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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第五章 異世界遺跡探訪
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ボッコボコ

 ゴブリンらしき目標に向けてひた走る。少し移動した所で目標が確認できた。気配察知では20匹分の『警戒』反応だ。

 クレア1人で対応するには少しキツイか。少し間引いてから対応させれば問題ないだろう。走りながらアンチマテリアルライフルを準備する。


 視認できる距離まで近付いたところで、リーズが立ち止まった。


「こんさん、ゴメン!

 人がいたよ!」


 リーズの言葉に俺も目を凝らして確認すると、5人の冒険者パーティが10匹を超えるゴブリンに囲まれて苦戦しているようだった。

 また気配察知の誤作動だ。戦闘中だったために人間の反応が『警戒』になったのだ。この誤作動はいずれ改善したいと思いながら、なかなか手がつけられない。


 少し近付いて5人を見る。全員が男だ。そのうちの2人はすでに戦闘不能になっていて、その場で蹲っていた。極端に軽装なので非戦闘員なのかもしれない。

 彼らも薬草採取のために森に入ったはずだ。薬草に詳しい非戦闘員を連れてきていたのだろう。

 彼らを囲んでいるのは、量産型のゴブリンだ。大きさは1メートル強くらい。筋肉質でグロテスクな見た目をしている。中には武器を持っている個体もいるのだが、これは他と比べると少しだけ頭が良い。


 いくら非戦闘員を抱えて囲まれているとは言え、プロの冒険者があの程度のゴブリンに後れを取るとは思えない。

 余計な手出しをして彼らのプライドを傷つけるよりも、さっさとこの場を離れたほうが良さそうだ。でも一言挨拶したほうがいいのかな。無言で去るのは良くない気がする。

 こういう時の対処は、冒険者の先輩であるクレアに聞こう。


「クレア、この場合はどうするんだ?

 やっぱり挨拶をしてから離脱した方がいいよな?」


「そんなわけ無いでしょ! 助けなきゃ!」


 あれ? 手を出してもいいんだ。


「獲物を横取りして怒られないか?」


「あれのどこをどう見たら狩りに見えるのよ! 襲われてるの!」


 ああ、あれは襲われているのか……冒険者なのに。もしかしたら接近戦が苦手な冒険者なのかもしれない。

 戦闘中の3人は、いかにも動きにくそうな鉄の鎧を着ている。武器はよくある片手剣だ。左手には小さな盾を持っている。

 見た目は前衛っぽいけど、敵の攻撃を耐える盾役なのだろう。近接のアタッカーが不在というのは不安定だが、採取のみの任務ならそれもアリか。


 俺は今アンチマテリアルライフルの射出に向けて、鉄の弾丸を宙に浮かべている。誤射が怖いので、弾丸を霧散させた。

 この魔法は、地球のアンチマテリアルライフルをイメージして作った。かつて対戦車ライフルとして使われていた銃だ。この世界のショボい鉄の鎧など簡単に貫通する。人が近くにいる時は、危険すぎて使えないのだ。


「じゃあ俺が数匹間引くから、クレアも戦闘よろしく。ルナとリーズは周囲の警戒をしてくれ」


 みんなに声を掛けると、それぞれ武器を取り出して構えた。


 クレアはマクハエラ(偽)を構えて俺に続く。

 いずれ本物のマクハエラが欲しい。エルフが昔使っていた、伝説の武器だそうだ。特殊な効果があったみたいなので、たぶん魔道具だ。

 どうやって武器にエンチャントしたのかが気になる。現物が見たい。



 俺はマジックバッグからマチェットを取り出してゴブリンに突進した。もしかしたら余計なお世話かもしれないから、冒険者たちにも声を掛ける。


「お疲れ様。助けは要るか?」


「ああ! 頼む!」


 冒険者のリーダーらしき男が焦燥した様子で言う。想像以上に緊迫した状態だったようだ。

 鉄の鎧はボコボコに凹まされ、一部の部品が剥がれている。蹲っている2人は怪我は無いようだが、自力で動くとこはできそうにない。たぶん魔力切れの状態だ。


 この2人には後でポーションを渡すとして、とりあえずゴブリンを間引こう。武器を持たない雑魚では訓練にならないので、俺が駆除する。

 武器持ちゴブリンはクレアの方向に蹴り飛ばした。武器とは言ってもただの棍棒だ。殴られ続ければ危険だが、数発くらいなら痛いだけだ。

 武器持ちは4匹、武器なしは11匹だった。11匹は俺が首を落とした。


 武器持ちゴブリンを蹴り飛ばした方向を見ると、クレアに襲いかかっていた。蹴ったのは俺だが、クレアを襲う。これはゴブリンの習性で、近くにいる弱そうな奴に襲いかかるのだ。


