もし魔法が使えるのなら使ってみたいと思うよね
次の日、鐘の音で目を覚ます。相当疲れていたらしく、かなり早い時間に寝てしまったようだ。
食堂に向かう廊下で、今日もギルバートが徘徊していた。
「よう、具合はどうだ?」
「おかげさまで、ひどい有様だった。
宮廷魔導士さんが魔法で治癒してくれなければ、今頃寝込んでいたところだ」
「ハハハ。そうだろう。グラッド部隊長があれだけご機嫌だったのは久しぶりだ」
相変わらずアメリカンな笑い声だ。
「せっかく忠告してくれたのに、役に立たなかったな」
「おまえがあれだけ動けるとは思わなかったぞ。
もともと兵士でもやっていたのか?」
「いや。そうじゃない。たまたま自主訓練していた内容が良かっただけだ」
暇つぶしの瞑想がこれだけ役に立つとは思わなかった。
「そうか。その訓練法、おれにも教えてほしいな」
「いや、相当暇じゃないとできないから。無理だな」
「そうか……。残念だな。
ところで、三日後なんだが。早朝訓練に出てみないか?」
昨日無理だって言ったばっかりじゃないか。何を言っているんだコイツは。
「俺にはまだ早いだろう。昨日もそう言ってたじゃないか」
「あれだけ動ければ問題ない。おまえなら楽勝で参加できるぜ」
無茶言うなぁ。
「って、グラッド部隊長が言っていた。だから強制参加だ。喜べ」
むーりー。逃げられないやつだ。よりによってヤバイ人に目をつけられたもんだ。
治癒魔法、予約しておこう……。
「なあ、新人兵士は皆こんなキツイ訓練を受けているのか?」
この国の兵士のハードルは高すぎると思うの。
「ハハハ。そんなわけ無いだろう。そんなことしたら新人兵士は皆逃げていくぜ」
だよねー。
「じゃあ何で俺はこんなにキツイんだよ」
「普段、新人というか訓練兵は剣術は素振りしかしない。あとは、基本教練で行進と敬礼の訓練ばかりだな。
それ以外は走ったり穴を掘ったり体力トレーニングをしたり。おまえ、それやりたいか?」
「あ、俺、兵士になるつもり無いんで」
真顔で返す。集団行動苦手なんだよな。
どうせ教官に「敬礼の角度が1°ズレている」とか「気を付けの姿勢が悪い」とか、理不尽な難癖つけられて腕立てやランニングのペナルティを受けるんだろう。
「だろうな。本来なら基本教練で合格したら、教官が素振りを見て、問題無さそうなら武術訓練を受けることになる。
おまえは訓練のみ参加ということで、基本教練が無しになっただけだ」
「俺は恵まれているよ……」
食堂に着いたので、ギルバートとわかれ、中に入る。
すでにリア充が座っていたので、善の隣に座った。
二人とも制服からこの世界の服に着替えている。カジュアルな装いだが、上等な布を使ったきれいな服だ。
たぶん動きにくいな。特に一条さんの服はタイト過ぎて走るのも辛そうだ。
「おはよう。元気か?」
二人の顔色は普段に戻っている。やつれている気がするが、ちゃんと食っているのか?
「おはよう。コーは元気そうだね」
「お前ら、ちゃんと食ってないだろ。
同じものばかりだが味は悪くないんだから食えよ」
「これが……。悪くないのか?」
あれ? お気に召さない? キャンプの時の食事より何倍もうまいぞ。
確かに家や店で食う食事と比べると不味いけどな。
「ふふ。食べられなくはないよね」
一条さんが笑いながら答える。久しぶりに声を聞いた気がするな。
「食える時に食えるものがあるなら文句を言わず食う。キャンプの鉄則だ」
たとえ虫でもな。
「前から思っていたんだけど、コーくんのキャンプってキャンプじゃないよね?」
あれー? おかしいな。野宿しながら食べられるものを探し、毒がなければ食べる。
それがキャンプじゃないのか?
