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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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異世界冒険者の先物取引(換金)

 ギルド長への報告を済ませた俺たちは、会議室を出てエリシアさんが居るカウンターへと移動した。

 調査報告の依頼は正式に完了させていないし、薬草の買い取り交渉もある。

 当初の予定では3日ほど寝かせるつもりだったのだが、図らずも森を探索する権利を得ることができたため、寝かせる意味を失った。


「ギルド長への報告は終わりましたか?」


「ああ。終わったよ。依頼の完了報告と、薬草の買い取りを頼みたい」


「わかりました。買い取りを希望する薬草をお出しください」


「ちょっと聞きたいんだが、ギルド長の準備が終わり次第、森への侵入が制限される。採取地が無くなるわけだが、買い取り金額はどうなる?」


「……そうなんですか? ギルド長に確認してきますね」


 エリシアさんはそう言うと、会議室へと走っていった。


「ねえ、そんな面倒なことしないで明日まで待ったら? 明日になれば値段が上がっているわよ?」


「それも考えたんだけど、それはそれで面倒だからな。俺たちはいつでも森に入れるんだ。今日売り払っても問題ない」


 どうやらクレアもインサイダー計画を立てていたらしい。道理で怪しい葉っぱを大量採取していたわけだ。

 クレアの話では、例の怪しい葉っぱは乾燥させてから使うらしく、鮮度が落ちても問題がないそうだ。今考えると完全にインサイダー狙いだな。


 明日まで待つだけでも値段が上がっていると思うのだが、面倒だから値段据え置きであっても売ってしまおうと思う。

 俺たちは調査と称していくらでも森に入れるからな。安全が確認できるまでの間はできるだけ森に入って薬草を採ってこよう。荒稼ぎできるはずだ。


 少し待っていると、エリシアさんが書類を抱えて戻ってきた。


「お待たせしました。森の侵入制限は今日中に実行されます。それと同時に、森でしか採れない素材の買取金額を倍にすることになりました。ですので、今日から倍の金額で買い取りますが……」


 何か言いたげなエリシアさん。困った顔をしている。


「どうした?」


「森の情報を持ってきたのは皆さんです……。その……当事者の方が素材を持ち込むのはちょっと……」


「禁止されているのか?」


「そうではないのですが、買取価格の高騰を狙って報告を遅らせる人が居ますので……」


 やっべ。耳が痛いぞ。俺たちも寄り道しなければもっと早く報告できていたからな。


「そんなことしていないわよ。予定を切り上げて帰ってきたくらいなんだから」


 クレアが反論した。本当ならあと2日ほどエルフの村に滞在しようかと思っていたからな。

 嘘はついていない。嘘じゃないんだよ。帰り道の休憩時間が長かっただけなんだ。


「それはわかっています。出発した日から今日までが短すぎますので。コーさんたちでなければ手抜きを疑っていますよ」


「でしょ? 何も問題ないじゃない」


「なんだ、買い取れないのか?」


 せっかく大量に採ってきたのに。無駄になっちゃうじゃないか。


「そんなことはありません。ちゃんと規定通り買い取りします。クレアさんはCランクですからご存知ですよね?」


「そ、そうね……。アタシとしたことがうっかりしていたわ」


 クレアの目が全力で泳いでいる。コイツ、知らなかったな? 高騰狙いで採取しまくっていたくせに白々しいやつだ。


「犯罪ではありませんけど、マナー違反なので控えてくださいね?」


「まあ、買い取りできるなら頼むよ。以後気を付けるさ」


 結局、インサイダー大量採取計画は頓挫した。絶対儲かると思ったんだが、考えることはどこの世界でも同じだな。真面目に高ランクになって制限を無視できるようになったほうが早いわ。


「では査定しますね。あ、4人で分けてから提出してください。依頼達成になりますので、1人で出してしまうともったいないです」


 細かいところで気が利くエリシアさん。薬草が2種類だから依頼を2回達成したことになるのか……。リーズは調査依頼も含めて3件達成じゃないか。あっという間にEランクになったな。