 クレアは相変わらず苦戦していた。1対1なら問題ないようだが、同時に攻撃されると対処が遅れるのだ。1匹の攻撃を捌いているうちに、違うゴブリンから殴られる。その繰り返しだ。

 あっという間に革鎧がボロボロになった。でもまだ決定的な一撃を貰っていないので、訓練は継続する。


「おい、彼女は助けなくていいのか?」


 ボロボロの冒険者が心配そうに言う。


「今、訓練中なんだ。俺が手を出したら訓練にならない」


「指導中か……。ずいぶん厳しい教官だな」


「本人の希望でもあるからな。あの程度のゴブリンなら問題無い」


「耳が痛いよ。俺たちはあのゴブリンを相手に全滅寸前だった」


 この冒険者たちはボッコボコにやられていた。鎧もボコボコだし、精神的にもボコボコにされていたことだろう。

 ゴブリンは雑魚だ。一般の認識でも雑魚扱いされている。だからといって油断してもいいというわけではない。武器を持たない一般人がゴブリンと出会ったら、負けるのは人間だ。

 武器と魔法で戦えるからこそ、ゴブリンが雑魚になる。それらを封じられてしまえば、冒険者や兵士でも負ける可能性がある。


「まあ状況の問題もあるから、しょうがないんじゃないか?

 とりあえずポーションを渡しておく。使ってくれ」


 冒険者にポーションを2本渡した。

 俺たちはこのポーションを、魔力の回復をするために使っているのだが、怪我人に直接使うこともできる。怪我した部分に掛けたり、飲んだりすることで傷を治すのだ。

 ただし、怪我人に直接使うと燃費が悪い。治癒魔法で傷を癒やし、消費した魔力をポーションで補うと、治りが早いうえにポーションが無駄にならない。

 見た所、倒れた2人は魔力切れだ。ポーションを飲めばすぐに動けるようになるだろう。


「ありがたい。喜んで使わせてもらうよ。金は後で払う」


 俺達も豊富に持っているわけではない。つい先日、大量に売却したばかりだ。しかしその後も作成しているので、多少の余裕がある。2本くらいなら問題ない。


「ポーションの材料を採りに来てポーションが必要になるとは、災難だったな」


「まったくだ。採取の途中で襲われたんだよ。

 手持ちのポーションは使い果たしてしまったし、大赤字だ」


 冒険者がうんざりした顔で呟く。冒険者にとって怪我は付き物だ。普通は何本かのポーションを常備しておくものだが、彼らは使い切ってしまったようだ。

 おおよその計算だが、薬草を100株採取すればポーション1本分の稼ぎになる。それまでにポーションを消費してしまうと赤字だ。

 もしゴブリンに襲われたのなら、10匹討伐すれば回収できる。その時にポーションを消費してしまうと……目も当てられない。



 倒れた冒険者にポーションを渡していると、クレアの方もなんとか戦闘終了したようだ。剣を鞘に収めてこちらに駆け寄る。

 それなりにキツかったようで、あちこちから血を流している。治癒魔法が必要だな。


「どうだった?」


 クレアに治癒魔法を掛けながら聞いた。


「ありがと……やっぱり複数同時だとキツいわ。

 どうしていつもこうなのよ。1匹ずつ送ってくれれば怪我しないのにぃ!」


 クレアが頬を膨らまして言う。


「1対1だと楽勝すぎるんだ。訓練にならないだろう」


 クレアの弱点は、複数から同時に攻撃を受けること。1対1の時はそこそこ良い動きをしていると思うのだが、敵が複数になると急に動きが悪くなる。たぶん周りを気にしすぎなんだ。


「それはそうだけど……」


「おいおい、あれだけ動ければ十分じゃないのか?

 お前は彼女をどうしたいんだよ」


 冒険者が驚いた顔で言う。

 どこが十分なんだよ。いくら何でも理想が低すぎるだろう。

 ゴブリンくらいならダース(12匹セット)で襲われても瞬殺できるレベルじゃないとダメだ。ゴブリン工場の出荷ロットは、1回100匹以上なんだ。理想はグロス(144匹セット)で襲ってきても瞬殺できるレベルだ。


「あんたたちこそ、もう少し鍛えたほうがいいわよ。あんたたちはここまで来るには早いわ」


 クレアがキツめに言うと、冒険者たちはしゅんと肩を落として黙った。

 でもそれは俺も同感だな。あの程度のゴブリン集団に手こずるようでは、森の奥では危険だ。


「パーティのバランスが悪いんじゃないのか?

