的な技術ではないような気がするが、この世界でも一般に知られる技術ではないようだ。


「本を読めば書いてあるよ」


 キャンプの雑誌に書いてあった。普通の月刊誌だ。そこに書かれていた通り作るなら、ロープも必要無い。アケビのような丈夫な蔓を使えば現地調達でも問題無い。


 念のためにタープと風よけの布を張り、軽い食事を終えたらひとまず就寝だ。

 頻繁にマップを確認しているが、この周辺は魔物が少ないらしい。油断はできないが、反応が全く無い。ウロボロスが狩っているのかもしれないな。



 夜が明けたらすぐに行動を開始する。朝食はドライフルーツとお茶だけ。お茶で体を温め、歩き始めた。


 川の上流へと足を進め、かなり奥地まで来たと思う。マップがあるので、魔物との遭遇は全くしていない。狩っても困るだけなので、上手く避けている。ただし、移動速度はかなりゆっくりだ。

 探索しながら走っているうえに、魔物を避けるために遠回りしているから仕方がない。鬱蒼(うっそう)とした森の中をひたすらに進み続ける。人工物らしき物は一切見当たらない。


 ザクザクと蔦を切ってまだまだ進むが、奥に来てからどうもマップの調子が悪くなってきた。魔物の反応は出るのだが、地図が保存されていない。不具合かな……。


「ねー、さっきからずっと同じ場所歩いてるよ?」


 リーズが違和感を覚えたようだが、木に蔦が絡まっている以上、ここを通るのは初めてのはず。深い森の中ではたまにそういう錯覚に陥る。遭難一歩前の状態だ。

 マップも不具合を起こしているようだし、用心のために一度立ち止まる。


「そんなはずはない。勘違いじゃないのか?」


「そうね。森を歩く時によくあることよ」


 クレアが同調する。薬草採取で何度も森に入っているから、経験があるのだろう。


「……いえ、この感じ、エルフの村の結界に似ています。もしかしたら、まだ動いているのかも……」


 あり得ない話では……あり得ないだろ。エルフの国が滅んでから1000年近く経っているんだ。村の結界だって、維持するために管理している。それにウロボロスが壊すこともある。


「まさか、そんなことがあるのか?」


「無いとは言い切れないだろう。極稀にではあるが、動作するエルフの魔道具が発見されることもあるんだ。もっとも、屋内に保管されていた物だがな」


 マジか……。もしこれが結界なら、解除装置を探す必要がある。道案内の誰かが居ないと、発見は不可能に近い。割と絶望だ。


「ねぇ、それならどうして草が生えてるの?

 アタシたちは切りながら進んでいるのよ?」


 クレアの疑問はもっともだ。俺も同じ基準で判断したんだ。


「クレア君、うしろを見てみろ」


 リリィさんのが困ったような表情で俺の後ろを指差したので、振り返ってみる。すると遠くの方で、刈ったばかりの蔦がニョキニョキと伸びて木に絡まった。なにこれ気持ち悪い。

 確定だ。間違い無く結界の中にいる。どういう原理か知らないが、植物の成長が促されるらしい。これは絶対に迷うだろうな。かなり悪質な結界だわ。



 俺はここへ来る前に、30日滞在する予定で食料を確保した。イレギュラーの対応のために、10日分ほど余分にある。


 ここまでの移動に費やした日数から計算して、ここで活動できるのはあと15日ほどだろう。それ以降は自力で食料を探す必要がある。

 見渡す限りの植物があるのだが、これらが食料になるわけではない。地球で言うバナナのようなものやパパイヤのようなものは見つけたのだが、誰も見たことが無いということでスルーした。


 今まで見てきた食べられる植物は、どれも地球とよく似た見た目だった。しかし、だからと言って未知の植物が食べられると決まったわけではない。確信が持てない植物は食べられないと思った方がいい。


 15日以内に解除装置が見つけられるだろうか。エルフの村と同じ形とは限らない。エルフの村よりも大掛かりな結界だから、全く違う形かもしれない。さて、どうしよう。


「探す……か?」


「探すしかありませんね。意外とすぐに見つかるかもしれませんよ」


 希望的観測だな。何か目印でもあれば楽なんだが、結界の要である解除装置に目印なんかあるわけない。そもそも解除装置を結界の外に出すことがおかしいのだが、出入りすることを考えたら仕方がないな。


 仮にエルフの村と同じような石が解除装置だったとして、このジャングルの中で見つけられるか? たぶん木に埋まって何も見えないぞ。


「なあ、何か手掛かりのようなものは無いのか?

 ルナやリーズなら、俺には分からない感覚があるかもしれないんだ」


「……注意深く見ればなんとか分かるかもしれません」


「たぶん無理ー。よく見れば魔道具なんだけど、ただの石にしか見えないよ?」


 完全に絶望だな。ルナはエルフの子孫の勘を、リーズには人間離れした感覚を期待したのだが、ダメみたいだ。まあ当然か。

 ジャングルを焼きながら進めば見つけられるかもしれない。いざとなったらそうしよう。


 今はとにかく注意深く観察するしか無い。まずは結界の境界線を探る。方向感覚が狂うだけの結界なので、境界が目に見えない。これが厄介なんだ。

 解除装置は境界線のすぐ内側にあるはず。だから、境界線を歩けば見つけられる可能性があるのだが、その境界線がどこなのか分からない。

 地味な結界だが、実に悪質で効果的だ。仕組みがわかっても解除できない。



 来た方角と同じだと思われる方角に向かって歩く。マップも機能せず、目印も付けられないハードな森歩きだ。同じ場所には出ないだろうなあ。

 地球に居た時にも同じミスをしたことがある。沢を目印にして山を登り、帰りも同じ沢を辿って帰ったつもりだったのだが、全く違う場所に出てしまった。しかも慣れた山だったはずなのに。


 木に囲まれた場所で方向を見失うと、同じ場所に二度と戻れなくなる。それはもう仕方がないとして、結界の中でキャンプすることだけは避けたい。日が落ちる前に脱出しよう。

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