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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
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ティータイム

 買い物を終えた後、1日の休息日を経て出発の日となった。

 休息日と言っても何もしていないわけではない。キャンプで使いそうな魔道具を作ったり、ギルドの訓練場を借りてテントを設営する練習をしたりした。


 前に使っていたテントとよく似た形状だが、この規模のテントを張ったことがない。練習をしておかないと、いざ設営する時に困る。

 焦って失敗して、初日でテントを壊すことも考えられる。というかよく聞く話だ。


 設営中に変な目で見られていたけど、何だったんだろう。訓練場はテントを張る練習をするには最高の環境だと思うんだけどなあ。



 ウロボロスの討伐をした後は、まだ王城に行っていない。呼び出しが来るかと思ったのだが、何の音沙汰もない。

 でも、なんとなく無言で国外に出るのは悪い気がしたので、王に転写機でミルジアに行くことを伝えてある。返事は来ていない。たぶん来ない。



 宿にはしばらく戻らないと告げて宿を出た。今回は明確な帰還予定が無い。許可証の有効期限が27日残っているから、最長はこの日数になるだろう。

 もし森の中に住みやすい場所を見つけたら、もう少し長くなるかもしれない。



 これで出発の準備は整った。まずはエルフの村に向けて走る。リリィさんと外で行動するのは初めてなので、休憩を挟みつつゆっくりと進行する。それでも半日で着くはずだ。


 魔物の反応はすべて避ける予定だ。下手に魔物を狩ると、この先の日程でずっと素材を持ち歩き続けることになる。だから、しばらくは食料以外の魔物は狩らない。

 バブーンみたいに群れで積極的に襲ってくる魔物も居るんだ。1匹狩るだけのつもりが1000匹になってもおかしくない。序盤でマジックバッグを一杯にしたくないから、無視するに限る。



 俺たちは森の手前で、休憩のために一度立ち止まった。


「リリィ、どうだ? これから森に入るけど、ペースはこのままでも大丈夫か?」


「ふう。少し疲れたが、問題ない。このまま進もう」


 リリィさんが軽く息を整えて言う。

 兵士の早朝訓練に参加していたくらいだから、この程度で音を上げるはずが無い。初心者には厳し目のペースだったが、問題ないだろう。


「お疲れ様です。これをどうぞ」


 ルナがテーブルと食器を出して、お茶を淹れてくれた。オイルストーブがあるので、簡単にお茶を淹れることができる。


 コンロの魔道具を買っておいても良かったかもしれないな。それなら燃料がタダだ。

 魔道具のコンロは、使用中は絶えず魔力を送り続ける必要がある。王城の俺の部屋にもあったのだが、面倒なので置いてきた。あの魔道具を使うくらいなら、自前の魔法を使った方が早い。

 でもこの魔法は俺にしか使えないから、1つくらい持っていても良かった気がする。


「ありがとう」


 ルナにお礼を言い、折りたたみの椅子に座る。木製のフレームに布を張った、よくある持ち運び用の椅子だ。座り心地は良い。

 この国のお茶は、薬草茶という名前のハーブティーが主流だ。今のところ、カモミールとラベンダーとローズマリーを発見している。呼び方が違うから、この世界の呼び方は覚えていない。

 紅茶のような茶葉もあるにはあるが、高すぎて買う気にならなかった。王城では普通に出されていたから期待したのになあ。



「コー君、エルフの村はそんなに近いのかい?

 にわかには信じられないぞ。なぜ今まで誰にも発見されなかったのだ」


 リリィさんが訝しげな顔で言った。

 冒険者や兵士が、毎日この森に訪れている。隊によっては、かなり奥まで行くらしい。これだけ聞くと、見つからないのはおかしい。

 しかし、エルフの村は巨大な結界で覆われていて、近付くと迷ってしまう。偶然でも辿り着くことは不可能だろう。


「結界があるからな。俺たちも見つけたのは偶然で、入れたのは奇跡に近い」


 偶然ドラゴンを追いかけて場所を特定し、結界を解除できるルナが偶々そこに居た。こんな偶然は二度と無い。残念ドラゴンは度々(たびたび)村の外に出ているようだが、あいつを追いかけるだけでもかなりしんどい。



 リリィさんと話をしながら、お茶が入った木製カップに口をつける。

 お茶のお供はドライフルーツだ。調子に乗って買いすぎたので、腐る前にせっせと消費しなければならない。

 レーズンのような物は「パン作りに使います」と言って、ルナが大量に持っていった。レーズンパンを作ってくれるのかな。楽しみだ。


 しかし、大草原でドライフルーツのリンゴを齧りながらハーブティをすする。……OLのハイキングかな?

 俺が目指していたのは違うぞ! 岩に座ってドングリを齧りながら苦いコーヒーを飲むのが男のハイキングだ。残念ながらコーヒーは無いみたいだったから、タンポポで偽コーヒーを作ろうかな。タンポポならあるよね?


