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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第一章 旅をしたいのに王城から出られません
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昔話は時代と共に変わっていくものです

「終わったぞ。早速行こう」


 リリィさんが駆け寄ってきた。使徒の相手はいいのか? 扱いが適当だが。


「自主訓練をしすぎて、もうかなり疲れているんですがいいですか?」


「そうだな。キミも何かやっていたようだからな」


 訓練場を見渡して言う。おかしなことはしていませんよ?


「今日はもう魔法を使えそうにありません」


 錬金術 (リアル)のせいだ。あれをやらなきゃまだ余裕があった。


「魔導院に行けばポーションがある。それで回復させるといい」


 あ。やっぱりあるんだ、ポーション。


「ありがとうございます。助かります。正直、かなりしんどいので」


「じゃあな、コー」


「またね、コーくん」


 リア充たちが満足した顔で帰っていった。何か言いたいこともあっただろうに……。リリィさんに気を使ったのか。


 リリィさんに連れられて、魔導院に向かった。




「あれ? コーさん。どうされたんですか?」


 魔導院の中に入ると、ルナが駆け寄ってきた。


「ルナ、こんにちは。リリィさんの誘いでお邪魔しました」


 練習で散々名前を呼んでいる。今更さん付けもおかしい。


「そうなんですか……。ふーん?」


 ふくれっ面で目の前に立つ。


「さっき、リリィさんが教官を務めた魔法の訓練に参加していたんだ。

 俺の魔法はやっぱりオカシイみたいで、話を聞きに来た」


 何故か言い訳臭くなってしまう。やましいことなんて無いんだよ? 本当だよ?


「ああ。キミたちは顔見知りだったか」


「ええ。言葉の練習に付き合ってもらっています」


「なるほど。言葉が通じればさっきの説明も……」


 リリィさんが何か思いついたようで、机の引き出しをゴソゴソと漁っている。


「コー君。これを付けたまえ」


 そう言って、指輪を渡してきた。今付けている指輪と似たようなシンプルな銀色の指輪だ。

 二つ付けろと? チャラくならない?


「これは負傷した兵士のために開発した、発声補助の効果がある指輪だ。耳も良くなる。

 おそらく無いよりはマシだろう。言語の習得も早くなるはずだ」


 なるほど。こんな便利なものがあるなら先に言ってほしいよ。

 貰った指輪を付ける。兵士用なので、かなり太めだ。ギリギリ親指に収まった。


「ありがとうございます。助かります」


「今日は魔法の訓練だったんですか?

 剣術訓練を受けていたので、てっきり練気法を訓練するかと思っていました」


 と、ルナが聞く。さっそく指輪の効果が出ているようで、この世界の言語として聞こえる。

 同時に、日本語として理解された。違和感がすごい。でもこれなら習得は早そうだ。


 不思議なことに重なったように理解されるんだよな。文法違うはずなのに……。魔法は便利だな。


「うん。できるとこは何でもやっておきたいからね。

 この世界は旅人に優しくないみたいだから」


「冒険者? 王都から出ていくんですか?」


 ん? 旅人が冒険者と翻訳されたぞ。こっちの世界では同義語なのか。


「そうだね。俺は使徒じゃないから。王様の許可は貰っているよ」


「そうですか……」


 ルナはそう言って考え込む。


「私も、一緒に行ってもいいですか?」


 わお。最高じゃないか。良いですとも。でもいいのかな。


「もちろん、俺は構わないけど、いいの? 宮廷魔導士でしょ?」


「いや、ルナは宮廷魔導士を辞めることが決定しているのだ」


 リリィさんが口をはさむ。


「本来なら、もうここに居る義務は無いのだがな。

 引き継ぎと使徒関係の業務のために無理を言って残ってもらっている」


「そうなんですか。

 でも、何かやりたいことがあって辞めるんじゃないの?」


 ルナに向いて聞いた。宮廷魔導士を自ら辞めるなんて、余程の理由があるんじゃないのか?


