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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
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軍用は男のロマン

 目の前にはまだエルフの長老が居る。そわそわして帰りたそうだから、早めに話を切り上げよう。

 今聞くことは、エルフの生物兵器『ウロボロス』についてのみ。これが今どこに居るのか。この森の近くから居なくなっていれば、この森の立入禁止を解除することができる。


 森が立入禁止になってから、8日が過ぎた。調査の間隔としてはちょうどいいと思う。というかこの8日間は事件が起こりすぎだろう。

 しばらくはおとなしくしていたい。ウロボロスが妙な動きをしていなければいいんだけど……。


「爺さん、もう一つだけいいか?」


「ふむ……その前に1つ聞かせてくれ」


「なんだ?」


「ハン帝国は今どうなっておる?

 勢力はどのあたりまで伸びておる?」


 長老がそわそわしていたのは、これが聞きたかったからか。自分の国を滅ぼした国だ。気になるのだろう。

 そんなに気になるのなら、自分で見に行けば良かったのに。

 ……まあ無理か。この村から離れたら、エルフの生存がバレる可能性がある。どんなに気になっても、人間の生活圏に近付くのは避けた方がいいだろう。


 ハン帝国は、すでに崩壊している。いくつかの国に分かれたそうだ。近くではミルジア王国もその1つだ。

 首都の位置は変わっていないらしいが、当時の王家は断絶し、国号が変わった。


「すでに滅んだよ。今は国の名前が変わっている」


「なん……じゃと……?」


 長老は酷く驚いたようで、目を見開いて口をパクパクとさせている。


「エルフの国があったらしい場所も、すでに放棄されたようだ。

 もう誰も住んでいないし、未開の地という扱いになっている」


 これは不思議な話なんだよな。1000年という月日は、長いようで短い。もし誰かが住んでいたなら、伝承や書物などで何かの痕跡が残っているはずだ。

 でも俺達が住むアレンシアでは、エルフとの交流があったはずなのに、完全に未開の地という扱いになっている。

 エルフに関する文献にも場所が書かれていないから、国の正確な位置を隠していたとしか考えられない。

 当時のアレンシアのトップは、よくそんな国と交流する気になったな。


「それは本当か……?」


「嘘吐いてどうするんだよ。事実だ」


 長老は細かく肩を震わせて俯いた。いろいろと思う所があるのだろう。


「……ふっふっふっ……ふぁっふぁっふぁぁぁ!

 ぶぁぁっふぁっふぁぁぁゲホゲホゲホッ!」


 長老は突然大声で笑い始め、笑いすぎてむせた。


「おいおい、大丈夫か?」


「ゲホッ……大丈夫じゃ。取り乱した、すまんかったのう。ぬふふふ」


 口元のニヤケが止まっていない。油断をしたら窒息するまで笑いそうだ。


「本当に大丈夫か?

