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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第四章 王都の裏側編
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販売計画

 神官の2人を追い返し、部屋に戻った。万が一に備えてクレアも俺の部屋で待機している。結局取り越し苦労だったんだけどね。


「ただいま」


 ドアを開けて部屋に入ると、臨戦態勢のリーズとクレアが出迎えてくれた。


「おかえりー」


「もう、びっくりさせないでよ。ノックくらいして!」


 リーズは気配察知で俺たちの存在に気が付いていたのだが、気配察知を使えないクレアは突然入ってきた俺たちに驚いて身を強張らせた。クレアは反応が新鮮でなかなか面白いな。


「悪かった。危険なことは無かったよ。教会の人間が謝罪をしに来ただけだった」


「教会? じゃあもう揉め事は解決したのね?」


 クレアが笑顔で言うと、ルナがすぐに返事をした。


「いえ、その件とは別です。以前コーさんにずいぶんと無礼を働いていた方々が、今更謝りたいと言ってきただけですよ」


 言葉の棘が痛い。確実に俺よりもルナの方が教会のことを嫌っているな。普段はそんな様子を見せないけど、今日のルナはすごい。


「コーに無礼を……。その人たちは生きてる?」


 クレアがニヤニヤしながら言う。

 いつの間にかクレアもこういう冗談を言うようになったのだ。


「失礼な。ちゃんと生きているよ。平和に会話だけで解決してきたぞ」


「平和に……ねぇ」


「ついでに新しい情報も手に入った。教会の連中はクーデターを起こす気らしい」


「全然平和じゃないじゃない!」


 クレアが顔色を変えて叫ぶ。

 でも俺はたぶんこのクーデターは失敗に終わると思っている。王城は警戒しているし、何よりも民衆が望んでいないからだ。国民の支持が得られない革命は、たとえチェ・ゲバラが指導していたとしても成就しないだろう。

 しかし多少の混乱は避けられないから面倒だ。


「騒動が始まったら他国に避難するからよろしく」


「助けないんだ?」


「頼まれれば手助けするよ。でも今は王に手を出すなって言われているからな。この国に居たら絶対手を出しちゃうだろ?」


 言い訳臭いけど事実だ。手を出してもいいのなら、今すぐ教会を丸焼きにするよ。首謀者の逮捕はできないだろうが、クーデターどころではなくなるから結果的に解決だ。

 そして、騒動のさなかにこの国をうろついていたら確実に巻き込まれる。未だに俺を付け狙っているらしいからな。いい加減イラッとして教会を燃やしてしまうかもしれない。だから俺はこの国から出たほうがいいんだ。


「そ……そうね。他国に行った方が安全だわ」


「ねぇ、くーでたーって何?」


 リーズが呑気に聞いてきた。この国では珍しいのかもしれないな。この国の情勢はかなり長期的に安定している。建国記を読む限り、1000年近く存続しているみたいだから革命なんて考えられないのだろう。


「王様を無理やり交代させることですよ。国が無くなっちゃうこともありますから一大事です」


 ルナがものすごく簡単に説明してくれた。ちょっと違う気がしないでもないが、俺が説明するよりはマシだな。俺が説明したらリーズの『(ハテナ)』が10倍に増える自信がある。


「えぇ? そんなことして誰が喜ぶの?」


 核心来ました。これだよ、失敗すると思う一番の理由。革命を起こしても誰も得しないんだ。得をするのは革命に賛同した一部の人間だけ。国民の殆どを敵に回して成功するとは思えない。


「誰も喜ばないだろうなあ」


 俺の答え方が悪かったのか、リーズは首を傾げて考え込んだ。結局リーズの『(ハテナ)』を10倍に増やしてしまったようだ。


「でも本当にクーデターが起きてしまったらどうしましょうか」


 ルナはかなり心配そうだ。それにつられてクレアも深刻な顔つきになる。実際にこのクーデターが成就してしまうとものすごく面倒だ。最悪と言ってもいい。

 教会が持つ兵力次第では危険な状態になるかもしれない。例えばボナンザさんやグラッド教官クラスの兵士が100人居たらかなりヤバイ。そうなったら俺も手を出すつもりだ。


「うーん、様子を見ながら他国に移動だな。基本的な対応は兵士に任せるが、危険な状態ならコッソリと教会の兵力を削るよ」


 たぶんバレないでしょ。いつの間にか敵兵が減っているという謎現象が発生するだけだ。

 この国の兵士だけで対処できるなら、俺は手を出さないつもりだ。危険だし、そもそも冒険者である俺たちの仕事じゃない。


「そうですか……。その時は私もお手伝いしますね」


 ルナがそう言うと、クレアとリーズがうんうんと頷いた。

 3人は手伝うつもりがあるようだが、その時は救護班として手伝ってもらうことになるだろうな。クレアとリーズは避難誘導とかそんな感じだ。最前線に連れていく気は無い。

 グラッド隊を相手に対人戦の訓練をしたが、ただの襲撃者を追い払うのとは訳が違う。最前線で戦うのは俺だけで十分だろう。


「その時が来なければいいがな」


 3人は沈んだ顔つきで俯く。



 暗い雰囲気になってしまったので空気を変えたいな。


「今日はこの後どうする?」


 道具を片付けてしまったので、また準備からやり直しだ。他にすることがあるならそっちを優先しよう。


「そうね、そろそろポーションを売りたいんだけど、どう?」


「もうそんなに作ったのか?」


 道具を買い揃えてからまだあまり日が経っていないのだが、思ったよりも作成のペースが早いな。

 クレアの作業は1人でやっているから、俺はどうやって作っているかを知らない。


「そんなに多くはないわよ。でも100本くらいは売ってもいいわね」


 結構多いじゃないか。高品質なら1本あたり大銀貨3枚で売れるはずだから、金貨30枚だ。え? もう道具代の半分を稼いだの?