「こんさん、また怖い顔してるよっ。どうしたの?」


 おっと。いつの間にかしかめっ面になっていたようだ。気を付けなければ。


「なんでもないよ。今の状況がな……ちょっと、俺の理想と違ったんだ」


「可愛い女の子をこれだけ連れて、どこが不満なのよ」


 それに関しては何の不満もない。むしろ嬉しい。しかし、これはハーレムパーティの弊害だろう。行動が女性寄りになってしまうんだ。男の意見は、女性の圧力に簡単に負ける。

 便利でオシャレなものが嫌いなわけではない。でも俺の理想は、不便を乗り越えて楽しむことだ。知恵と力の限りを尽くすことこそが、真の漢のキャンプだ。と、どれだけ力説しても女性の理解は得られない。

 贅沢を言ってはダメだ。今はみんなに合わせて便利なキャンプを楽しもう。


「不満は無いよ。みんなのおかげで助かっている。ありがとう」


 便利でオシャレなキャンプに慣れてしまいそう……。だって楽しいんだよ。1人では味わえない。日本ではソロキャンプばかりだったから、こんな体験をしたことがない。

 いっそのこと、楽器でも買おうかな。太鼓かギターがあれば、さらに雰囲気が出るぞ。ギターは弾けないけど。



 休憩を終え、テーブルを仕舞って森に入る。つい長めの休憩になってしまった。やはり椅子があると休憩も長くなるな。

 リーズを先頭にして、一気に進む。森に入ると、リリィさんのテンションが上がったようだ。


 屋根の上を走っていた時のように、無駄な動きをしながら無駄に体力を消耗しながら走っている。無駄に木に登り、枝から枝へ飛び移る。良い枝が無い時は幹を蹴って次の木に飛び移る。


 それはそれで楽しそうなので、リーズに木から木へと飛び移るルートを指示した。気分は忍者だ。

 たまに目測を誤って地面に落ちたりしたが、慣れてきたら地面を走るよりも速い。今後は森の中を走る時はこれで行こう。あっという間に結界の入り口に到着した。


「いつもの3倍疲れたんだけどっ!

 あんたたちは、まともに走る気無いの?」


 クレアがお怒りのようだ。でも今回は息を切らしていないので、それなりに余裕があったのだろう。

 疲れるだけならいつもと同じ。問題ない。


「俺は真面目に走っているつもりだ。ふざけながら走っているのはリリィだけだぞ」


「失礼な。私も真面目に走っているだろう」


 リリィさんにとっては、無駄な体力を消費する走り方でも真面目なつもりらしい。無駄に疲れるだけだと思うが、本人のやる気に関わりそうだから注意はしない。


「まあいいや。ルナ、いつものよろしく」


 ここの結界はルナにしか解除できない。正確にはエルフにしか、なのだが、なぜかルナも解除することができる。エルフの長老は祖先がエルフだからと言っていたが、たまたま血が濃いとかそんな理由もあると思う。



「ちょっと待ってくれ。この石が結界なのか?」


 リリィさんが興味深く結界の石を眺めている。この場には似つかわしくない素材の、人工的な加工が施された石だ。まあ一見すると普通の石なんだけどね。


「壊すなよ。今はそれしか機能していないらしいから」


 残りの2つはウロボロスが壊したらしい。魔力を吸い上げるから、魔道具の魔力も吸い上げて機能を止めてしまうのだろう。


「これは簡単には壊れないぞ。他にもあるのか?」


「どこにあるかは知らないが、全部で3つあるそうだ。素材は渡してあるから、そのうち修理されるだろう」


 長老には修理のために必要な素材を渡してある。それなりに時間が掛かるらしく、まだ修理されていないようだ。たぶん修理されたら結界の範囲が広がるから、その前に他の石の場所を聞いておいた方が良さそうだな。


「ルナ君。君はこれを見て何も思わなかったのかい?」


 リリィさんが先輩っぽい口調でルナに何かを問いただしている。あ、元職場の先輩か。リリィさんは何か思うことがあるみたいだ。


「どういうことでしょうか……?」


「これは現在の魔道具には無い機能が付いているのだ。

 まぁ気が付かないのも無理は無い。私も動いているところを初めて見た」


 結界の魔道具は既に在る。テントの見張りに使う警報の魔道具がそうだ。他にも何種類かある。個人を認証する魔道具も既に在って、身分証に使われている。あとは何だ?

 ルナも心当たりが無いようで、必死で答えを探しているが思いつかない様子だ。困った顔で首をひねっている。


「詳しく説明してくれないか?」


「これには魔力を貯め込む装置が内蔵されている。村一つを覆うほどの大規模な結界だ。普通の作り方では魔力が足りないのだよ」


 電池みたいなものかな。そういえば魔力を貯め込む魔道具というのは聞いたことが無い。

 強いて言うなら魔石がそうだが、あれは魔道具を作る時に触媒として使うだけだ。魔力を少しずつ取り出すような使い方はできない。


「え……言われてみれば、確かにおかしいです。特大の魔石ですか?」


「違うだろうな。魔石の魔力ではすぐに尽きてしまう。だから、魔道具が入っているはずだ。アレンシアでは、まだ未発見の技術だよ」


 リリィさんが説明してくれた。魔道具は基本的に空気中の魔力を吸収して動く。起動するために最初の魔力を通すが、その後は起動用の魔力が切れるまで動き続ける。だから魔法の訓練をしたことが無い子どもでも使える。

 例外は炎や熱を発生させる魔道具で、使う時は魔力を通し続けなければならない。光だけなら省エネだが、発熱させると燃費が悪いらしい。


 未発見ということは、技術だけでもかなり価値があるだろうな。爺さんに頼めば何とかなりそうだ。

 この技術を使えば、高性能な魔力ストーブが作れるかもしれない。防御用の腕輪も強化できそうだ。でも、魔力の充填は誰がやるんだろう。


「この村の長老が修理するらしいから、見せてもらえないか頼んでみよう」


 まだ村に入っていないのに、ずいぶんと盛り上がってしまった。さっさと村に入ってテントを設営しよう。練習したと言っても、初めてのテントだ。時間に余裕があったほうがいい。

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