「そうだね。コーのキャンプは、たぶんサバイバルだ」
「サバイバルって、ナイフ一本で雪山に籠もるとか無人島に籠もるとかだろ。
俺はちゃんと食器を持っていくし、調味料も持っていく。場合によってはテントも持参するぞ」
塩と飯盒があればキャンプだ。テントがあれば豪華なキャンプだ。
「コーくんのサバイバルのハードル、高すぎるよ……」
「ところで、コーは昨日、あの後何してたんだ? 全然見かけなかったんだけど」
「そう言えば会わなかったな。図書館に行ってから、訓練に参加していた」
「え? もう行ったの? どうだった?」
「ああ。酷いもんだった。死ぬかと思った」
一発当たれば即死☆
「うわ……。そんなにキツイのか」
「ちょっとヤバイ人に気に入られてね。お前らは基本教練から参加したほうがいいかもな」
こいつらならたぶん集団行動、得意だろう。基礎体力が付くから本当ならやっておいた方が良い。俺は嫌だが。
「コーは違うのかい?」
「そうだな。鉄の剣を持って殴り合いをしてきた。刃は付いていないから安全だぞ」
死なないとは言っていない。
「え……無理」
でしょうね。女の子にはかなりキツイと思う。俺も素振りと見学だけのつもりだったし。
「行進と敬礼と筋トレだけの訓練と、鉄の剣で殴り合い、どっちがいい?」
「殴り合いはやだ……」
「じゃあ基本教練だな。どっちも訓練だから、王様も否は無いだろう」
戦闘訓練じゃないから、修業にはならないだろうが。メインは魔法なんだから問題ないか。
「一応言っておくが、俺は三日後からたまに早朝訓練に参加するから、ここには来ない日もあるぞ」
「そうなの?」
「え? 朝から殴り合い?」
「いや、それは午後の訓練。朝は山の頂上で朝食を食べるだけのハイキングだ」
命がけの。
「えー。いいな。あたしも参加したい」
「死にたくなければやめておいたほうがいいぞ」
「え? ハイキングだろ?」
「ただのハイキングなわけないだろ……」
参加するなら遺書が必要だ。心底嫌な顔で答えた。
二人の気の毒そうな視線が刺さる。……逝って参ります。
「ところで、今日は魔法を教えてもらえるそうだけど、コーは来るのかい?」
例によって聞いてません。あいつマジでうざいな。
報連相もまともにできないとか、上司は何をしているんだ。
「魔法か。ぜひ参加したいな。昨日本で少し勉強したが、いまいちよくわからない」
「じゃあ、食事が終わったら行こうか」
「おお。悪いけど、場所がわからないから連れていってくれ」
「了解」
二人とも普通に会話できるくらいには回復したようだ。魔法が楽しみなのかな?
食事が終わり、調理場のおばさんに数個のパンを貰って食堂を出た。
二人の案内で到着したのは、剣術の訓練で使用する広場だった。
兵士の訓練は午後からだから、午前は魔導士が使うんだろう。
「おや、張り切っているね」
声を掛けてきたのは、ローブ姿のお姉さん。Π乙カイデーでございます。
20代くらい? ずいぶんと美人さんだな。顔よりも胸に目が行ってしまうが。
「キミの指輪、調子はどうだい?」
翻訳用のレプリカの指輪のことだな。
「どうやら不具合で片言に聞こえているようですが、概ね問題ありませんね」
「ふむ。キミの不自然な喋り方は不具合だったか。
すまないね、調整するから預かっても良いだろうか」
「いえ、本を読む時も重宝していますし、助かっていますので。必要ありません」
「そうか。でもいずれ調整する必要があるから、気が向いたら貸してくれ」
うーん、この国の宮廷魔導士は職人肌なのかな。完璧じゃない物は世に出せない的な。
まあ、いずれ返す物だからその後存分に弄ってくれ。
「せっかく集まったのだから、早速始めようか」
と、美人宮廷魔導士。
「私は君たちの教官を務める宮廷魔導士のリリィだ。
まず、魔法には属性があり、体質によって得意なものや不得意なものが出てくる。
もし使えなくても、気に病む必要は無いぞ。
呪文を詠唱し、少しでも発現できれば素質有りと思って構わない。
