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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第一章 旅をしたいのに王城から出られません
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かわいい女の子と二人でお勉強は全高校生男子の夢

「知らない天井だ……」


 とりあえず言っておこう。広場で倒れたのだが、意識がないうちに屋内に運ばれていた。


「お疲れ様です。目が醒めましたか?」


 寝かされたベッドの横に、椅子に座ったルナさんが居た。


「あ、ごめんなさい、お待たせしてしまいましたね」


「いいんです。体の具合はいかがですか?」


「ええ、問題ありません」


 上体を起こして答えた。服は脱がされており、Yシャツと下着のみになっていたので、下着は掛け布団で隠しておく。

 疲労感はあるが、体を動かすのはもう大丈夫。


「良かった。治癒魔法、私が掛けたんですよ」


 おお、治癒魔法。使えると便利だな。ぜひ覚えたい。


「そうだったんですか。ありがとうございます」


「私は治癒魔法があまり得意ではないので、今日はもう無理しないでくださいね」


 できることなら一生無理したくありません。


「はい。今日はもう訓練しませんから大丈夫ですよ」


「それはそうと、見ていましたよ、グラッドさん相手に大健闘でしたね」


 見られてたー。地面を転がって剣を避けるだけの作業だったんだよな。超かっこ悪い。


「みっともない姿をお見せしてしまいました」


「いえ、そんなことないですよ。グラッドさんの剣をあれだけ避け続けられたんですから」


「いえいえ、あの人、全然本気じゃなかったですよ?」


「え? どうして分かるんですか?」


「俺が『参った』って言う直前、教官の気配がいきなり変わりましたよね」


「そうなんですか?」


 あれ、これって対峙した人じゃないとわからないのかな?


「ええ。威圧感というか、オーラが急に大きくなりましたよ」


「そんなことが……」


 ん? 変なこと言ったかな? ルナさんは困った表情をしている。


「どうかしました?」


「いえ、オーラを感じるというのは、上級者でないとできないと聞いていたので」


「そうなんですか? 俺はさっきの本に書かれていたことを実行しただけなんですけど」


 地球でやっていたことの延長です。瞑想と魔力操作ってすごく相性が良いんだよな。


「あの本にはそこまでのことは書かれていません」


「いえ、ただの魔力操作の応用ですよ?」


「オーラと魔力は別物です。そもそも魔法だって使っていなかったじゃないですか」


 あれ? 俺が魔力だと思っていたものは実は違う何かだったのか?


「教本の通りやったつもりですが……。体の中の魔力と周囲の魔力を感じてですね……それから……」


 一通り説明してみた。


「うーん! さっぱりわかりません!」


 通じてなかったー。片言に聞こえてるはずだからしょうがない。


「先に言葉を覚えましょう。そのあと、もう一度聞かせてください」


 そう言って俺の顔を覗き込んでくる。顔が……近いです。やっぱり緊張するわ。


「そうですね。では、早速始めましょうか」


「いえ、先にお風呂にしましょう。泥だらけですよ?」


 そうだった。泥だらけの上着は脱がされているけど、体は泥まみれの汗まみれだ。

 ていうかやっぱり風呂あるんだな。


「その前に、着替えありませんか? 風呂上がりにあれを着たくありません」


「神官のフィリスさんから説明がありませんでしたか? 言えば支給されるはずですよ?」


 またあいつか。何も説明されとらんぞ。それに、申請したところで支給されるとは思えない。


「いえ、あの人とはあまり関わりたくありませんので……。何とかなりませんかね」


 ルナさんは「うーん……」と腕を組んで考えている。


「兵士の活動服が良いんでしょうけど、魔道士用の実験着で良ければ私が貰ってきますよ?」


「お願いします」


 何でも良いです。着られれば。


「では、ここで待っていてください」


 そう言って部屋から出ていった。改めて部屋を見渡すと、数台の簡易的なベッドが並んでおり、棚には何かしらの液体が入った瓶が並んでいる。

 医務室のようだが、医者らしき人も他の患者も見当たらない。広かったから気にならなかったが、二人きりだったんだな……。


 ベッドから立ち上がると、まだ僅かに倦怠感が残っているようで力がうまく入らない。相当疲労したようだ。


 ボロボロになった制服を着て、ルナさんを待つ。

 日本に戻れたら、まずは制服の買い直しだな。さすがにもう着られないわ。この世界で使い潰そう。




「お待たせしました」


 服を抱えたルナさんが扉を開けて部屋に入ってきた。ノックしようよ……全裸待機してたらどうするんだ。


「ありがとうございます。助かりました」


「では行きましょう」


 風呂って、もしかして混浴じゃないよな……。




「お風呂はこちらです。男女別なのでここで待ち合わせしましょう」


 混浴じゃないのかよ。がっかりなんかしてないんだからね!

