表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
77/317

反省だけならサルでもできる

 ゴブリンの駆除が終わったので、剥ぎ取りを開始する。と言っても耳を切り取るだけだ。そんなに手間は掛からない。

 助けた冒険者に任せ、焼却処分の準備をしよう。森の中だから、火力を失敗したら大惨事だ。


「悪いけどお前らも手伝ってくれ。耳を切り落とすだけでいい」


「いや、その前にあらためて礼を言わせてほしい。

 俺はDランク冒険者のサヒルだ。パーティ名はまだ無い。主に薬草の採取をしている」


 Dランクは高いランクではない。ギリギリ初心者脱出程度のランクだ。ちなみに俺たちはクレアを除いてEランク。バリバリの初心者だ。

 クレアから聞いた話だと、薬草採取をメインに活動している冒険者はあまり強くないそうだ。その割には、森の奥まで来すぎている気がする。

 今回の緊急指名依頼は高ランク冒険者が対象になっていたはず。Dランクの、しかも戦闘パーティではない彼らに任せるのは、荷が重すぎるのではないだろうか。


「お前らにこの場所はキツかっただろ?」


「そうだな……いつもの採取地に先客が居たんだ。それも普段は居ないような高ランク冒険者だ。

 そいつらを避けて歩いていたら、思ったよりも奥まで来てしまっていた」


 緊急指名依頼は複数パーティに出されている。そのため、今日の森はいつもよりも混み合っているのだ。浅い場所の薬草の採取地はそれほど多くない。こいつらは採取地を探して歩いていたようだ。


「ちょっと待って。あんたたち、ギルドの依頼で来てるのよね?」


 クレアが焦ったような表情で言う。


「依頼?

 いつもの採取依頼だ。何か問題があるのか?」


 あ……今日の採取はいつもの採取ではない。クレアはよく気が付いたな。俺は気が付かなかった。


「お前ら、森が立入禁止になっているということは知っているよな?」


 俺がそう聞くが、サヒルたちはキョトンとした顔をしている。

 演技っぽい感じはしない。本当に知らなかったようだ。ギルドの通達はどうなっているのだろうか。


「どういうことだ?」


「今、この森は危険なんだ。安全が確認できるまで、この森は立入禁止になっている。

 今日森の中にいる冒険者は、ギルドから緊急指名依頼を受けた冒険者だけだ」


 サヒルたちは愕然としている。顔色も真っ青だ。ギルドから何か罰則があるのかもしれない。


「なるほど……。教えてくれてありがとう。我々は最近、街に入っていなかったのだ。ずっと移動していた。

 王都に戻る前のひと稼ぎと思っていたのだが、すぐに戻るべきだったな……」


 怯えるような声で言う。


「そうね。すぐに戻ったほうがいいわよ。

 その辺に居る冒険者に護衛を頼むといいわ」


「そうするよ。で……このことなんだが、ギルドには黙っておいてくれないか?」


 立入禁止を無視したことを隠しておきたいらしい。結構重い罰則が待ち構えているようだ。でもこれは返事に困るな。

 調査を依頼されている身としては、報告しなければならない。


「無理に決まってるでしょ!

 そんなことしたらアタシたちも罰を受けるじゃない。くだらないことを言うなら、もう行くわ。

 コー、行くわよ」


 行くって言われても、まだポーション代を貰っていないし、ゴブリンの剥ぎ取りも終わっていない。もったいないじゃないか。


「なあ、どんな罰を受けることになるんだ?」


「最低でも30日間の資格停止と買い取り拒否ね。場合によっては降格や除名もあり得るわ。

 あんたたちはEランクなんだから、危ないの。実績が少ないから簡単に切られるわよ」


「あんたらはEランクなのか?

 Eランクがなんで指導係をやっているんだ?」


「指導係はアタシよ。アタシはCランクなの。この人たちがおかしいの。

 今回もギルドから指名依頼を受けたのは彼だから」


「あんたがCランク? なんで……」


「だから! この人がオカシイの!

