表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
81/317

古代兵器捜索ツアー

 バブーンの解体を終えた後、俺たちは拠点に戻った。まともな形が残っていたのは約200匹分で、ボロボロになった素材が300匹分。本当はもっと倒したのだが、ボロボロ過ぎて素材回収不可だった。

 ここまでやるほど恨みがある魔物ではなかったのだが、逃げられないうえに積極的に向かってくるから、やらざるを得なかった。


 魔石の数を数えると、638個だったので、おそらく638匹討伐したということだろう。

 素材の数は予想よりも少なかったが、マジックバッグは一杯になった。多少の空きはあるのだが、それでも採取した薬草を入れるには心もとない。


「ルナ、手持ちの素材でマジックバッグを作ることはできるか?」


「大丈夫ですよ。5つくらい作れそうです」


 5つも要らない。でも人数分あると便利だ。

 リーズに形成を頼む。ミシンがないので多少時間が掛かる。固い革を手縫いするのだ。かなり重労働だろう。

 食事の準備やその他の雑事は俺たちが請け負い、リーズにはマジックバッグ作成に注力してもらう。


 寝る前にはなんとか4人分のマジックバッグが完成した。1つあたりの容量は、以前倒したオーガ(でっかいおっさん)を基準にした。あれが2匹ほど収まる容量、コンビニの店内くらいの大きさになったと思う。

 すべてのマジックバッグの仕様で、マジックバッグの中にマジックバッグを入れることができない。入るには入るのだが、両方の容量が見た目通りになってしまうのだ。そのため、古いマジックバッグも持ち歩く必要がある。

 無駄な荷物なので、いずれなんとかしたい。


 さらに相変わらず中身は腐るので、保冷機能や保存機能のようなものも付けたい。今後の課題だな。



 これが昨日の状況だ。

 昨日の夜聞きそびれた事を聞いておこう。


「クレア、身体強化のコツは掴めたか?」


「ああ……うん。たぶんもう大丈夫よ。いつでもできるわ」


 クレアが少し迷いながら答えた。昨日のクレアは俺から見ても問題無さそうだった。本人が大丈夫だというのなら大丈夫なのだろう。


「身体強化を使った時、何か感覚に変化があるはずなんだ。何か気が付いたか?」


 俺の場合『少し先の動きが見える』なのだが、クレアはどうだろう。以前からずっと楽しみにしていたのだ。


「え……そうねぇ。感覚というか、体はおかしかったわよ。

 体が妙に軽くて、無限に力が湧いてくる感じだったわ。しかも、攻撃を受けても何ともないの。痛くもなかったわよ」


 ……それって普通の身体強化じゃね?

 いや、よく考えたら昨日のクレアは異常なほど怪力だった。マクハエラがいくらよく切れると言っても、バブーンを豆腐のように斬るのは不可能だ。

 よく剣が持ちこたえたな……。大丈夫なのか?


「クレア、剣を見せてくれないか?」


「いいわよ」


 クレアからマクハエラを受け取る。注意深く刃を観察するが、刃こぼれ1つ無いきれいな刀身だ。曲がりも無い。


「きれいな剣だ。問題ない」


「当たり前じゃない。あんなに酷使したのよ? 昨日のうちに手入れしてるわよ」


 クレアも真面目に手入れをしているらしい。

 俺たちも自分でナイフの手入れをしている。魔道具職人は道具の手入れも仕事のうちだから、その辺りはみんな真面目だ。昨日はリーズにマジックバッグを頼んでいたので、グレイヴの手入れは俺がやった。


「そりゃそうか。

 クレアの剣は思ったよりも早く壊れるかもしれない。異常があったらすぐに言ってくれ」


 たぶんすぐ折れる。強化付与を覚えられれば問題ないが、クレアにはまだ早い。それよりも早く折れるだろう。


「うん……ありがと!

 ところで、今日はどうするの? 薬草を採取して王都に戻る?」


 そういえば、みんなにはまだ相談していなかったな。

 今日はウロボロス見学ツアーだ。もちろん見るだけ。まともに戦うには面倒過ぎる相手なんだ。


「今日は南の探索に向かおうと思う」


「ちょっと待ちなさいよ。長老さんに言われたことを忘れたの?」


 ウロボロスは南西に向けて移動したそうだ。見学に行くのだから、当然追いかける。


「覚えているぞ。だから南に行くんじゃないか」


「何のために行くんですか……?」


 ルナも不思議がっている。ちゃんと説明しようかな。


「俺は今後、調査のためにミルジア王国の東へ行こうと思っている。その先には間違いなくウロボロスが居るだろう。不測の事態に備えて、一度確認しておきたいんだ。

 もちろん今回は見るだけ。遠くから確認して、すぐに離脱する」


「あたしも見たーい!」


 はいはい。リーズは今日もリーズだねえ。リーズが近付きすぎないように注意しておこう。


「そういうことでしたか……。お付き合いします」


「うーん……見るだけよね? 襲われても逃げるのよね?