 笑いすぎて死にそうだぞ?」


「ふぅ……。大丈夫じゃ。しかし、あのハン帝国が滅んでおったとはのう。

 実に愉快じゃ。長生きはするもんじゃ」


 長老は深い溜め息を付いて呼吸を整えた。

 しかし、この爺さんのハン帝国に対する恨みがすごい。前に「もう恨んでいない」と言っていたが、ハン帝国だけは別のようだ。

 まあ自国を滅ぼした国だから、無理も無いだろう。


「俺もこれ以上は知らないぞ。

 元ハン帝国だった国にも行ったことがないんだ」


 ミルジア王国には近々行くつもりだ。もしかしたら追加の情報が得られるかもしれない。


「ああ、それだけ知られれば十分じゃ。ありがとう。

 お主が聞きたいことは何じゃ?」


 笑顔の長老が上機嫌に聞く。


「ウロボロスについてだ。今どこに居るかわかるか?」


 上機嫌だった長老の顔が、みるみるうちに険しくなる。忙しい爺さんだ。


「ウォルファンが調査に行っている。以前よりも少し南下したらしい」


 ウォルファンはこの村の飼い竜で、どうやら神竜という伝説の竜らしいのだが、ただの残念ドラゴンだ。

 あのドラゴンなら、いざとなったら空を飛んで逃げられる。危険物の調査にはうってつけだな。


 脅威は少しだけ遠ざかったようだ。でもまだこの森に居ることは間違いないから、立入禁止は続行だな。

 できれば早くウロボロスの問題を始末したい。この森の調査がある限り、王都から長期間離れることができないのだ。


 そして、急ぎたい理由もある。最近少しずつ肌寒くなってきている。日本の感覚だと、たぶん9月末くらい。もうすぐ秋が来て、冬が来る。

 冬のキャンプも良いものなのだが、移動と拠点の設営が制限される。できれば冬が来る前に移動したい。


「なるほどな。今後の動きは予想できるのか?」


「無理じゃな。奴は不規則に動く」


 マジで面倒な兵器だな。暴走する前提で作っているじゃないか。多少は制御する努力をしろよ。


「そんな兵器を実戦投入したのか……」


 つい口に出してしまった。

 今更そんなことを言ってもしょうがないことはわかっている。当時のエルフに、そんな配慮をする余裕など無かったはずだ。


「そうじゃな……エルフの最後の悪あがきじゃった。

 国を捨てる覚悟をした当時の技術者が、未完成のウロボロスを解放したのじゃよ」


 意外と重い話でした。自爆覚悟で使ったのか。

 エルフの国が廃棄された原因はこれじゃないのか?