 兵士の隊長さんより強いんだから!」


 クレアが必死で抗議するが、俺は決しておかしくないぞ。

 ……俺の魔法は少しおかしいらしいな。この世界での強さなんて、魔法の使い方次第だ。身体強化も魔法の1つなんだ。魔法を上手く使える奴が勝つ。


「兵士の隊長より……強いだと……?」


「俺のほうが強いかは知らないが、模擬戦なら負ける気がしないな。

 でも、本気の実戦なら、どうなるかわからないぞ」


 剣の技量だけなら、グラッド教官のほうが圧倒的に上だ。教官以上の速度と力でゴリ押ししているだけに過ぎない。

 経験が力の差を覆すことは、よくあることだ。あの教官なら奥の手の1つや2つは持っているだろう。


「話を逸らさないで!

 ギルドには報告しておくから。隠そうとしたことも合わせてね!」


 クレアが怖い顔でサヒルを睨みつけて言う。


「待ってくれ!

 本当に知らなかったんだ。すぐに森から出る」


 たぶん嘘ではない。相当焦っているようだし、少しだけ手助けをしてやろうか。

 でも罰が無くなるかはこいつら次第だ。



「その辺に高ランク冒険者がたくさんいるだろ? 訳を話してそいつらに協力しろ。無料でだ。

 採取には人数が要るから、嫌とは言わないだろう。で、一時的にパーティに入れてもらったことにするんだ。

 そうすれば違反したことにはならないはずだ。それが無理なら、諦めて罰を受けろ」


 本当は入った時点で違反なんだけどね。そこは気にしない。森から出た時に違反者じゃなくなっていれば問題無いはずだ。


「……あんた、変な所に気が付くわね。確かにそれなら見逃してもらえると思うわ」


「助かる! 試してみるよ。今日採取した薬草も、全部渡す。できればあんたらと一緒に行きたいんだが、ダメか?」


「それは無理だ。薬草採取の依頼も受けているが、俺たちの本来の仕事はこの森の調査だ。部外者を連れていくわけにはいかない。

 それから、お前らのことは俺から報告をする。それまでにギルドに釈明しておけよ」


「そうか……何から何までありがとう。高ランク冒険者を探すよ」


「その前に、ポーション2本分の代金と剥ぎ取りの手伝いを頼む」


 忘れてはいけない。そのために引き止めたんだ。


「そうだったな。いくら払えばいい?」


 普段なら大銀貨5枚だ。今は高騰していて、金貨1枚くらいだろう。

 でも、こいつらはそのことを知らないみたいだから、ぼったくっているように思われそうだ。価格設定が難しいな。


「1本金貨1枚、2本で金貨2枚よ。それが今の価格。

 嘘だと思うなら、王都で確認してみなさい」


 俺が迷っているうちに、クレアが話を進めてしまった。この金額で納得してもらえるのかな。


「そうか……緊急時だったからな。仕方がない、払おう」


 サヒルは納得していないようだが、支払いを了承した。

 命が懸かっていたんだから、多少ぼったくられるのは当然だと思っているようだ。本当に今の相場なんだけどなあ。



 サヒルは、マジックバッグの中をゴソゴソと漁りながら言う。


「すまない、手持ちが少ないのだ。代わりに物で支払いさせてもらえないだろうか……」


 サヒルは貧乏なのか? ……いや、壊れた防具を買い換えるための金が必要なのかもしれない。

 彼らの鎧はボッコボコなんだ。あちこちが外れていて、修理ができそうにない。それで金を巻き上げるのは酷だな。


「見せてくれ。何を持っている?」


 サヒルたちが持っているマジックバッグは一つだけ。パーティ全員で共有しているようだ。買うと高いからしょうがない。

 1人1つずつ持っている俺たちが異常なんだ。


 サヒルは、マジックバッグから魔道具らしき物をいくつか取り出して並べた。

 発信器や警報など、どれも冒険者なら誰でも持っているような有名な魔道具だ。欲しいと思えるような物がない。

 どれも俺たちで作れる。なんだったら俺たちが作る物の方が高品質だ。


 俺が難しい顔をしていると、サヒルはさらに何かを取り出した。

 よくわからないガラクタのような物だ。土がついていたり、ボロボロになったりしたランプや石板、判別不能な物も多い。

 どこかの遺跡で拾ってきたのだろうか。


「これ!