詠唱の精度を上げていけばいずれ上手くなる。
詳しいことは後からフィリス殿に聞けば良い。彼女は優秀な水魔法使いだ」
またか。フィリスには関わりたくないから独学安定だな。ルナに聞いてもいい。
「詠唱する呪文は、文字で書くことができない。口頭で聞いて覚えるしか無い」
そうなんだよな。本にはどういう魔法があるかは書かれていたけど、呪文は書かれていなかった。
「文字に起こす時は魔法陣や紋章の形になる。魔道具はこの技術を使って作られているのだが、
そちらが我々の専門だ。魔法陣に興味があるなら我々に聞いてほしい」
なるほど、職人だな。魔道具はおもしろそうだ。後で詳しく聞いておこう。
「詠唱する呪文は発音方法が普段の言葉と若干違う。そのせいで文字にできないのだが。
文字に表せないリズムの取り方や抑揚が重要になる。繰り返し発音することで精度が上がっていく。
望んだ威力が発現するかは魔力と練習次第だ。訓練を続ければ威力も上がっていくぞ」
威力……か。戦う前提だよな。魔法は兵器扱いなのか。生活のために魔法を使うとかの発想は無いのかな。
「リリィさん。魔法とは攻撃手段としてしか使用しないのですか?」
手を挙げて聞いてみた。
「中には生活魔法というものもあるが、基本的にはそうだな。治癒魔法か強化魔法か攻撃魔法だ」
「強化魔法というのは?」
俺の身体強化は普通と違うみたいだから少し気になる。
「主に、身体強化を付与する魔法だ。一定時間、身体機能が強化される。
普段よりも素早く動けたり、強力な一撃を打てたりする」
聞く限り、俺の身体強化と同じだな。
「オーラによる身体強化『練気法』との大きな違いは、自分以外にも付与できること、効果が切れた時の倦怠感が無いことだ。
デメリットは、魔力消費が大きいことと時間制限があることだ。魔法使いが自分に付与することはあまりないな。
身体強化をするくらいなら大魔法を撃ち込んだほうが効率が良い。逃走時によく使われる」
思いがけずオーラの情報まで得られた。グラッド教官が使っていたのは練気法ということでいいのかな。詠唱していなかったし。
「ありがとうございます」
「話を戻すが、魔法とは、基本的には攻撃手段だ。オーラ使いが前衛で戦闘している間に、後衛が魔法を撃ち込むのが主流だな。
前衛に身体強化を付与する戦術もある」
「生活に役立つ魔法は無いんですか? 例えば草刈りみたいな……」
「ふむ、それに興味があるか!」
リリィさんが目をキラキラと輝かせている。ヤバイスイッチを押してしまったぞ。
「それを研究しているのが我々宮廷魔導士なのだよ。
暗闇を照らす『魔導ランプ』、離れた場所に文字を送る『転写機』、キミが今言った草刈り機もあるぞ。
この国の魔道具はほとんどが我々や先輩方が開発した物だ。
そういえばキミは宮廷魔導士の実験服を着ているね。宮廷魔導士に興味があるのかい?
眠らずに働き続けるための『過働の指輪』なんていうのもあるぞ。ほしいか?」
ブラック企業御用達の指輪じゃないか。絶対に要らん。
「リリィさん、そろそろ……」
一条さんが申し訳なさそうに口をはさむ。
そうだよね。ブラック戦士養成ギプスの話なんか求めてないよね。
「うむ、すまない。コー君だったか。いつでも魔導院に来なさい。歓迎するよ」
リリィさんは咳払いをして話を続けた。
「しばらくは基礎訓練だ。ある程度身についたら兵士の魔法師団と共に訓練をすることになる」
なるほど。魔法使いでも戦闘員は兵士、研究者は宮廷魔導士ということか。
基礎ができていない奴が兵士に混じっても良いこと何もないからなあ。
「では、詠唱の手本を見せる。まずは、多くの人に適性がある火の属性からだ。
そこに杭が立っているだろう、そこに向けて火の玉を飛ばす」
そう言って数メートル先の杭を指差す。人の背丈ほどの長さの木の棒が、地面から突き出ている。
結構な太さがあり、剣の訓練で的にされるかわいそうな杭だ。
火の玉の的にもされるのか……。燃えるぞ?