 反撃しようとはしないのよね?」


「そのつもりだ」


 クレアは何の心配をしているのだろう。襲われて逃げ切れないなら反撃するしか無いと思うんだけどなあ。

 まあ今回は襲われる前に逃げる予定だ。昨日のバブーンとは違う。最初から逃げる前提で接近するのだ。退路を確保してから接近するし、目視できたらすぐに離脱する。


「まあ、これも調査のうちね。協力するわ」


 全員の同意を得られたので、予定通り行動を開始する。

 厄介な敵に絡まれると困るので、今日はできるだけ敵反応から避けて移動した。途中で見つけた(マンバ)だけは、食料として確保しておいた。



 かなり南下したはずなのだが、ウロボロスらしき反応が無い。ついでに残念ドラゴンらしき反応も無いので、方角が間違っているらしい。

 魔物反応は、リーズの勘とマップの反応で判断している。


 現在のマップの仕様は、気配察知の警告の代わりに、色のついた点と大まかな名称が表示されるようになっている。当然だが、未登録の反応は『不明』と表示される。

 相手の大きさや魔力の強さを表示の大きさで表し、反応の種類によって色分けされている。

 敵対は赤、注意は黄色、友好は緑。仲間は青で表示される。これらは明確に俺たちに向けられた反応だ。人間と魔物と動物の区別も付けられる。



「みんな! ちょっと止まって!」


 クレアが走行中の俺達に言う。

 リーズに停止の合図を送って隊を止めた。


「どうした?」


「かなり南に来たわよね?

 たぶん、もうすぐミルジア王国に入っちゃうわ」


 マップで確認するが、辺りは森なのでどこが国境なのかわからない。


「何か問題があるのか?」


「無許可での越境は重罪よ。特に、向こうはミルジアなんだから。

 すぐに引き返したほうがいいわ」


 ミルジア王国は、俺たちが住むアレンシア王国と、とても仲が悪い。表向きには交易をしたり交流を持ったりしているのだが、常に牽制し合っているそうだ。

 冒険者や商人は、ギルド経由で国から発行される許可証を持っていれば越境できる。無許可での越境がバレると、それはそれは面倒なことになるらしい。バレればね。


 バレるとは思えないんだけど、念のためにルートを変えるか……。


「わかった。じゃあ、ここから西に向かおう」


 どの道、ウロボロスは発見できなかったんだ。次に向かうなら西だ。



 西に向けてさらに走る。マップでは終始森しか表示されていないのだが、その中に不自然な反応が1つ。森の真ん中で、特大の家畜の反応。


「残念ドラゴンが居るなあ」


「その呼び方、やめなさいよ……」


 残念なものは残念なのだから仕方がない。

 しかし、あいつに絡まれると面倒だ。ウロボロスはこの辺りに居るのだろうから、あいつを避けて捜索しよう。



 しばらく走り続けると、森に差し込む光が増えてきた。もうすぐ森の終わりだ。しかしまだウロボロスらしき反応が捕捉できないでいる。


「森から出ちゃうよー!」


 先頭を走るリーズから注意された。

 また空振りか……。一旦森から出て休憩しよう。近くに居ることは間違いないはずだ。


「そのまま出てくれ。どうせ草原に出るんだろう。そこで休む」


 王都から出たすぐの所は、見渡す限り草原が広がっていた。おそらく国境付近までは、ずっと草原だろう。


 予想通り、森を抜けると草原だった。たまに木が生えているのだが、目印にもならない。

 ミルジアに向かうための街道は整備されておらず、歩くのも困難だ。そのうえこの何もない草原。これでよく迷わないものだな。


「魔道具があるじゃない。それでも迷うなら、家から出ない方がいいわよ」


 クレアが俺の素朴な疑問に答えてくれた。

 そういえば方向を示す魔道具があるんだった。商人や冒険者なら誰でも持っている。



 俺たちは草原で軽く腰を下ろして休んでいるのだが、ここで長い休憩を取るつもりは無い。少しミーティングしたらすぐに出発する。


「さて……次はどっちに向かおうか?」


「ねー、あっちがなんか変だよ?」


 リーズが何かを感じたらしい。リーズが指す方向は、ミルジアの国境がある方角だ。

 国境と言っても、明確に境目があるわけではない。大きな川を隔てて、両国がなんとなく領土を主張している状態だ。そのため、川の両岸は緩衝地帯となっている。どちらの国でもない土地だ。