 コーさん、これです! これを貰いましょう!」


 突然、ルナが興奮して叫んだ。ガラクタの中から琴線に触れるものを発見したらしい。

 ルナが手に取ったものは、A4くらいの大きさの、ボロボロになった金属板だった。

 元は魔道具だと思うのだが、すでに機能を停止していて、俺には何の道具なのか判別できない。俺は魔道具に流れる魔力から用途を推測しているのだ。壊れていてはどうにもならない。


「こんな物でいいのか……?

 自分で言うのもなんだが、ゴミだぞ?」


 ゴミだな、俺から見ても。ただの鉄クズにしか見えない。一部は銀でできているようだから、地金価値は結構あると思う。

 金貨2枚分の銀が取れるかは……無理っぽいな。


 しかしルナが反応したんだ。なにか訳アリの魔道具なのだろう。たぶんエルフ関係だ。


「ああ、それでいいぞ。貰っていくよ」


「すまない。本当に助かる」


「あの……サヒルさん、これはどこで?」


 ルナがサヒルに聞く。

 落ちていた場所を調べれば、他にも何か落ちているかもしれない。

 もしかしたら遺跡も見つかるかもしれない。


「ミルジア王国の東にある森だよ。川の底に沈んでいた。

 銀が使われているみたいだったから拾ってきたんだ」


 彼らは国外に居たらしい。それなら立入禁止のことを知らないのも無理ないな。

 でも結構遠いはずなのだが……ずっとキャンプしていたのか。羨ましい。


「ミルジア王国に行っていたんだな」


「いや、ミルジアに立ち寄ってから、ガザルに行っていた。ガザル東のエウラという地方だ」


「エウラ!

 あんたたち、エウラに行っていたの?」


 今度はクレアが興奮して叫ぶ。


「何かあるのか?」


「世界一のポーションの街よ。薬師の頂点なんだから!

 アタシもいつか行きたいの」


 クレアは薬師を目指している。だから薬草やポーションの情報には敏感だ。

 サヒルたちも薬草採取をしている冒険者だ。薬草の勉強をしに行っていたのだろう。


「ここからだと、かなり遠いだろう。それまで街に立ち寄らなかったのか?」


「アレンシアに入ってすぐに一度立ち寄ったが、それからはずっと移動していた。

 この国は水と食料が豊富だからな。街に入らなくても困らない」


 他所の国は知らないが、この国は一歩外に出れば食料だらけだ。近くには大きな川が流れ、野草も豊富。肉が欲しければうさぎを狩ればいい。

 街に入ると金が必要だから、一気に進むつもりなら街を避けるのもアリだな。


「男パーティの特権ね。

 でも今日みたいなことになるから、たまには街に入ってギルドに顔を出しなさい」


「そうだな……。次から気を付けるよ」


 本当に反省しているかは知らないが、俺から言えることは無い。ゴブリンの剥ぎ取りを手伝ってもらい、死体を一箇所にまとめた。

 あとは焼くだけだ。耐熱の魔法を起動して準備をした。温度は……限界に挑戦してみようかな。今日は元気が余っている。張り切って焼こう。


「コーさん……焼却は私がやります。

 休んでいてください」


 ルナがニッコリと微笑んで言う。顔は笑っているのだが、目が笑っていない。

 そんなにゴブリンを焼きたいのか。しょうがないなあ。今日はルナに任せよう。


 あとは焼け跡から魔石を拾うだけだ。サヒルたちにはもう用がないので、これでお別れだ。サヒルたちは、礼を言って去っていった。


 気になるのは例の魔道具らしきゴミだ。用途不明なエルフの魔道具は、解析に膨大な時間が掛かる。エルフの長老に聞けば何か分かるかもしれないなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