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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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異世界冒険者の先物取引

 エルフの村で朝を迎えた。村の中、しかも結界の中だ。テント泊なのに十分な睡眠を取ることができたので、全員がスッキリとした顔をしている。

 今朝の話題は昨日の蛇について。昨日の蛇料理は意外と好評だった。地球産よりもクセが弱い? 独特の臭みがなく、美味しかった。野菜のおかげもあるかも知れない。


「意外と悪くなかったわね」


「そうですね。王都で食べられないのが残念です」


「あたしもっと食べたかったー」


 大部分を村に寄付したからなあ。でも1人500gくらいあったはずだ。肉500gって相当な量だと思うぞ。

 半分を串焼きにして、半分は野菜とともにスープにした。味付けは塩のみ。シンプルイズベストだ。調味料の選択肢が無いとも言う。


 この世界の調味料を探して回るのも楽しそうなんだが、調味料は意外と腐るからなあ。


「まあ、また狩ればいいさ。森の中に入ればまた遭遇するだろう」


 正直めちゃくちゃ狩りやすい魔物だった。近づけば寄ってきて、攻撃しないで威嚇をするだけ。


「……一応言っておくけど、本当なら死を覚悟するレベルの魔物なのよ?」


 おっと、クレアから苦言が飛んできた。確かに毒対策ができていない人には脅威かも知れないな。しかし魔法毒など治癒魔法使いの前では無力だ。

 それに、地球産のマンバの方が怖いんだから仕方がない。あいつら、つぶらで可愛い瞳をしていながら確実に人を殺しに来るぞ。




「おはよう。よく眠れたかの?」


 突然の声に全員がビクッとした。また爺さんだ。死んでいるんじゃないの? というレベルで気配が無い。魔力的な気配も感じないのだが、歩く音が聞こえないんだよ。

 全力で警戒すれば察知できるが、村の中でそこまで警戒したくないんだよ。緊張感が村の一般人にも伝わってしまうからな。


「おはよう、爺さん。頼むから気配を殺して近付くのを止めてくれ」


「それはすまんのう。以後気を付けるわい」


 昨日も注意したばかりだぞ。この爺さん、直す気無いな。


「で、何の用だ?」


「お主らの予定を聞いておこうと思ってのう。どれくらい滞在する気じゃ?」


 穏やかな顔で聞く爺さん。気を使って言葉を選んでいる様子が見て取れる。早く帰ってほしい感じではないな。

 この村にも都合があるのだろう。農村には農繁期に客を迎える暇など無いからなあ。もしかしたら手伝わされるかも知れない。

 農業の手伝いが嫌なわけではないが、まだ依頼の途中だ。早く王都に戻ったほうがいい。


「できるだけ早く王都に戻るつもりだぞ。元々、俺たちは森の調査をしに来たんだ。森の奥に居るはずの魔物が外に出ようとしていたからな。

 ウォルファンが村の外で寝ていたから、そのせいだろう?

