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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第四章 王都の裏側編
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納涼火花大会

 店を出て少し歩く。辺りは薄暗く、人通りは全く無い。襲うなら今でしょ。何で来ないんだよ。わざとらしく立ち止まって伸びをしたりしてみるが、反応がない。

 それどころか、襲撃者は二手に分かれたようだ。怪しい反応が4人分増え、屋根の上から俺たちを監視する4人とさっきの食堂を監視する8人。

 その店には俺たちは居ませんよ? 罠を疑っているのか? うーん……面倒だ。


「なあ、どうする?」


 立ち止まっているが、することがないから踊ろうかな。安来節(どじょうすくい)でも踊っていればスキだらけに見えるはずだ。


「また変なこと考えていますね……?」


 ルナがジト目で俺を見る。安来節(どじょうすくい)は日本の伝統芸能だぞ?


「ねぇ、まさかこっちから乗り込もうなんて考えてないわよね?」


 おお! その発想は無かった。さすがクレアだ。そうしようかな。踊っている場合じゃないぞ。


「えー! あたしも行きたーい!」


「いや、リーズは待っていろ。狙われているのは俺かリーズだ。二手に分かれたほうが、あちらさんも襲いやすいだろう」


 こんなにわかりやすくスキだらけなんだ。来るなら来いよ。


「本当に行くのですか……?」


「とりあえず俺が一人で挨拶してくるよ。みんなは引き続き警戒していてくれ」


 紳士的に挨拶(スタンガン)だ。もしかしたら俺たちを誘い出す罠かもしれないから、反撃には細心の注意を払う。

 連中は二階建ての建物の屋根の上で息を殺している。ただの一般人という可能性は無い。『警戒』で接近して屋根の上から監視している連中が一般人なわけが無いだろう。


 気配察知の生体反応は大きく分けて3つ。ただの『反応』が友好的な気配、『注意』が無関心の状態。関心を持った結果敵対することもある。問題の『警戒』だが、確実に害意を持って接近している反応だ。

 体から出るオーラからそう感じられる物なので、自分たち以外に向けられた感情にも反応することがある。そのため、人間や魔物が増えると反応が混乱してしまい、結果的に精度が落ちたり範囲が狭まったりするのだ。


 みんなを道の上に待たせて監視している連中に急接近する。気配は遮断し、壁を伝って屋根の上へ。そっと背後に忍び寄り、肩に渾身のスタンガンをお見舞いする。


『バシィン』


 青白い火花が飛び散る。

 乾いた音とともにビクリとこわばり、その場に崩れ落ちる不審者。続いて2人目。同じく背後から背中に一撃。一瞬飛び跳ねたかと思うと、そのまま顔面から崩れ落ちた。


「くっ! 何事だ!」


 襲撃者の一人が叫ぶ。

 2人目が派手に転がり込んだせいでバレた。速やかに残りの2人も感電させておく。

 自分では絶対にくらいたくないな……。とても痛そうだ。というか当てた部分は服が焦げて火傷している。スタンガンってこんな火傷する物だったかな……? 調整をミスったかもしれない。

