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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第四章 王都の裏側編
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亜麻色の髪のワン子

 王城に行った日から二日間、魔道具の開発に勤しんだ。既存の魔道具の中には改良の余地がある物も多くあるので、改良を試みることにした。

 例えば、明かりの魔道具はどれもランタンのような形状になっていて、懐中電灯のような形状の物が無い。普及するかはわからないが、捜査や森の調査には懐中電灯の方が使い勝手が良いはずだ。

 火起こしの魔道具は使い捨てライター程度の火力しかなく、炭には着火することができない。携帯用バーナー程度の火力が出せるようにした。


 時間があるので、あらためてマジックバッグの中身の整理をすることにした。色々買っているし、食料はマメに確認しておかないといつの間にか腐っていることがある。

 全部出すのは辛いので、小さな物だけを出して並べていく。


「あの……コーさん……。大変です」


 ルナがバッグの中から何かを発見したようだ。


「どうした? 保存食にカビでも生えたか?」


 よくあることだ。

 ギルバート製の干し肉はしっかりと燻煙してあるのでそれなりに長持ちするはずなのだが、普通の手作り品は保存食でも1ヶ月もたない。


「いえ……。兵士の備品を返していません」


 ルナの両手には、俺が剣を加工して作った警棒や鉄の棒が抱えられていた。先日の訓練で使った訓練用の武器だ。

 返すのを忘れていた……。訓練が終わった後うっかりバッグに詰めて、そのまま忘れていた。でも壊れた武器を再利用しただけだ。このまま持っていても問題ないだろう。


「今度返せばいいよ。元は折れたり曲がったりした剣だから、別に困ってはいないだろう」


「そうですか……」


 ルナが困った顔で頷く。でもあいつらに返したところでどうせゴミになるだけだ。鋳潰して大剣にされ、またすぐに壊れるんだ。


 これでバッグの中身はかなり整頓できたはずだ。保存食も傷んでいなかった。

 俺たちは一人一つマジックバッグを持っている。冒険者パーティとしてはあり得ないらしいが、全員が魔道具関係者だから持っていてもおかしくはない。

 俺のマジックバッグは王城の備品、ルナは宮廷魔導士製、リーズは前の師匠に貰ったそうだ。クレアは当然マリーさんの手作り。全員が高品質のマジックバッグを持っている。

 容量はまちまちだ。俺のバッグが一番多くて、軽トラック1台分ほど入る。逆に一番少ないのがリーズで、畳一畳分ほどだ。


 みんな合わせるとかなりの量が入るので、整頓も楽ではない。


「さて、とりあえずこんなもんかな。そろそろ夕食の時間じゃないかな? 行こうか」


 夕食を摂る時間は各自の自由になっていて、店主の準備ができたら夕食の提供が始まる。1階の食堂に行き、席が空いていれば食べられる。


「アタシ、食堂の様子を見てこようか?」


 クレアは自室で1人でポーション作りをしていたのだが、たまに俺たちの部屋に顔を出して掃除や休憩をしている。1人では寂しいらしい。


「いや、必要ないよ。みんなで行こう」


 しばらく座りっぱなしだったから少し歩きたい。立ち上がって体を伸ばし、食堂へと向かった。ルナとリーズもそれに倣って軽くストレッチをして部屋を出た。



 廊下に出たのだが、かなり静かであることに気が付いた。いつもなら食堂の喧騒がうっすらと聞こえてくるのに……。でもまあ食堂がすいているのなら問題ない。


 食堂に着くと、そこには誰も居なかった。まだ食堂の準備ができていないようだ。いつもの元気な看板娘も居ない。


「おかしいな……まだ食事ができていないみたいだ」


「そうですね……」


 厨房を覗き込むと、中から武装した店主が出てきた。

 倉庫から引っ張り出してきたのか、装備品は埃をかぶって薄汚れていた。鉄の鎧もところどころ錆びている。

 でも使い込んだ様子が見て取れる。たぶん元冒険者なんだろう。


「ああ、君たちか。連絡が遅れてすまないが、急用ができて食事の準備ができない。後で返金するから今日は外で食事を済ませてくれないか?」


 ごっついおっさんが武装して急用ってのは物騒だな。食事の準備ができないほどの急用って余程だよな。


「それは構わないが、そんな物騒な格好をして何の用だ?」


「昔の仲間からの頼まれ事だ。明日からは通常通り食事を出す。すまないが急いでいるから行く」


 店主は早足で外に出ていった。

 外はもう薄暗い。食事をするなら酒場のような店になってしまうかもしれないな。


「行ってしまいましたね……。どうしましょうか?」


「考えていてもしょうがない。俺たちも外に行こう」



 薄暗い街を4人で歩く。いつもは屋根の上を走っているので、石畳の上を歩くというのはなかなかに新鮮だ。

 あらためて町並みを眺めると、まるでテーマパークの中に居るようで、観光している気分になる。王都内ではトラブルが頻発しているのに、それを感じさせないのんびりとした空気が漂っていた。


「ねえ、良かったの?」


「何がだ?」


「王様に外に出るなって言われたじゃない?