「事情が事情だからな。仕方がない。私も近いうちに辞めることになるかもしれん」


 もしかして宮廷魔導士はブラック企業なのか? でもこの人、ブラック戦士養成ギプスを作っていたよな……。


「そうです。目的があって辞めるわけではないので、この先は私の自由です」


 ルナは美少女だ。宮廷魔導士なのだから、多少は戦えるはずだし治癒魔法も使える。そして美少女だ。

 この世界の常識も知らない俺と一緒に来てくれるならかなり心強い。


 ついてきてくれるなら願ってもいない幸運だな。


「じゃあ、お願いしてもいい? 俺は常識知らずだから苦労掛けると思うよ?」


「はい。大丈夫です。ぜひ、お願いします」


「ありがとう。訓練でそこそこ動けるようになったら出発するつもりだから、よろしくね」


 ルナは「はい」と返事をして仕事に戻っていった。



「そういえば、ポーションを渡すことを忘れていたね。これを飲むといいよ」


 リリィさんが小さな瓶を渡してきた。栄養ドリンクほどの小瓶に、毒々しい茶色の液体が入っている。

 見るからに怪しい液体だが、飲めと言うのだから飲んでみる。


「ゲフォッ!」


 思わずむせてしまった。


 つーんと香る薬品臭。

 口に含むと青臭さが口いっぱいに広がり、苦味と酸味と甘味と草味が口の中でブレイクダンスを踊っているようだ。


 気合で飲み下す。後に残るねっとりとした甘みが嫌な思い出を更に記憶に繋ぎ止めようとしている。


「不味いっすね……。これ」


 基本的に何でも食べるが、不味いものは不味いんだよ。我慢して食うんだよ。


「ははは。そうだろう。いろんな薬草を煮詰めて作る、高級品だよ」


 リリィさんは笑いながら言うが、ポーションがクソ不味いのは当たり前のことらしい。

 でも、さっきまでの倦怠感が嘘のようになくなり、かなり楽になった。


「でも、よく効きました。ありがとうございます」


「それは良かった。こんな味でもこの国の薬師の自慢の一品だよ」


 味が酷いのは周知の事実か。なんとか改良できないかな……。俺の仕事ではないな。


「では、キミの魔法について聞きたいのだが」


「お答えできることは多くありませんが、どうぞ」


「キミは、エルフと関わりのある者なのか?」


 エルフ、やっぱり居るのか。容姿端麗で独自の文化を持っているっていうのが定説かな。ぜひ会ってみたい。


「いえ、全く。元の国にはエルフという存在は居ませんでした」


「そうか……。キミの魔法、私が読んだ文献の内容と照らし合わせると、エルフの魔法によく似ているようなんだが」


「なるほど。それならばエルフにお会いしたいですね」


「本当に関わりがないのか……。残念ながら、それは叶わないよ」


「なぜです?」


「もう滅んでいるからな」


 そう言って、昔話をしてくれた。と言ってもフィクションではなく、この世界の現実だ。




 数百年前、この世界のどこかに魔族と呼ばれる種族が居た。それらを統べる魔王が居た。


 魔王は都市を拡大する人間を快く思わず、魔物を使役して人間を殲滅しようと試みる。


 魔王が住む地とほど近い位置に首都を構えていた国は、甚大な被害を受けた。


 そのことを重く見た、時の大帝国『ハン帝国』は、魔王の討伐と魔族の殲滅を決意した。


 魔族が持つ膨大な魔力は人間を圧倒し、かなりの被害を受けることになったが、神から遣わされた『神界の勇者』と呼ばれる者が魔王の討伐に成功。


 統率が瓦解した魔王軍は、ハン帝国によって徹底的に追撃され、魔族は完全に絶滅した。


 人々に平和が戻るはずだったのだが、魔王は最後に呪いをかけた。


 その呪いは、『魔物が生まれ続け、人々を襲い続ける』というもの。


 以来、人間と魔物は戦い続けることになった。




「この話は、本になって人々に読まれ続けている。世界中の誰でも知っている物語だよ。

 エルフは、魔王軍の被害を真っ先に受けて滅んだ、と言われている」


 魔王が居たのか。エルフを滅ぼすなんて最悪だな。

 しかし、神界の勇者ってのは怪しいな。転移者じゃないのか?


「ありがとう。勉強になったよ」


「いや、話はこれからだ。我々が研究しているものの中に『エルフの魔道具』というものがある」




 強力な効果を持っているが作成法が不明な魔道具で、この国で稀に発見される。

 過去の資料から出処を調べた結果、エルフが開発したものと判明した。

 本物は国宝級のアイテムなのだが、宮廷魔導士はその技術を解析、復元して量産を可能にしている。


 と、説明を受けた。



 宮廷魔導士、すごいな。でも余計なことを言うとスイッチが入っちゃうから言わない。

 リリィさんは、「本当にここだけの話にしてほしい」と念を押して話を続けた。


「我々は解析のために、エルフに関するあらゆる文献に目を通すのだが、さっきの物語は間違いだと判明した」


「どういうことですか?」


「当時の帝国が魔族と呼んでいた者こそがエルフだ」


 なん……だと? 異世界転移舐めてんのかクソ帝国が。エルフが居ない異世界転移は異世界転移じゃないぞ。


「じゃあ、人間がエルフを滅ぼした……ということですか? でも何で……」


「なぜ戦争が起きたかはわからない。

 でも、当時のこの国は友好的な関係だったはずだ。魔道具の作り方もエルフから学んだと書かれていた」


「そうですか……。でも何故、俺にこんな話を?」


「キミの魔法がエルフの魔法に似ているようだったのでな。

 もうこの世界にエルフを知っている人など居ないし、怪しむ者も居ないだろうが。知っておいたほうが良いと判断した」


「それに……」と言って言葉を付け足す。


「キミの魔法が上達すれば、魔道具の開発が捗りそうだったからね」


 リリィさんは笑顔で答える。たぶんこっちが本音だな。相当な魔道具フェチだからな。この人。


「わかりました。ありがとうございます。何かお手伝いができそうでしたら、力を貸しますね」


「そうか! ありがとう。早速だが、こっちに来てくれ」


 あれー? 日本的社交辞令は通用しないのか。

 リリィさんは、鼻息荒く腕を掴んで引っ張る。この人、美人なんだけど若干残念なんだよな。緊張しなくて済むからいいんだけど。


 作業台に連れていかれ、夕食の時間まで魔道具の基礎を叩き込まれた。

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