 破壊不可能な危険物がうろつく地域に、好んで住みたがる奴は居ない。


「全部で何匹解放したんだ?」


「11匹と聞いておる。そのうち2匹は我々が撃破した。何匹が現存しておるかは不明じゃよ」


 当時のエルフの国付近では、11匹の危険物が暴れまわっていたことになる。俺なら絶対にそんな所には住まない。


 現存するのは最大で9匹か。そのうち1匹が近くにいる。冒険者ギルドが確認した個体は、たぶんこの村で撃破された奴だろう。

 この村と王都は結構近いから、この距離で複数匹が同時に出たらとんでもない騒ぎになるはずだ。


 エルフの国の遺跡を調査するためには、ウロボロスの対策が必須だな。

 見た目、大きさ、行動パターンを知っておきたい。事前に知っておけば、逃走が楽になる。


 せっかく近くにいるんだ。一度この付近に居るであろうウロボロスを見ておきたい。


「今どの辺りに居るかは予想できないか?」


「そうじゃな……南西の方角じゃが、それ以上のことはわからぬ。

 お主らは南に行かなければ、出くわすことは無かろう」


 なるほど、南に行けと。了解した。

 でもクレアだけが心配だ。明日はクレアのためにグラッド教官式スパルタ教育だな。


「ありがとう。よくわかったよ」


 しばらくは、おとなしくできそうにない。クレアの訓練と、ウロボロスの見学だ。また忙しくなるなあ。



 話が終わると、長老はそそくさと帰っていった。ウロボロスの情報ばかりか、エルフの国の情報も得られたので、かなり満足だ。

 たぶんリリィさんも行きたがるだろう。最低限ウロボロスから逃げるだけの体力が必要だ。いずれリリィさんにもスパルタ教育だな。


 テントを設営して、宿泊の準備を整える。このテントは8畳くらいの広さがあるのだが、形状は円錐型のティピーだ。

 隅っこは狭すぎて使えないので、実質の広さは6畳くらい。3人なら十分な広さだが、4人だとやや手狭だ。5人になるとかなり狭くなる。


 今日のところはクレアの1人用テントも使わせてもらうが、テントも買い直したほうがいいだろう。



 食事を終わらせ、俺たちの大テントに集まる。外では食料が採れなかったので、今日の食事は王都で買っておいた保存食だ。

 毎回保存食というのは金がもったいない。今度からは遠慮せずウサギを狩っておこう。


 夜になり、みんなでもう一度謎の元魔道具(ガラクタ)を検証することにした。解析に必要な時間も把握したい。

 普通は数人の宮廷魔導士がチームを組んで、数ヶ月から数年で解析する。俺達の場合は冒険者の片手間なので、もっと時間が掛かるかもしれない。


 クレアは魔道具職人ではないのだが、実家が魔道具店だから種類には詳しいはずだ。参考のために来てもらっている。


「じゃあ、あらためて気が付いたことはないか?」


 俺にはボロボロの金属板にしか見えない。魔法陣に詳しいわけではないし、魔道具に詳しいわけでもない。知識はみんなに頼るしか無いのだ。


「これはスマホみたいなのよね? 通信機じゃないの?」


「違うよー。そんな部品は付いてないよ」


 ただの金属板に見えるが、部品ごとにわかれているらしい。


「リーズさん、詳しく聞いてもいいですか?」


 リーズの所見を詳しく聞いた。

 内蔵されていると思われる機能は、大きく分けて3つ。魔力の放射と受信、データの記録、画面の表示だ。

 魔力の放射と受信は、俺の気配察知によく似ている。レーダー? でも、もっと細かい処理をしているように思う。

 データの記録は転写機のようなものだ。受け取った情報の一部が記録される。

 画面の表示は、モノクロだが俺たちが作ったものよりも高精細で大画面だ。今後の参考にしよう。



 そして兵士が使っていたという情報から予測できる物……。


「これ、地図だな」


 それもオートマッパーだ。周辺の地形を勝手に補完してくれる地図。そんな便利な地図は地球にも無い。

 ゲームの定番だが、地球に居た時からずっと欲しかったアイテムだ。


「地図ですか? そんな物がなぜ魔道具に?」


 ルナが不思議がっている。

 王国では、地図といえば紙だ。それも羊皮紙。にじみにくいインクで書かれているので、水に濡れても使える。

 相当高いが一般人でも買える。


「勝手に書き足してくれる地図だよ。現在地を示したり、仲間や敵の位置を表示することもできる」


 これなら気配察知の不具合を解決できるんじゃないかな。

 俺の気配察知が誤作動を起こすのは、単純な情報だけを得るように調整しているからだ。


 何かの反応に対して、耳をふさいで目を閉じて、その1つの反応だけに集中すればなんとか判別できる。しかし、気配察知は何かをしながら同時に起動しないと意味がない。

 移動中や戦闘中に使うためには、簡略化した情報でないと逆に危険だ。誤作動で困ることは多々あるが、これを回避することで危険になるなら本末転倒だろう。


 判別する作業を他の誰かに任せるなら問題ない。この魔道具に判別機能を付ければいい。


「とんでもない魔道具ね……」


 クレアが有用性に気が付いたみたいだ。兵士がこれを持っていたら、かなり恐ろしい。敵地で詳細な地形が手に入り、敵の陣形までわかってしまうのだ。

 もし敵兵がこれを持っていたら、こちらの作戦はほぼすべてが無効になる。逆も同じだ。たったこれ1つで、戦況がひっくり返る可能性がある。

 こんな物、絶対に公表できないぞ……。スマホの比じゃない。というかスマホとのコンボで国が落とせそうだ。


 まあ俺たちが持っている間は、どちらもただの便利アイテムだ。使用者制限を付けて対策しよう。ダミーの魔法陣を書き込んで、複製対策もしておく。


「俺たちだけが使うなら問題ないだろ。販売はしないよ」



 まずは俺が魔法で試す。上手くいったようなので、ルナに説明して魔法陣にしてもらった。


「少し違いますが、たぶん同じような魔道具になったと思います」


 解析はたった1日で終わった。数年? それは昔の話だよ。

 ただし、真面目に解析したわけではないので違うかもしれない。実は本当にテレビだった可能性もゼロではない。

 それに今回は、偶然にもスマホや他の魔道具に似ていたから解析が早かっただけ。全く新しい物だったら、こんなに簡単ではない。


「リーズのおかげだよ。ありがとう」


 リーズは嬉しそうに「えへへ」と笑ってしっぽを振っている。今回はリーズの勘が大活躍だ。



 人数分を確保して、みんなに配る。リリィさんには後で渡せばいいだろう。誤作動問題はこれで解決だ。

 マッピングの有効範囲はまだわからない。結界が邪魔しているので、そこで検索が止まってしまうのだ。明日は検証もしないとなあ。

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