 適当に言い訳をして脅威は去ったと報告しておくよ」


「ふむ……。それはウォルファンのせいではないのう」


「どういうことだ?」


「ウォルファンは(たま)に村の外に出るが、外の魔物を刺激しないように注意しておる。

 それに、儂らも調査をしておるのじゃが、例の兵器がこの村の近くに居るようなのじゃ」


 昨日聞きそびれた兵器だ。詳しく聞いておいたほうがいいな。


「その兵器とやらは何なんだ?」


「我々は『ウロボロス』と呼んでおる……竜の形をした生物兵器じゃよ」


 魔法の世界の生物兵器! ロマンの兵器じゃないか! 嫌な予感しかしないけど。生物兵器って、暴走して制御不能になるところまでがワンセットだよね。


「危険な物なのか?」


 答えはわかりきっているけどね。逆に危険じゃない生物兵器があるなら見てみたい。


「……出会ってしまったら兎に角逃げよ。あの兵器を破壊するために、どれだけのエルフが犠牲になったことか……。

 魔法による中途半端な攻撃は一切効かぬ。吸収されるだけじゃ。竜とは言ったが、靄のような物でできておる。物理の攻撃も効かぬ」


 無理ゲー過ぎる! 物理無効で魔法は吸収かよ。倒し方が見当もつかないぞ。


「いや、どうやって倒したんだよ」


「吸収しきれんほどの魔力を与えれば破裂する。優秀な魔法使いが10人で一斉に魔法を撃ち続ければ何とかなるのじゃ」


 オーバーフロー狙いの一択か。結構キツいぞ。


「なかなか厳しい相手のようだな」


「そうじゃな……。エルフが作った最悪の兵器じゃ。儂らが始末せねばならぬ。

 もし発見したら教えてほしい。そのためにも絶対に逃げ切るのじゃ」


 爺さんは終始苦い顔をしていた。余程嫌な相手なんだろう。俺は……正直一度見てみたい。危ないことはわかっているが、好奇心が勝る。


「いろいろ教えてくれてありがとう。ここのことは誤魔化(ごまか)して上手く報告しておくよ」


 さて、どう報告したものか……。公表できないことばかりだからなあ。報告するのはリーズだ。念入りに打ち合わせをしておかないとな。



「ねえ、その生物兵器……? ていうのがよくわからないんだけど」


「ゴーレムとはどう違うのですか?」


 クレアとルナが困った顔をして聞いてきた。この世界の人たちには馴染みがないのかな。ゴーレムは命令に従うだけの動く人形だ。


「意思を持って勝手に動く、生きた武器のことだよ。(おおゆみ)に足が生えて勝手に動いていたら嫌だろう? それの100倍嫌な相手だと思ってくれ」


 地球の生物兵器とは違うけどね。地球の生物兵器は細菌とかウィルスだからロマンの欠片も無いよ。そりゃ使用禁止にもなるよ。ただのクソ兵器だ。

 雑な説明だったが、2人は心底嫌そうな顔をしている。いったいどんな想像をしたんだろうか。


 ……リーズはわかっているのか? 報告するのはリーズの仕事なのだが。


「うーん、よくわかんない! でもなんだか嫌な敵だね」


 やっぱり理解していないか……。でも下手に理解している方が口が滑りそうだから、それでもいいか。


「リーズは打ち合わせ通りに報告してくれればいいからな。余計なことは言うなよ?

 ルナとクレアも協力してやってくれ……」


 フリじゃないぞ? マジな方だぞ? 頼むよ? 大丈夫だとは思うけどね。


「はい。もちろんです」


「もちろんよ。忘れているかも知れないけど、アタシはあんたたちの指導係なんだからね?」


 ごめん、忘れてた。そういえばそういう建前で同行しているんだった。薬草については勉強させてもらったから、感謝はしている。



「ちょっと早いと思うけど、今日中に村を出ようか。早く報告したほうが良さそうだからな」


 大急ぎで帰れば夕方には王都に着けそうだ。6時間耐久全力疾走だが、無理ではない。


「そうね。大至急、森の探索を制限した方がいいわ。森の奥は進入禁止、森の探索はCランク以上というのが妥当ね」


 地域の危険度は現場判断が優先される。こういう判断が的確にできないと高ランクにはなれないんだな。参考になる。

 ところで、この措置が実行されると薬草が高騰するよな……。今のうちに薬草を確保しておきたいんだが、インサイダー取引にならないよね?