 それにボナンザっておばさんも暗い道は避けろって言ってたわよ?」


 確かに外に出るなと言われているのだが、そのために食事抜きっていうのもどうかと思う。一応は用事なく外に出るとこは避けているんだ。これくらいは許してほしい。


「そう言われても、夕食は食べたいだろう? 今日の外出はしょうがないよ」


「そうですよ? 誰か1人が買い出しに行くよりも、みんなで食べに行った方が安全です」


「おなかすいたー!」


 リーズは、細かいことはいいからさっさとメシを食わせろと言いたいようだ。俺も同感。街の中を歩き回り、良さそうな食堂を探した。

 日が暮れてしまうと、開いている店は酒場ばかりになってしまう。食べ物が提供されないわけではないのだが、俺も他の3人も酒を飲まないのであまり行きたくない。


 酒場と食堂は見た目がほぼ同じだ。看板に書かれている品目で判断するしか無い。日本のような暖簾や赤ちょうちんがあればすぐに見分けが付くのに……。

 暫く歩くと、細い路地に一軒の小さな食堂を発見した。ポトフがおいしそうな店で、看板を見る限り酒場ではなさそうだ。


 俺の「ここでいいか?」との問に、3人から賛成が返ってきたのでこの店にした。

 この時間に開いている店にしては珍しく、食事のみの店だった。塩味のポトフと焼いた肉塊、パンとサラダのセットだ。焼いた肉塊はまるでローストビーフのような焼き方をされていて、とても美味しかった。いずれまた来たい。

 しかし、こんなに美味しいのに店内には客が俺たちしか居ない。


「いかがでしたか?」


 店主らしきお姉さんがテーブルの横に立って言った。

 多分30歳前後くらいで、頭に三角巾を巻いている。この店は親子2人でやっているようで、同じ格好をしたよく似た顔の少女が店を手伝っている。


「とても美味かったよ。この時間に食堂が開いていて良かった」


「ありがとうございます。私はお酒の味がわからないので、出したくても出せないんですよ」


 店主さんは寂しそうに顔を曇らせて言った。酒が好きではないようだ。

 酒を出さないせいで客入りが悪いのかもしれない。食べ物よりも酒を重要視するのは、残念なことだがよくあることだ。


「俺達は酒が無いからこの店を選んだ。そういう奴もたまには居るさ」


「ありがとうございます……!」


 店主さんはそう言って頭を深く下げた。三角巾がふわりと床に落ちる。

 きれいな茶色い髪がなびく。頭に目を移すと、そこには犬のような耳が……。


「あー! おそろいー!」


 耳を見たリーズが騒ぐ。犬種は違うがどちらも犬の獣人だ。リーズは柴犬みたいなピンと立った耳なのだが、店主さんはダックスフントのような垂れ耳だ。家系によって違うのだろう。


「ふふふ……。そうですね。あなたも濃い獣人さんみたいですね」


 濃い? 獣人が濃かったら毛むくじゃらになりそうだけど?

 いや、そういえばリーズは純血の獣人だったな……。


「なぜわかるんだ?」


「獣人の血が濃い人は髪の毛が亜麻色になるんです。私は濃い茶色ですけど、娘はきれいな亜麻色なんですよ」


 亜麻色? 聞いたことはあるけど……こんな色なのか。俺はずっと黄色がかった薄茶色だと思っていた。亜麻色って言ったほうがイメージがいいから以後は亜麻色で通そう。

 娘は……ということは先祖返りの一種なのかな?


「なるほどな。血が濃いと何かあるのか?」


「ふふふ。何もありませんよ? でも髪の色がきれいで羨ましいです。お皿下げますね」


 店主さんは笑顔で答えると、皿を抱えて戻っていった。皿を下げるのは娘の仕事だろうに……。客がいないから暇なんだな。

 店内で食事を終えた余韻に浸っていると、リーズが急にそわそわしはじめた。


「どうした? うんこか?」


「コーさん! ここは食堂ですよ? そういうことは言わないでください!」


「ちがうよ? なんか変なの。うーん……変」


 変なことを言いながら辺りをキョロキョロと見回すリーズ。

 すると、俺の気配察知も何かを感じ取った。同時にルナも気が付いたようだ。確かに変だ。気配は人間のものなのだが、敵性反応だ。人間の反応は、いつもは『注意』なのだが今日は『警戒』の反応。

 この反応には覚えがある。当時はまだここまで精度が良くなかったが、リーズを襲ったアホの傭兵と同じ種類のものだ。


 ……囲まれたな。人数は8人、屋根の上から監視している。でもまだ増えそうだ。狙いはどっちだ? 連中は俺とリーズをターゲットにしているのだが、おそらく別ルートで狙っているので同時に両方ということは無いだろう。


 クレアだけ何もわからないままキョトンとしている。気配察知どころか身体強化も上手くできないから、気が付かなくてもしょうがない。


「クレア、何者かに包囲された。おそらく店を出たら襲われる。警戒しておいてくれ」


 クレアが真剣な顔をしながら腰に剣をぶら下げて、いつでも抜ける状態にした。

 俺たちもナイフを出して準備を……と思ったが止めた。クレアに武器を仕舞うよう指示を出し、みんなに訓練用の武器を渡す。街のど真ん中で人死にはゴメンだ。それに王からも手加減するように頼まれている。


 みんなは軽く頷いて受け取った。武器を懐に仕舞い、無防備を装って店を出る。


「店主さん、ごちそうさま。お代は置いていくよ!」


 わざと大きな声を出す。今から出るよ? 無防備だよ? 襲ってね!

 一番面倒なのは、襲わず尾行を続けるパターン。警戒を続けなければならないから疲れるだけだ。

 不意打ちは、される側が身構えておけば不発に終わる。それどころか反撃を受けやすいのだ。サクッと襲撃してくれれば反撃してすぐに解決するから楽。


「ありがとうございました!」


 店主と娘の声が響く。こちらの大声に合わせて大きな声で返してくれた。こっちの意図を知っているはずが無いんだけどね。あれがいつもの営業スタイルなんだろう。


 意気揚々と店から出る。もちろん警戒しているが、見た目は完全に無防備だ。さぁ来い! すぐ来い!

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