 頷いて風呂に向かう。城に備えられた風呂は、日本の銭湯のような作りだった。

 風呂の前には男女共用の談話室があり、脱衣場を抜けて浴室へ。そこそこ広い。一度に10人くらい入れそうだ。

 備え付けの石鹸もある。泡立ちは最悪だが。

 シャンプーとまともな石鹸が欲しい。石灰岩を見つけたら作ってみようかな。


 適当に入浴を済ませ、服を着て談話室で待つ。


 渡された服は、チュニックのような上着とタイパンツのような紐で縛るタイプのズボンだった。ボタンやファスナーのようなギミックがなく、縫製も簡単だ。

 下着も渡された。普通のトランクスのような見た目だが、これも細い紐で縛るようになっている。

 服は問題ない。ゆったりとして動きやすく機能的だな。

 ただ、靴下は安物の布でできた袋といった感じで、履き心地は最悪。こればっかりはいずれ良いものを買いたいな。




「お待たせしました」


 ぼーっとしていたらルナさんが風呂から上がってきた。濡れた髪で色気が倍増している……。

 この国のタオルはパイル地ではなく、ガーゼ地のような布だ。吸水性が良いとは言えないので、髪の毛は拭ききれない。


「いえ、俺も出てきたところですよ」


 緊張で声が上ずっていないかが心配だな。


「少し早いですが、食事を済ませてから始めましょうか」


 微笑みを返してくれた。この笑顔はもう凶器と言って差し支えないな。


「ルナさんも、同じ食堂で?」


「そうですよ。兵士の方は別ですが、その他の方は皆同じ食堂を利用します」


 兵士は兵営で済ませるんだろうな。もしかしたら食事すらも訓練の一環になっている可能性もあるぞ……。早朝訓練みたいに。


「では行きましょうか」


 今日はルナさんの先導で食堂に向かう。まだ早い時間なのか、人はまばら。

 サクッと済ませて練習に向かいたいな。


 今日のメニュー。謎肉の塊を焼いたやつ(ステーキと呼ぶにはおこがましい)とスープとパン。

 早い話、昨日と同じだ。でも多少味付けを変えてある。これがこの国のスタンダードなんだな。味と栄養は問題ない。




「では、練習を始めましょうか。お部屋に伺ってもいいですか?」


 うほ。いきなりお部屋イベントですか。俺の部屋は倉庫だけど。


「俺は構いませんが、いいんですか?」


「はい。迎賓館の客室には入ったことがないので。楽しみです」


 やべー、なんか申し訳ない。


「なんか、すみません……。行きましょうか」


「? はい。行きましょう」


 今日はギルバートに会うこと無く、部屋(倉庫)にたどり着いた。

 倉庫の扉を開き、招き入れる。


「どうぞ」


「え?」


「はい。倉庫です」


 ベッドも無いんですよ。安心でしょ?


「……どうして?」


「フィリスさんにここを使うように言われましたので」


「え?」


「俺は使徒ではないので、客室は使えないそうです」


「ちょっと待ってください。おかしいです。王様からはお客様として扱うように言われていたはずです!」


 そう言って部屋から出ていこうとしたので、手首を掴んで制止する。


「待ってください。ここで満足しているので、問題ありません」


 部屋に引き込んで、扉を閉める。


「でも……」


「いいですか? 俺は、王様から部屋の中にある物を自由に使う権利を言い渡されています。

 そして、ここは物が大量にある倉庫」


 使い放題だ。貴重な紙やロウソクが大量に消費されても俺のせいではない。

 使っていいよって言ったのは王で、ここに連れてきたのはフィリス。

 ほら、俺悪くない。


 ルナさんは、「あはははは」と声を上げて笑った。


「コーさんは、見かけによらず悪い人ですね」


 いえいえ、とっても(都合が)良い人ですよ。


「いいですよ。黙っておきます。

 せっかく紙が使い放題なのだから、文字の書き方もお勉強しましょう」


 笑いながら言う。そして笑顔が眩しい。


「お願いします。では始めましょうか」


「では……、まずは明かりを点けましょうか」


 そう言って、ロウソクと長細い金属棒を拾い上げた。


「それ、何ですか?」


 謎の金属棒を指して聞く。


「あ、着火機ですね。魔導ランプと同じように魔力を通すと火が付きます」


 ライターあったんだ……。これからはロウソクとランプも使い放題になるな。


「なるほど。火が点けられなくて困っていたんです。助かりました」


「そうでしたか……。それでは始めましょうか。まずは指輪を外してください」


 そう言われたので、指輪を外す。


「$’%`*>+<@;:!#・*”」


 ヤバイ。何言ってるかわからない。

 オタオタしていると、ルナさんがあわてて手を取り、指輪を押し込んできた。


「ごめんなさい。付けたり外したりしてやっていきましょう……。

 では、私の名前から始めましょうか」


 わかりやすいけど照れくさいな。まあいいか。





「今日はここまでにしておきましょうか」


「そうだね。ありがとう」


 散々名前を呼ぶ練習をしたため、『ルナさん』から『さん』がとれた。


 練習をしながら聞いたのだが、ルナの言葉遣いはきれいすぎて一般的ではないらしい。

 崩した言葉を練習するために、気安く話すように言われたので、敬語は無しだ。

 ギルバートのような口調が一般的だそうなので、彼を参考にしようと思う。


 ただし、王や貴族と話す時はルナのようなきれいな言葉遣いが必要になるので、どちらも覚えた方が良い。


 結構頑張ったと思う。発音が日本語とぜんぜん違う。英語とも違うな。

 はじめのうちは「ぅーぁー」としか言えなかったが、今日一日でそこそこ発音できるようになったと思う。


 聞き取りも上達した。指輪にはそういう効果があるのかもしれない。

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