「いや、十分だよ。品質はどうだ? 大銀貨3枚で売れそうか?」


「ごめん、たぶん無理。品質にバラつきがあるから12本で金貨3枚くらいになると思うわ」


 微妙な表現になっているが、これがこの国のお金の不思議ポイントだ。

 何らかの理由で安くしなければならない時、この国では金額を変えずに内容量を増やすのが一般的だ。

 売れないものにはおまけが増える。でも金額は変わらない。魔道具や武器のような一つ単位で売るものは価格を下げることもあるのだが、食料品や消耗品は概ねこの手法を取っている。


 通貨単位がないから細かい金額設定にしてしまうと表現がとてもややこしくなる。この場合だと、1本あたり『大銀貨2枚と銀貨5枚』と表記する必要があるのだ。ここに銅貨が加わると、訳がわからなくなる。

 だから複数個を基準にして、そこにおまけを付けることで価格を揃える。

 はじめはわかりにくいと思ったのだが、慣れたらそうでもなかった。日本のステルス値上げと同じ手法だからな。ポテトチップスが年々軽くなっていることに気が付いた俺なら余裕だよ。


「そうか、それは仕方がないよ。でももう少し高く売るルートに覚えがあるんだが、どうだ?」


「え? そんなのどこにあるのよ。高く売れるならコーに任せるわ」


 ポーションを売ると聞いてピンときた。先日王城で訓練を受けた時、グラッド隊の治癒魔法使いがガブ飲みしていたんだ。たぶんあの隊のポーション消費量はエゲツない。しかも、つい最近大量消費したばかりだから、足りていない可能性が高い。

 一般小売価格よりは安く買っているだろうが、卸値で買っているということは無いだろう。薬師ギルドには文句を言われるかもしれないが、上手くいけば俺たちは高く売れ、グラッド隊は安く買える。


「ルナ。念のために聞いておきたいんだけど、王城のお抱え薬師みたいな人は居るのか?」


「居るには居ますが……彼らの仕事はポーションの研究です。消耗品のポーションを作れと言われると(ヘソ)を曲げるので大変です」


 ルナが困った顔で答えた。

 王城所属の薬師は気難しい人達らしいな。逆に好都合だ。売れる可能性がグッと上がった。


「よし。このポーションはグラッド隊に売るから、後で王城に行こう」


「グラッド隊……」


 クレアが顔を青くしながら呟いた。訓練をしに行くわけじゃないんだから心配いらないのに。


「王城に行くなら、リリィさんの所へ行きましょう。『ブロア』を見せたいです」


 俺達の新作魔道具『ブロア』は箒に代わる新しい掃除道具だ。部屋が散らかりやすい魔道具職人の作業場では大活躍するだろう。

 でもあれはまだ試作品に近いんだよなあ。風圧の調整がまだ甘い。というか俺が圧力の計算をよく理解できていないから、必要な出力がわかっていない。最大出力は少し強めに設定したつもりだが、足りているのだろうか……。


 リリィさんに使ってもらって意見を聞こう。できるだけたくさんの人から意見が欲しいから、王城のメイドさんにも渡してレビューしてもらってもいいな。


「それならリリィさんと王城のメイドさんにもブロアをあげたいと思うんだが、いいか?」


「はい、もちろんです。でも少し手直しが必要になると思います」


 ルナはそう言ってブロアを手に取った。

 ブロアの見た目はただの棒だ。銀製の先端を取り付けただけの木の棒で、出力調整は使う人の感覚でやっている。慣れないと出力が安定しないから、ここは手直しがいるな。

 片付けた道具を並べ直して作業を開始した。



 木の棒にスライドボリュームのような物を取り付け、誰でも簡単に調整できるようにした。そして、ルナのたっての希望でリミッター機能を組み込んで完成だ。

 リミッター不要派の俺とリーズは、絶対必要派のルナとクレアに押し負けた。せめてもの抵抗でリミッター解除ができるようにしたけどね。棒の手前に小さなスライドスイッチを付けたので、手元で切り替えができる。

 リミッターのおかげで安全になったので、最大出力を更に上げた。たぶんベッドを吹き飛ばした時の50倍くらいの出力だと思う。強いに越したことはないよ。


 魔道具は起動するための魔力を供給すれば出力に関係なく動く。空気中の魔力を取り込んでいるのだ。だから魔法を使ったことがない人でも普通に使える。

 魔法として風を起こそうとすればそれなりに大変なんだけどなあ。棒切れ1本でできてしまうのは、今更ながら不思議な現象だ。


 30本ほど作ったところで木の棒が無くなった。というかリーズが以前使っていた槍の予備の柄なんだけどね。あの槍は二度と使わない気がしたから遠慮なく使った。

 魔力を通す必要がない部分は魔道具用の素材を使わなくてもいい。それなのに全体に魔道具素材を使ってしまうのはもったいないのだ。


「それじゃ明日は王城へ行こう」


 結局、魔道具作成組は作業に没頭してしまったので、クレアは自室に戻ってポーションを作っていた。最終的に売り物にできるポーションは120本になった。

 薬師ギルドに売るなら金貨30枚になるだろう。これでも十分なんだが、グラッド隊ならもっと高く買ってくれそうだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] クレアにはいつ伝えるの?
[気になる点] 日本人なら、リミッターはつけるだろ くるまのすぴーどだってりみったーついてるよ
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