 まあ死んでいないから問題ない。上手く手加減できただろう。4人を無理やり抱えて地面に下りる。



「とりあえず捕獲してきたんだけど、どうしよう?」


 後のことを考えていなかった……。適当に尋問すればいいのかな。でも尋問のやり方なんか習っていないぞ。

 襲撃者は4人の知らない男たち。黒い布の服で夜の闇に紛れていた。連中の武器は飾り気が全く無い小さなダガーだ。両手に持てるように1人2本装備していた。

 殺る気を感じる武器だな……。危険なので没収しておく。


「ねえ……何をしたらこんなことになるの?」


「魔法で一発だ。簡単だぞ?」


 開発は大変だったがな。絶縁魔法の開発が成功しなければ、使う度に自分も感電するところだった。どんな自爆技だよ。


「生きては……いるみたいね。話は聞けるのかしら」


 クレアが襲撃者の脈を確認して言う。死んではいないが、処置をしなければ2時間位まともに動けないはずだ。適当に1人回復させて話を聞こうかな。


 治癒魔法のために手をかざしたところで、食堂監視組に動きがあった。俺たちを無視して食堂に向かっている。回復中止。襲撃者を道端に転がしたまま、全員に指示を出す。


「食堂が襲撃されている。そっちに向かおう」


 ルナとリーズも察知していたようで、静かに頷いた。クレアはなにがなんだかわからない様子で戸惑っているが、説明している暇は無い。食堂が襲撃される理由もわからない。

 俺が4人を仕留めたから焦ったのか? 人質を取られたら最悪だ。その場合は……俺も覚悟を決める必要があるな。そうなる前に止めよう。


 食堂からは明かりが漏れている。まだ営業中のようだ。襲撃者は店の入り口付近で構え、今にも突入しようとしている。

 こちらの動向にはまだ気が付いていない様子。不意打ちで一気に畳み掛ける。


 リーズは襲撃者を吹っ飛ばし、ルナは急所一突きで襲撃者を沈める。クレアは……頑張った。俺は適当にスタンガンだ。

 あっという間に8人を無力化した。


 さっき潰した4人も持ってきて、合計12人だ。さて、どうしたものか……。でも12人を一度に兵士の所まで持っていくことはできないし、道の真ん中に転がしておくこともできない。

 巻き込んで申し訳ないが、ロープで縛り上げて食堂内に持ち込もう。


「ひとまず食堂を借りて保管しておこう。俺が兵士を連れてくるから、みんなで監視してくれないか?」


「大丈夫……ですかね?」


 心配そうなルナ。危険が無いわけではない。俺が兵士を呼びに行って戻るまでは最短でも30分は掛かるだろう。その間に何かが起こるということは十分に考えられるな。

 ……全員にもう一発ずつスタンガンを撃ち込んでおこう。あちこちで青白い火花が飛び交う。これで安心だ。辺りにツーンとした臭いが立ち込めたので、魔法で風を起こして臭いを飛ばした。


 襲撃者たちは全員仲良く白目を剥いてビクンビクンしている。しばらく動けないだろう。


「これ……大丈夫ですか?」


 ルナはまだ心配している。しかしこれで十分なはずだ。これ以上となると襲撃者たちの心臓を止める必要があるぞ。


「心配ない。これで妙なことはできないだろ……ん?」


 食堂の扉に手を掛けたところで遠方から追加の反応、今度は2人だ。移動速度は結構速い。屋根を走ってきている。

 さっきの襲撃者も屋根を走ってきていたんだが、屋根走りって結構流行っているんだな……。


「また誰か来ますね……」


「ああ、ちょっと行ってくる」


 もう流れ作業だよ。適当にスタンガンをブチ込んで持って帰ろう。屋根に登って待ち構える。


 到着した2人組は黒いコンバットスーツを着た高校生くらいの女の子だった。服は薄い革でできていて、急所の部分は厚くなっている。首にはチョーカーが巻かれており、ドッグタグのような物をぶら下げていた。