 そんなクソ重い鎧を着たら、動きが悪くなるのは当然なんだ。軽装で近接攻撃ができるアタッカーが必要だろう」


「言っておくけど、あんたもおかしいからね?

 冒険者なら鎧を着るの。男の人は力があるから、鉄の鎧を着るのよ」


 クレアが困った顔で言う。

 そう言われても、冒険者ギルドで見かける連中はみんな軽装だった。着ていたとしても革鎧だ。中には普通の布の服を着ているやつも居るくらいだ。鉄の鎧を着た冒険者なんて、たまにしか見なかったぞ。


「冒険者ギルドに鉄の鎧を着た奴なんて、多くは居なかっただろ」


「街の中で鎧を着て歩く人なんて居ないわよ!

 マジックバッグを持っている人は、門のあたりで脱着するの。革鎧は軽いから、街の中でも着ている人は多いでしょ?」


 なるほど。街の中でガッチャガッチャ言わせて歩いていたら、かなり変な人だな。そんな奴は兵士だけで十分だ。

 クレアを除いて、俺達は普通の服のようなデザインの防具を着ている。魔物素材が使われている魔道具のような服で、丈夫で高機能だ。衝撃を吸収することはできないが、熱や斬撃にはとても強い。

 ルナの服は、オーガの革でできたジャケットとロングスカート。リーズの服は、蜘蛛の糸でできたチャイナドレスのようなワンピースだ。2人ともよく似合っている。

 クレアもパンツスーツっぽい見た目のジャケットとパンツを買っているのだが、着ているところを見たことがない。せっかく買ったのに、もったいない。


 完全に見た目重視で選んでいるが、防具としても十分な性能を持っている。むしろ鉄の鎧を着て戦うことの方が違和感がある。

 俺も早朝訓練の時に着ていたが、邪魔でしか無かった。訓練のためのウェイト(重り)だと思って、ずっと我慢していたのだ。訓練でもないのにあんな物を着込むとか、何の拷問だよ。


「何度も言っているが、鉄の鎧は無駄だ。

 そのくせ敵の攻撃を防いではくれない。ボアに突進されれば凹み、剣で打たれれば割れる。動きを阻害するだけだ」


 ただし、対人戦を想定した兵士なら、十分に有用だと思う。突きに強いから、槍に対してはかなり有効な防具だ。大剣で打たれなければ割れない。



「言いたいことはわかるけど……言い過ぎよ」


 クレアは寂しそうな顔で言う。クレアも鎧派だからなあ。

 でもクレアが着ている革鎧なら問題無い。軽いし、動きを阻害されるわけではない。デザインの問題だな。あまりカッコ良くないんだ。それに、手入れ用の油が臭い。だから俺は、好んで着たいとは思えない。


「鎧以外の選択肢もあると言いたいんだよ。なぜかみんな同じ格好をしたがっているからな」


 どうも冒険者は揃って兵士の真似をしているような気がするんだ。戦う相手が違うんだから、装備は違って当然なのに。

 みんな兵士のような大剣か片手剣を持っている。

 クレアの叔父であるレイモンド(髭のおっさん)くらいの体格と力があれば、大剣を使いこなせるだろうが、普通の冒険者では無理だ。両刃の片手剣は、扱いが難しいから相当な修行が必要だ。


 もっと他に何かあるだろう。


 俺は、魔物というか凶暴な野生動物と戦うことを前提に武器や防具を選んでいる。

 結果的に素敵なマニアック武器を選んでいるわけだが、ちゃんと実用面も考慮しているのだ。


「新人の時にそう指導されるのよ。みんなその時の指導係と同じような装備を選ぶわ」


 指導係システムの弊害だったのか……。あのシステムは悪くないと思う。いろいろと面倒だが、助かっているのも事実だ。となると、ギルドが武器の使い方を教える必要があるな。

 武器屋のおっさんは、やたらと武器に詳しかった。あんなおっさんが教えに来てくれれば、装備の幅が広がるだろう。



 雑談をしているうちに、ルナとリーズが駆け寄ってきた。


「お疲れ様です。終わったみたいですね」


「ああ。警戒してくれてありがとう」


 周囲の安全を確認していた2人が来たということは、今回のゴブリンはこれで打ち止めだ。残念。もう少し……あと200匹くらい出てきてくれれば満足だったのだが。


 俺たちは警戒を解いた。これから面倒な剥ぎ取り作業が残っている。大した報酬にならないのだが、捨てていくのはもったいない。助けた冒険者にも手伝ってもらおう。

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[気になる点] 移動時の隊列なんかに地元冒険者の知らない地球式の方が優れている常識だなどとご高説を垂れている割にあからさまに襲われて危機に陥ってる他のパーティを助けるどころか横取りしたら迷惑なのではな…
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