 薬草は、シブキが113株、シャクシャシャが102株。上手く分けて提出した。ついでに蛇の皮と頭も提出する。


「また、すごい物を持ち込みますね……」


「そんなにすごくないぞ。頭が良くない魔物の素材だ」


「いえ、これも高級素材ですよ。服にしても鞄にしてもいいです」


 ほう。この手の素材は売らずに加工したほうがいいかも知れない。次からはどこかの職人に頼んで(なめ)してもらおうかな。


「あっ……。そういえばそうですね……。マンバの革なら魔道具の素材にできます。

 ごめんなさい、コーさん。私、加工済みの素材しか見たことがなかったので、気が付きませんでした」


 ルナが申し訳なさそうに言うが、確かに生の素材と(なめ)し加工済みの素材では見た目のイメージがずいぶん違うからなあ。俺も忘れていたし。


「まあ気にするな。どうせ俺たちに皮鞣(かわなめ)しの技術は無いんだ。今は売ったほうが早いさ」


 蛇の皮ってどうやって(なめ)すんだよ。見当もつかないわ。獣と同じでいいのか? うーん……わからん。


「お待たせしました」


 エリシアさんが金貨を乗せたトレイを持ってきた。もう見慣れた光景だな。

 合計の買取金額は金貨82枚と、細かいのが少々。今回もなかなかな稼ぎだったかな。

 内訳は、蛇一式で80枚、薬草全部で金貨2枚と細かいのが少々。薬草儲からねー! 宿代くらいにしかならないじゃないか。

 もっと大量に採ってこないとダメだな。


「コーさん、何か買うものはありますか?」


「うーん、特に思い付かないな。強いて言うなら村に届ける食料くらいだ。それでもせいぜい金貨10枚分くらいでいいだろう。

 ルナとリーズはどうだ?」


 エルフの村との交易のために食料を買う必要があるが、村の財力がわからないから最初は様子見だ。いきなり大量に持っていっても迷惑かもしれないしな。


「あたしは無いかなー」


「私も、必要なものは買い終えてしまいました。魔道具の材料でも買いましょうか?」


 いざ大金を手にしても使い道がなくて困る……。前回の報酬もまだ結構残っているんだ。できれば何かに投資しておきたい。

 この国にも銀行があるが、引き出す時に安くない手数料を取られる。さらに、預けた場所でしか引き出せない。貯金するのも悪手なんだよなあ。


「そうだなあ。できれば売り物になる物を買っておきたいが……。考えておくよ」


 俺たちが話をしているうちに、クレアの買い取りが終わったようだ。

 クレアのトレイをちらっと見たのだが、金貨が山積みで渡されていた。あの怪しい葉っぱ、すっげえ高いな。


 うまくやれば薬草でもちゃんと儲かるんだな……。


「なあ、薬草の買取価格はいくらくらいまで上がるもんなんだ?」


「制限の期間にもよりますが、場合によっては5倍くらいまで上がると予想されます。

 でも、高騰を狙って危険が去ったことを報告しない人が居ますので、買い取りに制限が掛かることもあります」


 大量採取計画も頓挫した……。どうしようか。魔物素材を持ち込みながら地味に薬草を納品すれば目立たないよな。


「わかった。ありがとう」


「それから、リーズさんはこれで3件の依頼を達成したことになります。おめでとうございます。

 ギルド長からの通達がありますので、皆さんは揃ってEランクです」


 ランクアップは思ったよりも早かった。順調すぎて怖いくらいだ。リーズは高速ランクアップを狙っていたのだが、それでも予想以上に早かった。


「ああ。ギルド長から聞いている。これからのランクアップはどうしたらいいんだ?」


「Dランクになるには、実技と筆記と模擬戦の試験を合格する必要があります。そちらのクレアさんに聞いたほうが早いと思いますよ? 経験者ですから」


「そうね。あんたたちなら筆記だけを頑張れば受かるわ。アタシが教えてあげる」


 筆記テストか……。学校を思い出すなあ。そんなに昔の話じゃないんだが、ずいぶんと懐かしく感じる。それにしても実技ってなんだ?


「実技試験というのは何をするんだ?」


「薬草を見分けたり、壁や屋根を直したりね。自分が得意なものを選べば問題無いわよ? ただ速く走るなんて項目もあるから、あんたたちにはうってつけね」


 おお、速く走るだけか。今ならオリンピックでブッチギリできるくらいの速度が出せるぞ。屋根と壁を走ればもっと速い。


「意外と簡単そうだな。次回受けてみるよ」


「そうね。それまではアタシがいろいろ教えてあげる」


「クレアさんはコーさんたちとパーティを組んだのですか? もう指導係は必要ありませんよね?」


 エリシアさんは不思議に思っているようだ。確かに、契約ではEランクになるまでだった。全員がEランクになったのに指導係が同行しているのは不自然かもしれない。


「いや、俺たちのランクアップはイレギュラーだ。知識が追いついていないからな。もう少し付き合ってもらうことになった」


「そうよ! アタシはコーに頼まれて残っているんだからね!」


 得意顔のクレアだが、その割にはずいぶんと喜んでいた。同行したいのはむしろクレアの方だと思うが……。

 何にせよ、俺たちに知識が足りていないのは確かだ。しばらく同行してくれるなら助かる。



 エリシアさんに挨拶をしてカウンターを離れ、近くの椅子に座ってクレアに話しかける。


「じゃあ今回の報酬、約束の1割だよ。金貨8枚だな」


「待ちなさいよ。アタシは受け取らないわよ?」


「どうしてだ? 契約だったじゃないか」


「もう! 今回のマンバは本当に何もしてないじゃない!

 気が付いたら蛇の頭が取れていたわよ。口出しもしてないし、手も出してないわ。これで報酬を受け取るのはアタシのプライドが許さない!」


「でも同行していただろう? それなりに危険だったはずだ」


「あんたたちの近くに居て危険なんか感じないわよ。むしろ安全だったわ。

 それに、アタシは薬草の買い取りがあるの。今日の稼ぎはこれで十分よ」


 薬草の買い取りに関しては、正直少し羨ましい。知識が物を言う仕事だからクレアの努力の賜物(たまもの)だな。


「そうか……。じゃあ今回は引くよ」


 クレアは少し厳しい顔をして、受け取りを断固拒否した。仕方がないので渡そうとした金貨8枚は引っ込めた。

 うーん、手出しはしていないが受け取る権利はあると思うんだけどなあ。妙なところで律儀で頑固なやつだ。


 ギルドでの用事はこれで終わり。外はもうすっかり夜だ。宿に帰って食事にしようと思う。自分で準備しなくてもいいというのは、やはり楽だなあ。

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