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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
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神出鬼没

 エルフの村に帰り、ウロボロス討伐の旨を王に報告した。返事はまだ無い。すぐに返事ができるはずなのに。

 まあ冒険者ギルドからも報告が行くだろう。二度手間になるから、王城への報告はギルドに任せる。


 エルフの村に戻る時には、すでに残念ドラゴンの気配が無くなっていた。おそらく森から出たことを確認して、村に戻ったのだろう。

 村の中では、結界のせいで気配察知とマップが上手く機能しない。残念ドラゴンは村のどこかに居るのだと思うが、どこに居るのかは不明だ。会いたい相手ではないので、探すつもりはない。

 爺さんには直接報告しておいた方がいいだろう。倒し方の選択肢も増えたんだ。


 警備の女の子を探し、爺さんを呼んでもらう。どこに住んでいるかを知っていれば自分で呼びに行けるのだが、俺はこの村の中心地に行ったことがないんだ。当然、長老の家がどれかはわからない。


「なあ、悪いけど長老を呼んできてもらえるか?」


「へぁ? え……あ……はぃ」


 相変わらず挙動不審な警備さん。あたふたしながら村の奥に消えていった。少しは慣れてくれてもいいのに。

 長老を待つ間、みんなで周囲を警戒する。絶対に気配を消して現れるはずだ。もう驚かされたくない。



「待たせたのう」


 爺さんが突然俺の目の前に『ぬっ』と現れた。


「おわっ!」


 驚いて尻餅をつく。みんなも驚いて後ろに飛び退いた。この爺さんは、どうあっても俺たちを驚かせたいようだ。

 いつもは無警戒のところに現れるから、まだ分かる。今日は警戒していたにもかかわらず、突然目の前に現れた。この爺さんは絶対に何か特殊能力を持っているぞ。


「長老……どうやったらそこまで気配が隠せるんだよ」


 俺は気配察知には自信がある。結界でかなり制限されているとは言え、こんなに接近されるまで気が付かないというのはあり得ない。俺は気配隠しにも自信があるのだが、ここまでのことは無理だ。


「ふぉっふぉっふぉ。驚かせたようじゃな。悪気は無いんじゃよ」


 爺さんが笑いながら上機嫌で言う。悪気は無い……嘘だな。絶対に相手の反応を見て楽しんでいる。実害が無いのだから別にいいのだが、毎回毎回心臓に悪い。


「まあいいや。残ね……例のドラゴンから話を聞いているかも知れないが、ウロボロスに会ってきた」


「な……どういうことじゃ?」


 爺さんの顔が険しくなった。

 あれ、残念ドラゴンはそこまで確認しなかったのか。意外と早く帰っていたみたいだな。


「ちょっと見学しておきたかったからな。森から出たことは知っているよな?」


「うむ、ウォルファンから聞いておる。森から出たのなら、儂らが手を出すわけにはいかんのでな。ウォルファンも撤退した」


 人間に存在を悟らせないように暮らしているエルフたちにとっては、森の外側に行くだけでもハイリスクなはずだ。ましてや森の外に出るなんて危険過ぎる。だから森から出ていった時点で、エルフは手を出せなくなる。


「そのウロボロスは俺が討伐したから、もう監視は必要ないぞ」


「は? 何を言っておる?

 お主らが強い魔力を持っておることは知っておるが……そんなにすぐに倒せる物ではないじゃろう」


 爺さんは信じられない様子だ。意外とすぐに倒せるんだけどなあ。倒し方が分かれば楽勝だ。


「意外と楽勝だぞ?