いや、鉄の剣ですぐにボロボロになるから使い捨てだな。
「では詠唱を始める。よく聞いておけ。
■■■■■■■■■■、ファイヤーボール」
今なんて言った?
とりあえず、魔法を観察する。
リリィさんの手から出た火の玉は、真っ直ぐ杭に向かっていった。物理法則が仕事してないな。
よく見えなかったが、50cm弱くらいの火の玉が杭に当たり、火が消えた。杭は少し焦げたが、原型を残している。
マズイな。詠唱の部分が全く聞き取れなかった。
ヤバイ、たぶん指輪の不具合だ。たぶんこれを言うと指輪、問答無用で没収されるぞ。
詠唱を無視しても火の玉を出せば誤魔化し効くよな? バレないよな?
「■□■神■■■■■■、ファイヤーボール!」
善が叫んだ。早速やってみたのか。今ちょっと聞き取れたぞ。神がどうとか言っていた。
「何か出た!」
「すごい!」
リア充どもがはしゃいでいる。善の手から出た小さな火の玉は、フラフラと杭に向かって飛び、杭を焦がした。
「■■■■感謝■■■■、ファイヤーボール!」
今度は一条さんが叫ぶ。また少し聞き取れたな。感謝がどうのこうの。
神に感謝をどうのこうの言っているのか? なんか腹立つな。
一条さんの手から出た火の玉は大きかった。50cmほどの火の玉がフラフラと飛び、杭を燃やした。
結構焦げたな。あと何発か当てれば炭になりそうだ。
「素晴らしいじゃないか。君たちはやはり使徒だな。素質は十分だよ」
善がリリィさんに褒められ、デレデレしている。一条さんも嬉しそうにはしゃいでいる。
困った。身体強化の延長でなんとかならないかな。
本には、魔法はイメージとか書いてあった。『正しい詠唱と正しいイメージ』だったかな。詠唱は無視だ。
まずは瞑想。魔力が手から出てくるイメージで、火がつく物……。気体だ、水素がいいかな。
目の前に水素が集まるイメージで。詠唱は適当でいいな。
「神クソンダラボケェ! 見かけたら絶対一発撃ち込んだるからなぁ! ファイヤーボール!」
『ボンッ!』
目の前で爆発が起き、空に向かってすぐ消えた。驚いて後ろに転んでしまった。
そうだよねー水素だもんねー爆発するよねー。
危ない危ない。前髪が焦げるところだった。
「コー君、今のは……」
リリィさんが唖然とした顔で聞いてきた。リア充も唖然としている。
「ファイヤーボールです」(キリッ
「いや、見たことのない魔法だったのだが……」
「コー、今の詠唱?」
「よく聞こえなかったから、適当に」
「ずいぶん酷い詠唱だったよ?」
「火の玉が出たから問題ない」
よし。誤魔化しきれたね。これで一安心。
水素だと目の前で爆発する。危なくて使えない。
じゃあ、ブタンガスかな。カセットコンロのガスだ。圧縮して、窒素で覆えばガスボンベになるよな。
窒素に穴を空けて、小さな火を灯せばファイヤーボール(改)の完成だ。
あとは、杭に向かって投げるだけ。
……。詠唱忘れてた。
『ボウンッ!!』
小さな火の玉は、杭の手前で落ちて爆発を起こした。さっきよりもかなり大きな爆発だ。
そういえばブタンガスも爆発するよなあ。どうしよう。俺はファイヤーボールが使えない。
「今のは何だ? 何をした? 詠唱は? 何の魔法だ?」
リリィさんが矢継ぎ早に聞いてきた。
「ファイヤーボールです」(キリッ
「たぶん違うぞ」
善から冷静なツッコミが返ってきた。
「すまない、今のは何だ。説明してくれ」
「えーと、まず目の前で可燃性のガスを圧縮します。それを不燃性の気体で覆い、衝撃で破裂するようにしてですね、あとは投げるだけです」
「さっぱりわからない!」
怖い顔で俺の肩を掴み、揺すってくる。おっと、リリィさん、不機嫌か?