「変て……何が変なんだ?」


「人がいっぱい居る。すごいいっぱい」


 王国の兵士は大半が王都に集結しているから、もしかしたらミルジアの兵士かもしれない。

 でも何故だ……? 緩衝地帯で兵を動かすと、敵対行動と判断される。余程の事情が無ければやってはならない。


「クレア、最近戦争の兆候でもあったか?」


「無いわね……。サヒルって言ったかしら。彼もそんなこと、言ってなかったでしょ?」


「近頃は小康状態でした。強いて言うなら、教会の南派ですかね……。彼らはミルジアの影響を強く受けているようでした」


 教会南派は、つい先日撃退したクーデターの中心となる人たちだ。良く言えばミルジアの宗教を取り入れた新しい宗派なのだが、どう見てもただの反乱軍だった。

 少しキナ臭いな。一応確認して報告しておこう。


「ちょっと見てくるよ。待っててくれ」


「それならアタシも行くわ。見るだけなら平気よね?」


 結局、全員で目視できる位置まで移動する。不自然にならない程度に魔法で土を岩に変えて、その陰に隠れた。


 大きな川の向こう岸には、大量の兵士が居た。マップの捜索範囲の外にも居るので、正確な数がわからない。数千人は居るだろう。整列していないので、おそらく今は休憩中だ。

 この川には、申し訳程度の吊橋が掛けられている。馬車1台がなんとか通行できる程度だ。

 お互いの国が警戒しあっているこの場所では、まともな橋を掛けることができない。街道が無いのも同じ理由だ。敵の進軍速度を早めるだけなので、逆に危険だ。



 ミルジアの意図がわからない。もしかして、ウロボロスの情報を知ったのか?

 物理攻撃が効かないウロボロスに対して、一般の兵士を連れてくるとは、どういうつもりだろう。魔法使いの大軍を連れてくるべきだ。それとも、ここにいるほぼ全員が魔法使いなのかな。



 それともう一つ、仮説が立つ。戦争の準備をしている可能性もある。


 先の反乱は、あまりにもお粗末な物だった。兵は傭兵頼み、市民の賛同は得られていない、攻撃開始も見切り発車だ。

 成功するとは思えない反乱なのだが、王都を混乱させることが目的だったとすれば、その目的は十分に達成された。攻め込むには、またとないチャンスになる。


 これがすべて仕組まれていたことなら……ミルジアがアレンシアを攻め落とすための策だというのなら、すべてが納得だ。


 策に溺れまくって死にそうなんだけどね。

 反乱は1日で終決し、今は復旧に向けて活動中だ。騎士や兵士も、すぐに本来の持ち場に戻る。

 もしこれが策だと言うのなら、すでに破綻している。放っておけば勝手に自滅するだろう。



 このままだと判断できないな。後のことは国に任せよう。


「ねぇ、どうする気?」


「王に報告しておくよ。後は兵士がなんとかするだろう」


 不審がるクレアをよそに、マジックバッグから転写機を取り出す。


『国境付近にミルジア兵が集結中。至急確認を』


 文字を送るだけだ。長ったらしい文章など必要ない。用件が伝わればいいのだ。

 送信を確認すると、すぐに転写機が細かく震えた。受信だ。ずいぶんと早い返信だな……。


『了解した。速やかに殲滅せよ:代筆 グラッド』


 グラッド教官じゃないか。やっぱり王以外も見ているんだな。

 で、なんで俺がやるんだよ。こんなことは兵士の仕事だろうが。というか現場を確認する前に殲滅ってどういうことだよ。物騒すぎるわ。


『ご自分でどうぞ』


 後は知らない。勝手にやってくれ。


『グラッドの指示は無視せよ。こちらで確認する』


 また転写機が震えた。今度は王からだ。簡潔な文章も書けるんじゃないか。いつもこれでいいのに。

 グラッド教官と王の間で、どんなやり取りがあったのかが気になる。意外と気安い関係なのかな。まあ俺の仕事はここまでだ。本来の仕事であるウロボロスの捜索に戻ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