 戦って気が付いたんだが、ウロボロスは熱に弱いんだ」


「熱じゃと? そんなものはすでに試しておる。どれだけ火を焚いても何も起きんかった」


 普通に火を焚いても無駄だろう。薪を燃やしたところで、せいぜい1000℃くらいが限界だ。炭を上手く燃やせばギリギリ鉄が溶ける温度まで上がるが、それでも全く足りない。

 20万℃を出そうと思ったら……原子炉があればいけるかな? まともな方法では無理だ。


「魔法だよ。魔法の火でなければ無理だ」


「それは尚更無理じゃ。魔力を吸収されるだけじゃろう」


「ウロボロスは魔力を吸収するが、魔法によって生み出された熱には耐えることはできない。核を破壊するだけの温度を出せば、崩壊して再生できなくなる。

 水が沸騰する温度の2000倍ほどの温度があれば十分だ」


「2000倍じゃと……? よくわからんのじゃが、それは可能なのか?」


 俺の感覚だと、100℃になった時の魔力の2000倍の魔力を突っ込んだだけだ。これで本当に20万℃まで温度が上がったのかは不明だが、ウロボロスを焼くにはちょうどいい火加減だった。


「実際にやってきたからな。熱を遮る魔法が無いと自滅するから気を付けろ」


 耐熱魔法も同じだけ出力を上げてやる必要がある。試していないが、耐熱魔法が無いと人間なら近付いただけで蒸発するはずだ。


「お主は化物級の魔力を持っているようじゃからのお……信じるわい。儂らもその手段が取れるか、試してみるぞ」


 俺の魔力が化物級というのは腑に落ちないが、俺にできてエルフにできないということは無いだろう。

 エルフは、できれば自分たちだけでウロボロスを討伐したいみたいだから、敢えて俺が探し回って焼くようなことはしない。索敵範囲に入るなら遠慮なく焼くけどな。襲われたらマジで厄介なんだよ。不意打ちで倒せるなら、そうした方が安全だ。


「今回は勝手に手を出して悪かった。俺たちが住んでいる国が襲われそうだったんだ。今後も見かけたら積極的に討伐するつもりだ。

 自分たちの手で討伐したいなら、俺たちよりも先にウロボロスに出会ってくれ」


 俺たちは今後、ウロボロスの巣に向かっていくんだ。出会う確率は俺たちの方が高い。一応断りを入れておいた方がいいと思う。


「ふむ……気を使わせてすまん。討伐した時は儂らにも知らせてくれ。渡せるものは少ないが、儂から礼をさせてもらう」


 まさかの討伐報酬が出るらしい。討伐部位が残らないんだけど、いいのかな……。倒したという証拠が何もないのに報酬を請求するのは、何か気持ちが悪いな。


「礼は追々考えるとして、討伐したら教えるよ」


 今のところは先送りでごまかす。討伐した証拠が残った時だけ報酬を貰うつもりだ。冒険者としては正しいだろう。


「できれば儂らが始末したい。じゃが、そうも言ってはおれんからな。討伐の手助けには感謝するぞ。

 まずは今日の報酬なのじゃが……」



 思いがけず報酬が貰えることになった。今回は討伐の証拠が何も無いので、討伐方法の情報料だけを貰うことにした、しかし何を貰えばいいか分からない。

 結局、エルフの情報と知識を貰うということにして、長老にスマホを渡した。


 転写機では緊急時に使いにくい。これはさっきのウロボロス戦の時に痛感した。レスポンスの遅さや情報の薄さもだが、文字を書いてやり取りをしている間は身動きが取りにくくなるのだ。

 スマホなら走りながらでも使えるからな。エルフや魔道具関係で気になることがあれば、スマホですぐに聞くことができる。今後の調査が捗るだろう。一度王都に戻ったら、できるだけ早くミルジアに向かおう。


 爺さんはスマホにずいぶんと驚いて、興味深く観察していた。解析のような余計なことをしないように釘を刺したが、技術者が居ないから無理だろう。材料がないから試作すらできない。

 さらに落としたり手放したりすれば、俺たちのスマホから警告音が鳴る。余計なことはできないのだ。



 爺さんは、受け取ったスマホを大事そうに握りしめて帰っていった。

 今日は爺さんの帰り道も注意深く観察する。気配隠しの秘密を探るためだ。みんなでじっと見つめる……。やがて爺さんは視覚の外に出た。普通に歩いているようにしか見えなかった。