「今の説明、僕にもわからないよ?」
あれ? 中学校の理科だぞ。
「お前がわからないのは問題有りだろう。授業でやった内容だ」
「聞いてた魔法と違う……」
一条さんがつぶやく。
この二人も予習してたのか。
ゆっくりとリリィさんの手を離す。
「えーと、昨日、宮廷魔導士のルナさんにも言われたんですが、俺の魔法はオカシイそうです。原因は判りません」
言い終わると、リリィさんはまた両手で肩を掴んで揺すってきた。
「そんなことはいい。キミの魔法について詳しく知りたい。
今日これから、魔導院、宮廷魔導士の研究室に来てくれ」
悪くないかな。今日の訓練はグラッド教官じゃないから参加は任意だ。聞きたいこともあるし、お言葉に甘えよう。
「わかりましたので、手を離していただけますか?」
「す、すまない……」
そう言うと、顔を赤くして手を離した。
「では行こうか」
いやいやいや、今訓練中! ここで中座したら二人に恨まれるわ。
「まだ訓練中ですよ? 終わってからです」
「そうだったな……。では続きを行う」
訓練は続くが、相変わらず詠唱が聞き取れない。
でも詠唱無しで発動することがわかったので、詠唱を無視して訓練を続ける。隅っこで……。一人で……。
たぶん集中できないからこちらを見ないようにしているんだろうけど、無視されているみたいでとても気まずい。
こちらも無視して検証を続けた結果、ある程度のことが判明した。
ファイヤーボールは、可燃性の何かが燃えているわけではなく、炎という現象を発生させているだけだ。
これに気がついたら後は簡単だった。
送り込む魔力を増やしてやればいくらでもでかくなる。温度も自在だ。
温度はどこまで上がるのかを実験していたら、訓練場の土がガラス化してしまった。さすがにヤバイので実験中止。
リア充が水の魔法を練習していたので、俺も練習してみる。
魔力で作ったH2Oは、数分で消滅してしまった。さっきの可燃性ガスも似たようなものだろう。魔力で発生させた物は時間経過で消える。
試しに何が作れるかを検証したら、砂金が作れてしまった。リアル錬金術だ。魔力をごっそり持っていかれたので検証中止。
カリウムくらいなら大した負担にならないんだけどな。消費魔力は質量数で変わるみたいだ。
死ぬ気で金を発生させても数分で消える。悪いことにしか使えないわ。
周囲の温度を下げ、水蒸気を集める作戦は上手くいった。バケツ一杯分ほどの水を空中に溜めて解除すると、重力のままに落下して地面を濡らした。
この方法なら消滅しない。大量に発生させることはできないが、キャンプ時の非常用の飲料水として重宝するな。
リア充はウインドカッターなる魔法を習ったようだが……。真空刃なのか? 真空に何かを切るような力は無いぞ。
いや、ありえないほどの圧力差を掛ければ……。
それよりもケイ素で作った極薄の刃を風に乗せて飛ばしたほうが効率がいいな。
試してみた結果、訓練場の草刈りが捗った。
硬いものには歯が立たず、石にあたってすぐ消えた。完全に草刈り専用魔法だ。
ストーンバレットとかいう魔法も習っている。
あいつら何気に優秀だな。習った魔法全部使えているぞ。リリィさんはできなくても仕方ないとか言っていたのにな。
というわけで試してみよう。石を発生させて飛ばすだけだな。何の石だろう? その辺によくある砂岩かな。
それだったら石拾って飛ばしたほうが効率良くない? せっかく発生させるんだから、硬い石の方が良いだろう。
炭素でダイヤモンド……はダメだ。衝撃に弱い。当たった瞬間粉々になる弾丸では役に立たない。
同じ理由でケイ素もダメだな。水晶も衝撃には弱い。素直に鉄で形成したほうが良い。鉛では負担が大きいからな。
撃ち出しは止めておこう。さすがに危ない。
一通りの訓練が終わったようだ。リア充はピンピンしている。やはり優秀なのだろう。
俺は調子に乗ってやりすぎた。疲労感が半端じゃない。これから魔導院だが、おとなしく話をするだけにしよう。