「そうと決まればすぐに村を出よう。テントを撤収したら出立だ。

 爺さん、そういうわけだからすぐに出るよ。世話になった。また来るから、その時はよろしく」


「ふむ……忙しないのう。銀とルビー、それに食料も分けてもらった。感謝しておるよ。

 金を準備しておくからの。次は金で買わせてもらうぞ」



 爺さんに別れを告げ、テントと周辺を撤収した。まだ早い時間なので、多少寄り道する時間はあると思う。

 有り難いことに、交易路が確保された。俺は商人じゃないけど冒険者のついでにできる副業だな。世界を旅するならみんなもやればいいのに。


「交易の真似事ならみんなやってるわよ? 調味料や魔道具が多いわ。たまに本や武器を商品にしてる人もいるわね」


 気になってクレアに聞いてみたんだが、割とポピュラーな副業だそうだ。商人ほど大規模なものではなく、個人規模で頼まれるらしい。


「商人ギルドが文句を言ってこないのか?」


「たった1人のお客さんのために商隊を動かすことはできませんから。逆に商人ギルドから依頼されることもありますよ」


 ルナが答える。ルナも結構物知りなんだよな、ギルドの仕組みとか。王城勤務で依頼する側だったから、仕事で覚えたのかも知れない。



「準備はいいな? 出発しよう」


 忘れ物がないか、やり残したことはないか。一通り確認して声を掛けた。この村にはルナがいればいつでも入れるから、もし忘れ物があっても特に問題は無いと思うが。



 今日は魔物の反応をすべて無視。速度を緩めず一気に駆け抜ければ襲われる心配はほとんど無い。先頭を走るリーズには、嫌な気配を避けるように言ってある。

 高速で走り抜け、ウォルファンが寝ていた沼に到着した。


「ここで一休みしよう。薬草の採取がしたい」


 さて。インサイダーの時間だ。採れるだけの薬草を確保したい。売りに出すのは3日後くらいでいいかな。たぶんいい感じに高騰していると思う。


「そうね。アタシも気になっていたのよ。高価な薬草が見えていたから」


 森の奥でしか見つからない薬草なら高値が期待できるぞ。

 ルナはメモの用意をしている。リーズは……走り回っているな。休憩の意味をしっかりと教えたほうがいいかも知れない。


「クレア、さっそく教えてくれないか?」


「まずは、これね。ヘンプという薬草なんだけど」


 クレアが沼から離れ、森の近くから数枚の葉っぱを採ってきた。その薬草は、開いた手のひらのような形をしたギザギザの大きな葉っぱ。テレビで見たことがあるやつだった。ニュースとか警視庁24時的な番組とかで。

 やべえ草だ。持っているだけで犯罪になるやつ。


「大丈夫なのか……?」


「大丈夫じゃないわね。あんたたちは採っちゃダメよ。Dランク以上じゃなきゃ扱えないわ」


 やっぱりか。一応免許制みたいになっているんだな。


「毒なのですか?」


「毒じゃないわよ。強力な痛み止めでポーションにも使われるけど、扱いが難しいのよ」


 やんわりとした解説だな。情報伝達が不十分なこの国では、情報を広めないというのも大事なことなのかも知れない。


「そんな怪しい草ではなく、俺たちでも採取できる薬草を教えてくれ」


「悪かったわね。これ、すごい高値で売れるのよ。

 毒草は全てDランク以上だけど、取り扱いに制限がある薬草は少ないわ。

 これならそこそこ高値で売れるわよ。シャクシャシャっていう薬草」


 その薬草は、沼に流れ込む沢のあたりで大量に群生していた。

 小さなギザギザの葉っぱがびっしりと生い茂り、葉っぱの隙間から瑞々しい茎が見える。


 どう見てもウワバミソウです。おいしい山菜です。薬草山菜説マジであるな。

 この山菜は根を薬や食用にすることもあるが、根を残して茎を刈り取るのがマナーとする地域もあったはず。この世界ではどうなんだろうか。


「これは根から抜いてもいいのか?」


「これだけ生えているなら根から抜いて。数が少ない時は茎だけ切り取るのよ」


 量で判断するのか……。アバウトだな。でもまあ従っておこう。

 ルナとリーズも採取に乗り出し、全員で採取だ。


 この後は初日に立ち寄ったシブキ群生地にも寄り、初日に採取した薬草をリリースした。日が経って枯れ掛けていたからな。新品と交換だ。

 結局、3人合わせてシブキとシャクシャシャをそれぞれ100株ほど採取できた。全部で200株くらいだ。クレアは正式なパーティメンバーではないので数に含めていない。


 さて、この薬草はいくらまで値が上がるだろうか。

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