 気配察知が機能しない村の中では、これ以上の観察は無理だ。次回また挑戦しよう。



 爺さんの見送りを終え、テントの中に入る。少し早い時間なのだが、今日は俺がかなり疲れた。軽くミーティングをしてさっさと休むことにしたのだ。


「あの……この結界を隔てて、うまく通話できるのでしょうか?」


 ルナから質問、というか疑問が投げかけられた。これは俺も気になっていることだ。なんとなく面倒で試していない。一度この村から出ると、ルナが居ないと入れなくなるのだ。


「リリィさんで試せばいいんじゃないかなー?」


 リーズがサクッと解決案を出してくれた。リリィさんなら、たぶん仕事中でも応答してくれるはずだ。王城に居るリリィさんと通話ができるなら、少なくともアレンシアに居るうちは繋がるということだ。さっそく試してみる。

 このスマホで誰かに呼び出しをしている時、地球の電話のような『トゥルルルル』という電子音が出ない。呼び出している実感が無いと使いにくいので、細かくバイブする機能を付けて対応した。


『コー君かい? 君から連絡をくれるとは、いったいどういう風の吹き回しだろうか』


 数秒間コールすると、リリィさんが応答した。所謂「もしもし」がないので、なんとなく喋りにくい。通話のルールを日本の電話に合わせて定着させよう。


『ああ、仕事中だったか? 悪いな、用は無いんだ。通話できるか試したかった。

 何の問題も無いようだから切るぞ』


『いや、ちょっと待ちたまえ。君たちは今どこに居るんだ?』


『この前話しただろう。エルフの村だよ』


『本当か! やっぱりそこに居たのだな! どうだ? エルフの情報は掴めたか?』


 スマホの向こうでリリィさんのテンションが最高潮を迎えている。この温度差はちょっと面倒くさいな。さっさと切ろう。


『ああ。近いうちに王都に戻るから、その時に話すよ。仕事の邪魔して悪かったな。じゃあな』


『待ってくれ! 近いうちとはいつだ! 明日か? 今日か?』


 リリィさんが暴走している。今日明日のことは近いうちとは言わないぞ。予定では明後日のつもりだった。明日1日を薬草採取に充て、明後日のんびりと帰る。

 ウロボロスを討伐したため、予定を変更して明日帰る必要があるかも知れないが、薬草が足りていないことも事実だ。予定通り行動しよう。


『明後日だ。日が落ちる前には帰っているだろう。王都に着いたら、冒険者ギルドに寄ってからいつもの宿に向かう。仕事が終わったら宿に来てくれ』


『明後日だな。了解した。予定が変わったら、すぐに教えてくれ』


『わかった。じゃあ切るぞ』


『ああ。明後日、また会おう』


 リリィさんとの通話を切る。なんだか妙に疲れたが、問題なく通話できた。ここから王都までは、それなりに離れている。意外と遠くまで通話できるらしい。エルフの結界も問題にならなかった。


「大丈夫だったな。もっと離れていても問題無いだろう」


「すごい便利ね……これ。

 ところで、通話の内容なんだけど。明日の予定はそれでいいのね?」


 クレアが笑顔で聞いてきた。

 もしかしたら、薬草採取の依頼を放棄して王都に帰ると思っていたのかもしれない。選択肢としては、それもあったんだ。

 森の危険が去ったという事は、できるだけ早く報告した方がいい。しかし報告をしたとしても、しばらくは立入禁止が続くだろう。薬草採取の依頼を放棄しても良いとは言えない。

 最大の危機が去ったとは言え、混乱した森の中は危険だ。落ち着くまでの数日間は立ち入り制限が掛かるはずだ。


「元々そのつもりだっただろう。どうせ薬草は必要なんだ。一度王都に帰ってから、すぐに森に戻るのはさすがに面倒だ。明日は1日薬草採取をしよう」


 季節はもうすぐ秋だと思う。時期的に木の実は少し早いかもしれないが、実は俺も少し楽しみなんだよ。明日の薬草採取は張り切っていこう。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


すみません、今日はやはり少し遅い更新になってしまいました。

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