 あのドッグタグは見覚えがあるな……。マリーさんの店にも同じものがあった。近くで見ないと効果がわからないが、あの店で扱っている物だから物騒な物では無いはずだ。

 王城の兵士ではないのだが、明らかに軍人のような出で立ちをしている。特殊部隊? でも王城の特殊部隊はグラッド隊だしなあ……。


「誰……?」


 女の子が呟く。

 特殊部隊としては良くないなあ……。口を開く前に行動しなきゃ。反応は『警戒』だ。こちらを敵と見做しているのだから、会敵したら即行動だ。


『パシィン!』

 懐に踏み込んで装甲が薄い部分にスタンガンを当てる。次に隣の女の子にも同じように一撃。2人は大きく飛び退き、体勢を崩した。

 でも倒れていない。革のコンバットスーツが絶縁体になっているらしく、電撃が効いていないようだ。これ以上出力を上げると危険な気がするし……どうしよう。


「何を……した……!?」


 女の子が問い掛けるが、答える必要はない。いつかの残念ドラゴンみたいにベラベラ喋ってくれるならいくらでも答えるのだが、この女の子たちは何も喋ってはくれなさそうだ。

 改良版威圧の魔法を使おう。ターゲットは2人。同時に当てる事も可能だ。


 女の子たちは怯えたような表情で、顔を青くしていく。虚ろな目でこちらを睨んでいるが、全身が震えて立てなくなり、膝をついた。

 これで決まりかな……そう思った瞬間、1人がドッグタグを握ると手元が青白く光ってすぐ消えた。光を放った女の子は、すぐに体勢を立て直してすごい速度で逃走していった。

 残された1人は、気を失ってその場に倒れ込む。



 深追いは避けたほうがいいか。すでに13人確保している。この場から長時間離れることの方が危険だ。

 倒れた女の子を抱えて皆のもとに帰った。


「ごめん、一人逃した。リーズは気配を追えたか?」


「あたしも無理ー。人が多すぎてわかんない」


 人が多いところでは気配察知の範囲が狭まるのだが、これはリーズも同じようだ。


「そうか。それなら仕方がない」


 リーズと話をしながら、追加の襲撃者が持つ武器を回収しておく。8人は全員男だ。先の4人と同じく殺る気を感じるダガーを持っていた。

 最後の1人が持っていた武器は、少し違うものだった。両刃の短剣だ。長さは60cmくらいで、片手剣にしては短くナイフにしては長い。刀身は薄くて幅が広い。珍しい形状だな……。今度武器屋のおっさんに聞いてみよう。

 ドッグタグを外そうとしてチョーカーに手を掛けたのだが、上手く外れなかった。仕方がないのでドッグタグの部分だけを引き千切っておく。

 見たところ、治癒効果を発生させる魔道具のようだ。他に不審な点はない。こういう時に警戒するべきは自爆だ。爆発物の有無は念入りに確認する。


「これで大丈夫そうだから、ひとまず食堂を借りて兵士を呼んでくるよ」


 食堂のドアを開け、店主さんを呼ぶ。


「いらっしゃい……あれ? 忘れ物でもされましたか?」


 驚いた顔を見せる店主さん。


「いや、ちょっと外で拾い物をしてな。兵士を呼んでくるからしばらく置かせてもらえないか?」


「そうですか。いいですよ。店の隅に置いておいてください」


 許可が下りたので捕らえた襲撃者を店内に運ぶ。狭い店内が満員になった。


「……これは……なんですか……? 拾い物って……」


 驚いて開いた口が塞がらない店主さん。ごめんね、数の話をしていなかったよ。


「すまない。この量だと道の真ん中に放置するわけにもいかなくてな」


 放置している間に別ルートから通報が行くと拙いんだよね。傍から見ると俺たちが襲撃者のように見えなくもないんだ。兵士に説明するのが非常に面倒くさい。


「でも……え……?」


 店主さんは並べられた襲撃者を見て何かに気が付いたようだ。知り合いでも居たのかな? 敵対状態で武装して突然店に訪れる(やから)を友人とは言わないだろうしなあ。


「どうした?」


「いえ、この人……最近うちの娘につきまとっていた人なんです」


 ターゲット俺じゃなかったー! 娘のストーカーかよ! ストーカー本気過ぎじゃね? なんで仲間を呼んでストーカ-してるんだよ。


「あの……コーさん?」


 ルナが困った顔で声を掛けてきた。

 言わなくてもわかっているよ……。俺、余計なことしたっぽいよね。

 でも俺が狙われてるって言われたじゃん? リーズも狙われてたじゃん? で、『警戒』の状態で急接近されたじゃん?


 誰だって勘違いするよ!


「いや、被害が出る前に対処ができて良かったな」


 これできれいにまとまったよね? 娘が拉致られなくてよかったねってことで……許されるはずだ。


「はい! ありがとうございます!」


 ほら、店主さんも感謝してくれているよ。良かった良かった。


「じゃあ俺は兵士を呼んでくるから、ここは頼んだ」


 なんだか居心地が良くないから兵士を呼びに行こう。急いだほうが良いしね!

 食堂の外に出て屋根に登る。行き先は王都南門にある兵士の詰め所だ。前回襲撃者を引き渡した兵士が居れば話が早い。

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